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開局30周年を記念しJ-WAVEとagehaspringsのコラボイベント開催!確かな技術と飽くなき情熱が交差した4日間!

October 15, 2018 18:00

agehasprings

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開局30周年を記念しJ-WAVEとagehaspringsのコラボイベント開催!確かな技術と飽くなき情熱が交差した4日間!

J-WAVE開局30周年を記念して、J-WAVEとagehasprings Open Lab.のコラボイベント『30th J-WAVE ×agehasprings Open Lab. SOUND EXPERIMENT』が、10月3日から10月6日の4日間に渡り六本木ヒルズ ヒルズカフェ/スペースにて開催された。

10月3日から10月5日の3日間は、音楽プロデューサー兼agehasprings代表の玉井健二プロデュースのもと、百田留衣、野間康介、大西省吾、森真樹というagehaspringsの気鋭のクリエイター陣が集結。「J-WAVE発 洋楽ヒット曲」を題材に、これからの活躍が期待される新鋭アーティスト達をゲストに招き、実際に制作の現場で行われているプロデュースワークを見せながらの公開レコーディングを実施した。そして最終日となる10月6日には、玉井健二、蔦谷好位置、田中隼人が一堂に会し、agehaspringsの音楽プロデュースや制作の現場に迫る3部構成のトークセッションイベントを実施した。

agehasprings_OpenLab_20181003_531.jpg1日目は、オーガニックなフィーリングが魅力の女性シンガーソングライター・Leolaを迎えて「ボーカル」をテーマにした公開レコーディングを実施。玉井とLeolaはこの日が初対面という事で、音楽に関する事やパーソナルな事までざっくばらんにディスカッションを行っていく。これはプロデュースをするにあたってLeolaというアーティストに対してチューニングを合わせていく玉井独自のやり方で、「これは僕の勝手な想像なんですが、多分、お酒が強いですよね?」というポップな質問も交えつつ距離を縮めていく。そして公開レコーディングに入っていくわけだが、先ずはLeolaが今回のカバー曲としてセレクトしたDes'ree「Life」をLeolaの解釈でカバーしたものを披露。アコースティック調にリアレンジされたLeolaらしい「Life」に仕上がっていて、これだけでも十分な完成度。そしてこのカバーを聴いた玉井は、「Leolaはハッピーを届ける人だと思う。」というプロデューサー目線での解釈と、この楽曲の歌詞の世界観から、さらなるハッピー度を目指してレゲエ調へのリアレンジを提案。サポートクリエイターとして参加した大西省吾がレイドバックしたギターリフでレゲエのグルーブを即興で加えていく。更に玉井は今回のテーマである「ボーカル」にフォーカスを合わせ、「きっちり歌わない、たぶんお酒が好きなLeolaが酔っ払った時の感じで。」という提案と、さらに「楽しそうな曲を歌う時は、逆に切なさを入れた方が響きやすい。」という理論から切なさを足す事を提案。Leolaのボーカルにもディレクションしていく。そして玉井プロデュースの元、オーガニックさはそのままに、レゲエ調にリアレンジされたLeolaによるDes'reeの「Life」は、よりハッピーなフィーリングをまといながらもLeolaのボーカルの魅力が更に引き出されたカバーに仕上がった。

agehasprings_OpenLab_20181004_401.jpg2日目は早耳リスナーの間では既に話題の京都の4ピースバンド・the engyを迎えて「GROOVE」をテーマに公開レコーディングを実施。the engyがカバー曲としてセレクトしたのは、彼ら世代のバンドは誰もが影響を受けたであろうMaroon 5の「Sunday Morning」。恒例のディスカッションパートでは、出身地が近い玉井とthe engyの地元トークに花が咲き漫才の掛け合いにも似た雰囲気で多くの笑いが生まれた。そして公開レコーディングへ。先ずthe engyの解釈によって“より踊れる曲に”とリアレンジされた「Sunday Morning」は、彼ららしさが反映されたミニマルながらもダンサブルなカバー曲に仕上がっていた。そのカバーに対して玉井は「Maroon 5のスティービー・ワンダーへのリスペクト」という原曲に込められた思いを汲み取り、スティービーの楽曲でよく使われる“クラビネット”の音を足し、よりグルーブ感を出す事を提案。キーボードを担当したサポートクリエイター・野間康介が即興で歯切れの良いクラビネットのフレーズをカバー曲に加えていく。玉井のプロデュースの妙も然る事ながら、1日目に参加した大西省吾やこの日の野間康介といったサポートクリエイターの対応力も素晴らしく、プレイヤーとしてバンドマスターとして数多くのLIVEステージに立ってきた経験値やスキルが改めて際立っていた。そして最後に玉井は「ボーカルがエモくなれるバンドは売れる傾向にある。」という理論から、Vo.山路に「最後のパートだけエモく歌って欲しい。」と提案。そうして仕上がったthe engyによる「Sunday Morning」は新しいthe engyの一面がしっかり見えつつも、彼らの魅力がより引き出されたグルーヴィーかつエモーショナルな楽曲に仕上がった。

