POPSCENE - ポップシーン
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SING LIKE TALKING、"今"を鳴らし、圧巻のバンドグルーヴを届けてくれた無観客配信ライブ!

August 30, 2020 14:00

SING LIKE TALKING

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SING LIKE TALKING、"今"を鳴らし、圧巻のバンドグルーヴを届けてくれた無観客配信ライブ!

今年9月で、デビューから32年。今もなおポップミュージック・シーンの最前線で活動を続けるSING LIKE TALKINGが、8月29日、キャリア初の無観客配信ライブ『SING LIKE TALKING AP2020 Deliver You <Day 1>』を開催した。

会場は、もともとツアー『Amusement Pocket 2020』でライブを行う予定だった東京・中野サンプラザ。コロナ禍で来場者の安全を第一に考慮したうえでの苦渋の開催見合わせだったが、この状況を逆に新たなチャレンジの場にすべく、彼らは敢えて無観客のまま、「(想いを)届ける」「(約束を)果たす」などの意味を持つ“Deliver”という言葉をタイトルに付け、ライブを配信の形で全国のオーディエンス(=“You”)へ届けることを決意。ここ数年、毎年必ず東京と大阪でライブを開催し、ファンとスペシャルな空間を創りあげてきた経緯があるから、今年の特殊な状況下でもその歩みを止める選択肢はなかったのだろう。ゆえに、メンバー編成も、SING LIKE TALKINGの3人はもちろん、加藤久幸(Dr)・河野充生(Ba)・金澤健太(Gt)・中島徹(Pf & Key)・露崎春女(Cho)という彼らのライブに参加経験を持つ凄腕ミュージシャンが顔をそろえ、“無観客”以外は通常と変わらぬ本気の体制でこの日のライブに臨んだわけだ。

ちなみに、今レポートを書いている僕は、新潟市に在住。近年は毎回、東京へ出かけて行ってSING LIKE TALKINGのライブを見てきただけに、こうして新潟の自宅で彼らの最新ライブを楽しむことになるとは…、「移動がない分、楽だし、ありがたいな」と思いつつも、“配信”という形でライブを観た後どんな感想を抱くのか、過去に経験のない緊張感と共に、午後7時のライブ開演を迎えた。

slt2020083001.jpgオープニング映像が流れた後、画面には各ミュージシャン――佐藤竹善・藤田千章・西村智彦のSING LIKE TALKINGプラス、サポートメンバーを含む総勢8名――がステージに登場する姿が映し出される。派手なセットもなく、ステージには楽器のみという極めてシンプルな構成だ。ここでまず驚かされたのは、メンバーのポジション。各自が互いの顔が見える形で向かい合い、ステージ上で大きな輪を作るような感じで位置取りをしている(結果、佐藤竹善は客席に背を向けて歌うことに)。無観客というシチュエーションを逆手にとり、より演奏に集中できるこのポジショニングは、ライブでも常に純度の高い演奏と表現を追求する彼ららしいスタイルだな、と感じる。実際、その成果はすぐに体感できた。演奏が始まり、我々の目と耳に飛び込んでくる“バンドの音”が、とにかく素晴らしい!いや、正確に言うなら、これはSING LIKE TALKINGの演奏の素晴らしさをいつも以上に詳細に確認できるスタイルなのだ。

自由奔放、伸びやかに歌いあげる佐藤竹善。効果的なキーボードで随所に鮮やかな色合いを加える藤田千章。独特のギターサウンドを気持ちよさそうに紡ぐ西村智彦。ベース、ドラム、ギター、ピアノ、コーラスとサポートメンバーの奏でる音も実によく聴こえ、各人のプレイを手元から次々と映しだすカメラワークも秀逸。この、通常のライブでは観ることができない視点でミュージシャン同士の音楽的コミュニケーションをダイレクトに伝えるのが、今回の配信ライブ最大の特徴だ。まさにSING LIKE TALKINGならではの音楽にどっぷりとつかれる至福の時間。そしてその喜びは――優れたミュージシャンが織りなす音のグルーヴを浴びる幸せは――ステージ上のメンバーも十二分に感じていたようだ。全員が楽しそうにプレイし、しょっちゅう笑顔をこぼす様子が、それを明快に物語っていたと思う。

新旧の楽曲を織り交ぜながら約90分間、見事な演奏を披露したその一部始終を書くスペースは残念ながらない。ただ、8月26日にリリースされたばかりのニューシングル『生まれた理由』のライブ初披露には一言触れておこう。文字通り今年のコロナ禍の中でSING LIKE TALKINGが創り上げた最新曲。メンバーもMCで「コロナ禍で世界が今こんな状況のなか、この曲がどんな風に届くのか――。どう捉えて受け取ってもらえるかは、聴き手の皆さんに委ねたい」と語りながら、CD音源とはまた違う生のバンドアレンジで演奏された『生まれた理由』は、曲の持つ幻想感に力強さが増し、聴き手の心に一層深く届く出来だった。西村智彦が作曲したカップリング曲『サアカスの馬』も、生の演奏によってノスタルジックな世界観がよりヴィヴィッドな仕上がりに。2曲とも今までのSING LIKE TALKINGのどの楽曲とも違う世界観を放っており、彼らが過去に寄り掛かることなく、常に“今の自分たちの音”を鳴らすバンドであることを象徴する新曲披露であった。

slt2020083002.jpgちょうど1週間後に、まったく違うセットリストで、しかも今度は都内某スタジオからと会場も変え、この配信ライブの<Day 2>を彼らは行う。これだけ魅力あふれる内容だったから、きっと今回観た方のほとんどが来週もご覧になるだろうし、<Day 1>を観なかった方にも「ぜひに!」と次回の視聴をお薦めしたい。それも、可能ならばできるだけ大きな音と画面で楽しめる環境を用意して――。オーディエンスがそれぞれの自宅で、SING LIKE TALKING が真摯に“今”を鳴らし、圧巻のバンドグルーヴを届ける様を気軽に楽しめた今回の配信ライブ。観終わった後、アーカイブ公開なしという点も含め、これはこれで貴重かつ“贅沢なライブ体験”だと感じたことを改めて記しておきたい。

次回『SING LIKE TALKING AP2020 Deliver You <Day 2>』は、9月5日(土)19:00にライブ配信がスタートだ。

文:笹川清彦
撮影:西槇太一



■ SING LIKE TALKING オフィシャル HP
https://singliketalking.jp

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