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上北健、配信シングル『ビューティフル』インタビュー

上北健、配信シングル『ビューティフル』インタビュー

March 24, 2018 22:00

上北健

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前回、KK時代から今に至る経緯や、コンセプチャルなステージへの想いを語ってくれた上北健。今回は3月9日にリリースされた配信シングル『ビューティフル』へ込めた想いと、2016年リリースの『TIDE』からはじめた楽曲にリンクする短編小説について、更には上北が常に軸としている考え方などを掘り下げてみた。力強くドラマチックでありながら、儚く繊細な上北の音楽へ対する想いとは?


ー 配信シングル『ビューティフル』を3月9日にリリースされましたが、同時に楽曲のコンセプトを書いた短編小説(コンセプトブック)の電子版(Kindle版)も配信。今までも『TIDE』や『LAYERED』で短編小説をリリースされていますが、何故小説を?

歌詞を書く時って、一度コンセプトをワッと広げたものを凝縮して音符にあてはめ、歌詞カードに収まるサイズに圧縮するイメージなんです。


ー ああ、なるほど。

最初に広がっていたものの中で削ぎ落とされたのは何だったんだろうと考えた時に、そこを再度組み上げる作業をしてみたんです。そしたらいつの間にか短編小説を書いていた状態で。


ー そうだったんですか。ということは、作るのは歌詞からですか?

『LAYERED』に関しては、歌詞と物語が同時進行でした。そういう表現の方法が自分の中で良いなと、ストンと落ちたような気持ちになったんです。それで音楽と短編でいこうと決めたのが『LAYERED』でした。でも『TIDE』と今作の『ビューティフル』は歌詞が最初です。


ー 今作の『ビューティフル』の短編小説も読ませて頂きました。とても楽しかったです。

本当ですか?ありがとうございます。


ー 読んだ後に楽曲を聴くと、まるで映画のエンディングテーマのように、楽曲が小説の世界を彩るというか。まず最初に、楽曲について改めて教えて頂けますか?

昨年の夏に【心の断面は美しいか】というツアータイトルのミニアルバムリリースツアーを回らせて頂いたんです。その時もタイトルに因んだコンセプトの台本を書いたんですが、結構そのテーマに引っ張られているというか、今思うとそこをスタートで“ビューティフル”という楽曲は生まれたんじゃないかと思っています。


ー テーマに引っ張られた…ですか?

ええ。本来はそのツアーで完結させるべきだったテーマが、ツアーが終わっても自分の中でまとまらなかったんじゃないかな。自分で【心の断面は美しいか】という問いかけのようなテーマを作って、それに対して台本も書いて歌ったけど、結局答えが出なかった。答えを求めるべき問いではないのかもしれないけれど、“結局、どうだったんだろう?”という気持ちが常に自分の中にあって。


ー その問いがスタートになったというわけですね。

はい。色々経緯はあったんですが、ぼんやりでもテーマに対して納得出来る思想が自分の中で固まるかなって考えたんです。でもなかなか答えが出なかった。でもある日、自分ベースで考えていたから答えが出なかったということに気づいたんです。


ー なるほど。

日常の中で色々なピースはあったんですが、その中で着目したのは「与えられなかったもの」がある人。世の中の人が当たり前に持っているものを与えられなかった人って、結構いると思うんです。でもそういう人には、生き様の強さみたいなものをすごく感じて、そういう人たちってどういうことを思い、どんな意思を持って生きているのか考えました。それでようやく答えが見つかりそうだったんです。与えられていない人に比べて自分は与えられている立場だし、僕の音楽を聴いてくれている人も、与えられている側の立場が多いはずなんです。勿論中にはそうでない人もいるでしょうが。


ー ええ。

そこにどういう風に答えを、そして今回の“ビューティフル”という楽曲として落とし込むかが最後の課題でした。そこで、与えられなかったことに対して一番最初に考えたのは、生きていく上で当然あるべき身体的機能。


ー なるほど。

でも身体的機能は兼ね備えているけど、思い悩んでいる人達もいると思うんです。揃っているからこその苦しみ。結局巡り巡って、与えられた人達にもそうでない人達にも「生まれ持った自分」というものに対して、無いものを求めながら生きているという意味では、同じように言葉が届くんじゃないかと思えたんです。だとしたら僕は、揃った状態で命を授かった者として、与えられなかった人の目線があることを気づくというか、分かっていく中で、本当の意味で人の心を考えられるラインに立てるんじゃないかということが結論だったんです。


ー 深いですね。

歌詞の中でも「強くいるのと同じだけ、弱さにも意味があると思う」と歌っているのですが、ここでは断定をしませんでした。一方、最後は「それらを知っている僕らだから、美しい心で生きるのだ。」と断定で締めくくりました。それが今回、心の美しさというものを考えた時の、僕なりのひとつの結論でした。生まれ持って千差万別な特別を持っている。それが人間である。それが人の心である。それを理解した上で生きることが心の美しさに繋がっていくことだろうと、やっと昨年の夏からのテーマに対する結論が、この曲で自分なりに出せた気がしました。でも本当の結論は最後まで生き抜いた時に分かることだと思うんです。だから結論というよりは、こうあればその結論に辿り着けるであろう指針が書けたと言うのが正しいかもしれません。


ー 今のお話を聞いていると、色々と短編小説と繋がる部分を感じました。まだ読まれていない方のためにもあまりネタバレは出来ませんが、小説でも身体的機能が与えられていないことに対して表に出ていますよね。

そうですね。つまりそこを考えることが大切だったんじゃないかと思ったんです。


ー 上北さんの作品は、本当は気付いてもらいたい気持ちや、光を求める闇、闇から見つけた光のような、「苦悩」が根底にあうように感じました。例えば“ゆらぎ”や“フォゥタァタァクシィス”、“約束”など。

“ゆらぎ”を書いていた時はそうではなかったんですが、最近思っているのは社会の中で、みんなが右を向いている場面ってよくあるじゃないですか。


ー ありますね。

でも、同じように右を向けない人や、みんなが右を向いているから自分もそれに従って右を向く人、間違っていると思うから私は左をむくんだという人がいると思うんです。僕も右を向けない人間だったんです。場合によってはみんなが右を向いているからそれに従ったり。だからそこに少なからずの生きづらさみたいなものは感じていましたし、そこを掬い取ってくれる何かがあれば良かったなと思うんです。

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