agehasprings_OpenLab_20181005_118.jpg3日目は男性シンガーソングライターのPuskás(a.k.a 神崎克広)を迎え「アレンジ」をテーマに、C+C Music Factory「Gonna Make You Sweat(Everybody Dance Now)」をカバー。普段はループマシンを使い自らリアルタイムでトラックを構築していくPuskásだが、この日はサポートクリエイターである百田留衣によるサンプリングと即興アレンジによってトラックを構築していく事に。会場では自身のCubaseの作業画面をリアルタイムにスクリーンに映しながら、Puskásの「Everybody dance now!」というこの曲の印象的なフレーズとギターのカッティングをサンプリングし、その場でトラックを鮮やかな手捌きで構築していく百田。玉井に「生で録ったものより百田が打ち込んだものの方がクオリティが高い。」とまで言わしめる百田の技術はまさにプロフェッショナルの最たるもので、作業開始からなんと約1時間でトラックを仕上げて見せた。玉井曰く、アレンジで最も肝となるのは“コンセプト”との事で、今回のカバーのアレンジはPuskásが生まれた年に流行った曲を、生まれた年に流行った音色を混ぜながらアレンジするというコンセプトの元に進められた。タンバリンの音の強弱を敢えてつけなかったのも、1990年当時、打ち込みのタンバリンの音が出てきたばかりで、それに強弱をつけるという発想が無かったからという事実に基づいてそうしたという。経験値と総合知からなる玉井のプロデュースワーク、そして世界基準の技術を持つ百田のアレンジワーク、更にはプロデューサーとミュージシャンのスタジオワークという本来クローズドな空間で行われる作業工程をそのまますべて公開するという、まさにザッツOpen Lab.と言えるプログラムであった。

agehasprings_OpenLab_20181006_715.jpgそして4日目となる最終日には玉井健二、蔦谷好位置、田中隼人が登壇し、3部構成のスペシャルトークイベントが開催された。第一部に登壇した田中隼人は、自身のこれまでの音楽キャリアを振り返り、自らをプロデューサーであると意識した時のエピソードを吐露。そして自身が手掛けた2017年のヒット曲、DAOKO×米津玄師「打上花火」のアレンジの過程を、Cubaseの画面を見せながら実際の音を聴かせ解説。アレンジをする上で重要なのは「音楽の言語化と数値化」であり、自らがアレンジを手掛けた楽曲を商品としてどれくらい言葉で説明できるかが重要、という独自の理論を展開した。

第二部に登場した蔦谷好位置は目の前にキーボードを置いたお馴染みのスタイルで、蔦谷が近年の音楽史において最大の発明だという「サイドチェイン」をテーマに、各年代を代表するサイドチェインを使用した楽曲の数々を紹介し、サイドチェインを使用した蔦谷の最近のプロデュースワーク、KICK THE CAN CREWの「住所 feat. 岡村靖幸」を解説。更には、最近気になる若手のトラックメイカーなど自身の経験や音楽観などを交え紹介した。そして最後は蔦谷が考える美しい邦楽の一つとして、KIRINJIの「エイリアンズ」を紹介。KIRINJIに対してかなりの思い入れがあるようで、理路整然と楽曲の分析をするいつもの蔦谷とは違い、興奮しながら楽曲を解説するなどエモーショナルな一面を見せ会場を沸かせた。

最後に登壇した玉井は自身がプロデュースしたこの4日間のイベントの総括をしつつ、このイベントに込めた思いやこれからの未来について語り、現在、作曲用のAIを開発していると告白。「人間ではなくAIが生成する楽曲が必要な場面があり、音楽が主役でない場面での音楽はAIが作ればいい。」という見解を述べると同時に、「みな音楽を通して伝えたい事があるのにそこに到達するまでのハードルが多く、肝心な大切な思いが作っている途中で薄れてしまっている人達がおそらく沢山いて、その人達にも活用して欲しい。」というように、あくまで人とAIが共存できる音楽の未来を語った。さらには、「裾野を広げることで、たくさんの人にもっと気軽に音楽を作ってもらい、そこから新たなスターが生まれることを祈っている。」と強い思いを伝え締めくくった。後半は田中隼人と蔦谷好位置が再び登壇し、それぞれの玉井との出逢いのエピソードやこれからの音楽シーン、今後のagehaspringsおよび音楽プロデューサーとしての生き方について語り合った。

4日間に渡ってagehaspringsのプロデュースワークの妙、そしてクリエイターとしてのスキルやこだわりを実際の作業の様子やクリエイター自身の解説によって紐解いた『30th J-WAVE × agehasprings Open Lab. SOUND EXPERIMENT』。音楽業界の最前で日々音楽を生み出し続けるプロフェッショナルとしての矜持や経験に裏打ちされた確かな技術、そして職人然としたこだわりは勿論の事、クリエイター自身の人生においての音楽との向き合い方や、自分の人生にとって音楽とは何なのかというパーソナルな部分も髄所で垣間見る事が出来た今回のOpen Lab.は、これからクリエイターやアーティストを目指す人達や今現在活動している人達にとって確かな道しるべになった事だろうと思う。そうでない参加者にとっても、紆余曲折ありながらもその人生をかけて大きな何かを何し得たagehaspringsのプロデューサー陣の姿に、自分の人生における答えに近い何かを見いだせたのではないかと思う。

撮影:樋口隆宏(TOKYO TRAIN)