【レビュー】秦 基博『イカロス』

「この時代を⽣きる中で湧き上がるように⽣まれてきた」
新曲「イカロス」についてそう語る秦 基博。ギリシャ神話に登場するイカロスは自分の力を過信し太陽近くまで飛びすぎたことで羽をとめていた蝋が溶け、墜落死したと言われている。そのイカロスをタイトルにした今作のテーマは“喪失”。疑いもせず信じ続けた時の喪失感は計り知れない。しかし壮大なコーラス、ゆったりと大きなリズムの中に刻まれるピアノ、繊細でありながら希望を求めるサビの力強い歌声は、暗然とした心と傷ついた羽を引き摺ってなお飛ぼうとする“願い”のようなものを感じる。

秦と共にサウンドプロデュースを手掛けたのはトオミヨウ。二人の音楽的相性は「仰げば青空」やアルバム『コペルニクス』で感じていた。トリッキーなことをするわけでもなく、元来の秦の魅力も新たな秦の魅力も十二分に引き出している、そんな気が。
そして白い羽を燃やすゆらめきの先にコントラストの強い青空。King GnuやMr.Childrenのアーティスト写真なども手掛けるSEIYA FUJII氏のジャケット写真は説明のいらぬほど潔く、凛と曲へ導く。
更にこの曲を語る上では映画『イカロス 片羽の街』の話は必須だ。『イカロス 片羽の街』とは、3人の映画監督が「イカロス」にインスピレーションを受け、完全オリジナル脚本によって喪失と再生を描いた3つの物語を映画化したもの。それに併せMusic Videoも3作公開している。楽曲と共にMusic Videoや映画もチェックしたいところだ。