ー 作品の話に戻るけど、今回は須藤俊明さんがベースを担当。
はい。事務所に所属して一番最初に組んだ人は中村キタローさんなんだけど、きちんとしたバンド編成は松江潤さん(Gt)と秋山タカヒコさん(Dr)と須藤俊明さんだったから、長い付き合いになるね。彼もすごく温厚で、色々な映像や風景が頭の中に見える人だから一緒にアルバムを作りたいと思って。
ー いいね。あと”君だけだ Acoustic Ver”は確か初音源だよね?
うん、初音源。
ー ファンの人たちにとても人気のある曲だから、待ち望んだ人も多いんじゃない?
この曲を愛してくれている人たちが多いのは嬉しいね。本当は音源にするつもりなかったんだけど…。
ー え、そうなの?
そう。でも、これは綺麗ごとに聞こえちゃうかもしれないけど、感謝の気持ちを伝えたかったんだ。「ありがとう」と言いたくて、聴いてくれる人たちに敬意を込めて今回入れることにした。この曲をライヴで演奏する時は弾き語りが多いから、出来ればその状態に近づけようと思ったんだけど、折角こういうセッションなので、ただ弾き語りだけではないこともしてみたくて、益子さんにコーラスを入れることを提案してみたんだ。
ー 長澤くんの歌声と、コーラスの質感の違いがとても面白くて。
マイクの位置や、益子さんが作る配置でハッキリ分かれているから彩りがあるように聴こえていると思う。
ー なるほど!音の聴こえ方で言えば“ボトラー”も他曲とちょっと違う、より生の長澤くんの声を聴いているように感じたんだけど。
素晴らしい!そう聴こえてくれるのは僕にとっても最高。
ー タイトルは底辺生活者のことかなと思いつつ…。
そこは聴く人の想像に任せたいな(笑)。
ー なるほど(笑)。でも「これは僕の映画なんだから」という歌詞で自分を解放させていると感じたんだけど。
秋山さんは、ふと虚無に陥るとか、突然気持ちが落ちる時ってない?
ー あるよ。
そういう時、僕の対策方法のひとつとして「今、自分はその“シーン”を生きているんだ」って、もうひとりの自分を置いて俯瞰して見るんだ。
ー 興味深いね。
小学校の時にいじめられたことがあったんだけど、いじめられている時って小学校という場所が世界の全てになってしまっていて、そこから逃れる方法が出てこなくなっちゃうんだよね。休むという方法もあるけどそれもなかなか出来ない。中学校や高校でも同じ。どこか旅に出て、時には親に心配をかけても良いと思うんだ。自分だけで抱え込んで死を選ぶより。他に世界があると思えることが大切だから、俯瞰して今を「シーン」として捉えるのもひとつだと思う。僕も最近、自分は大きな世界の中の一点をグルグルと回っているんだって、自分を小さい粒に見立てることで切り抜けようとするようになった。この曲もそういう感じなんだ。
ー “風鈴の音色”では村上紗由里さんがメインボーカル。彼女は自身の1st mini ALBUM『落陽』でも長澤くんの“風を待つカーテン”をカヴァーしているよね。
嬉しいよね。この“風鈴の音色”はギターを持ち始めてしばらくして書いた曲だから、とても古い曲なんだ。曲のことって、歌詞にしても聴く人の想像力を残したいからあまり話さない方が良いと思っているんだけど…家族旅行で沖縄に行った時に、ひめゆりの塔を見て、そこから色々なインスピレーションを受けて。美しい海があって周りも自然が綺麗で、その美しさで空がとても青いけど、ここで血戦があったという驚きとか。そういうことを思い返して書いた曲なんだけど、書いた時はまだ聖歌隊にも入っていたし若々しいというか(笑)、透き通っていた声だったんだけど、今歌うと特に高音が自分が望んでいる形にならなくて。それで村上さんのCDを聴いていた時に「あ、この人が歌ってくれたら作品の為になるかも」と思って、色々とやりとりしながら今回歌ってもらうことになったんだ。
ー キーはオリジナル?
いや、オリジナルは2つ低いかな。
ー 低いんだ!オリジナルの方が高いのかと思っていた。
最初、「Aのキーで大丈夫?」って聴いたら「Dでいきます」って言われて「D?!マジか!」って思ったよ(笑)。でも一番良い聴こえ方を模索したらBが良くて。
ー 最近ではこの曲、7月の【Nagasawa Tomoyuki Acoustic Live 2016】で歌ったよね。
歌った。でもやっぱり「こういう感じを伝えたいんじゃないんだよな」と思って。ただ一度歌うとそれが耳に残って概念化しちゃうじゃない。
ー 確かに。
それがちょっと悔しくて。僕は自分の歌でも自分の声が適していない場合は誰かにお願いしたいと思っているから、今回も彼女にお願いしたんだ。
ー ここまで話してきて今更なんだけど(笑)、改めてデビュー10周年おめでとうございます。
本当だね(笑)いや、でもありがとうございます!
ー 10周年という区切りは、新しく曲を作る上でも意識する材料になっていたりした?
気にしてはいなかったんだけど、周りの方から沢山おめでとうと言ってもらって、自分が思っている感じではないように人には見えるのかなと思ったんだ。でもそれならあえて抗う必要もないし、ちゃんと作品の中で「ありがとう」の気持ちを伝えていけるものにしたい。だからいつもイライラ尖っている自分を出すというより(笑)、優しいものにしたいと思ったかな。最近は、さっきも話したような死生観や、人が愛らしいと思うような平穏な気持ちだったから。でもそれが続くと、もともとくすぶっているその対極の方向に行きたくなって、まったく脈略がないくらいにガツガツしたものを作りたくなるかもしれなんだけどね(笑)。
ー そうやって色々な色や形、音を見せてくれるのは長澤知之ファンとしては嬉しいよね。
そうあってくれたら嬉しいね。「こういう世界観が好きだから、これでずっといってくれたら」となっちゃうと無理だから(笑)。
写真/杉田 真
取材・文/秋山昌未
■ オフィシャルウェブサイト
http://www.office-augusta.com/nagasawa/
01. 時雨
02. 舌
03. アーティスト
04. 君だけだ Acoustic Ver.
05. ボトラー
06. 風鈴の音色
07. 無題
Nagasawa Tomoyuki Live 'Gifted' 2017」
1月21日(土)東京キネマ倶楽部
16:00/17:00
問合せ:SOGO 03-3405-9999
1月24日(火)umeda AKASO
18:00/19:00
問合せ:GREENS 06-6882-1224
1月31日(火)福岡・照和
18:30/19:00
問合せ:キョードー西日本 092-714-0159
2月1日(水)福岡・照和
18:30/19:00
問合せ:キョードー西日本 092-714-0159