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海蔵亮太、亡くなった友人への想いと新たな挑戦。3rd アルバム『コトダマ』インタビュー

海蔵亮太、亡くなった友人への想いと新たな挑戦。3rd アルバム『コトダマ』インタビュー

March 1, 2022 18:00

海蔵亮太

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昨年、自身がSNSで言われた一言をきっかけに作った「サイコパスのうた」がTikTokで話題となった海蔵亮太。そんな海蔵亮太が2月23日に3rd アルバム『コトダマ』をリリース。今までは“歌手”としての色が強かったが、今作では積極的に作詞や作曲に挑戦。亡くなった人への想いを綴った実話のリード曲「会いたい会えない」や、海蔵自身の音楽ルーツを感じる「ここには 」。卒業シーズンにはピッタリの「旅立つ僕らに」など、今までの海蔵らしさだけではない新たな一面も垣間見えるアルバムとなった。今回はそんな『コトダマ』で作り上げた曲や想いを伺ってみた。


ー 今作『コトダマ』では、大半の収録曲の作詞作曲を海蔵さん自身が担当。その部分を踏まえて、トータル的にどういうアルバムになりましたか?

今回は数曲にわたり作詞作曲をするということが決まり、そういう意味では新しいチャレンジでした。そのチャレンジはサウンド面においても同じで、ちょっとディスコ風なものを作ってみたり、今までは盛大なバラードが多かったのでもう少し引き算の音楽も意識しました。極力楽器の数、それから歌詞の文字数も減らてみたんです。歌ってない、弾いてない行間の部分を楽しんでもらいたいというか、そこに音楽の魅力みたいなのを感じて欲しいと思い、そのコンセプトの元で作った曲もあります。そういう意味でも今までにない部分を色々引き出せたアルバムです。


ー 良いですね。曲を作るようになって音楽の聴き方とか向き合い方みたいな部分で変わった点はありますか?

今までは音楽を音楽として純粋に楽しんだりすることが多かったけど、今回プロセスの部分から積極的に携わってきたことで最近は音楽を聴く時に、どういう経緯でこの曲が出来たのか考えるようになりました。それと今までは作詞作曲家さんだけを主に見るような感じだったけど、編曲家にも目が向くようになって、今まであまり気にしていなかった部分をちょっと覗くようになった気がします。正直うまくいくか分からなかったですが、でもチャレンジさせて頂けたことはすごく良かったです。今回だけではなく次に繋がるアルバムだと感じています。


ー リード曲の「会いたい会えない」はすでに配信されていますが、この曲は亡くなってしまった“君”への手紙にも感じました。この歌詞は実話だとか。

そうなんです。僕が10代の頃、友人が突然亡くなってしまい、ずっと仲が良かったのでやっぱりショックでしたね。特に10代の頃って、なかなか自分の身近に“死”というものがなかった分、今でもその衝撃は覚えています。あの時に伝えたかったことや、もっと仲良くすることが出来たんじゃないかみたいな、ちょっとした後悔みたいな部分があったので、そういう想いが大人になってもあるということは、何か形にして残すべきかなと思って曲を作りました。


ー その子とはどういうことをして遊んだんですか?

遊んだというか、僕、小学校の頃に野球のクラブチームに入っていて、その子はその時のキャプテンだったんです。だからいつも、土日とかは一緒に野球をやりながら家族ぐるみで仲良くしていました。だからもっぱらその子とは野球ばっかりしていたかな。で、その子が中学校に上がり、親の仕事の都合で遠方へ行って亡くなってしまい……。でも、もういないんだという現実を受け入れるまでは結構時間がかかりましたね。今でもたまに思い出すんです。やっぱり僕の中では結構大きな出来事だったので、それは忘れちゃいけないことなんじゃないかなと思って、今はこうやって歌わせていただいてるし、曲にするべきかなと感じたんです。


ー 1st Album 『Communication』では、さかいゆうさんの「君と僕の挽歌」をカヴァーされましたが、さかいさんの親友が亡くなられたあの曲を歌った時も、海蔵さんはそのご友人を思い出したりしたんでしょうか。

そうですね。何かしら精神についての話題になったり、それこそ「君と僕の挽歌」のような曲を歌ったりする時、僕は必ずその子を思い出すんです。ただ亡くなってから結構時間は経っているし、自分も大人になってるので、ある程度冷静になろうみたいなところはあってレコーディングではきちんと歌えたかなとは思うんですが、綺麗には歌えなかったかもしれません。リハーサルで何回かピアノの方と合わせて気持ちを作ってレコーディングに挑みましたがいわゆるせーの録りをしたんです。ただ、録り直しもあまりしませんでした。ある意味、その生々しい部分は良い形で残っているのかなとは思っています。狭い空間のイメージというか、広く歌うというよりはピアノと自分だけの世界観。そういう距離の中で歌う方が良いと思って、楽器はピアノのみにしました。


ー それがかえって歌詞の世界を引き立たせている気がします。それと例えば声の震えなどは、まさに今言われた生々しく海蔵さんの心の機微を感じられました。今までとは違う歌の表情というか。歌詞も飾った言葉がない、まさに手紙のようで。

本当はもっと伝えたいとか書きたい、言いたいことはあったんですが、もし本人を目の前にしたが、そんなに沢山の言葉は言えないなと思って、その言葉たちも減らしました。なのでそういうのが伝わるってことはすごく嬉しいです。


ー 私も友人を亡くしているのでこの曲を聴いているとその人のことを思い出します。

ああ、なるほど。僕もその後、身近な人が亡くなる経験は何度かあるんですが、その時その時で後悔することって本当に多くて……。後悔というか、相手に伝えたくても伝わらなかったり、実際にお葬式とかに行った時、すごく安らかに寝ている姿を見ると、“これから自分はこの人の分まで、もっと胸を張って生きていかなきゃいけないな”とか思うことがすごく沢山あるんです。ただそういう部分を歌にするっていうのが僕の中ではすごく難しくて……。なので今回は難しいなりに自分が何かを伝えようとした結果、こういう感じになったんだろうなって、完成した音源を聴い時にそう感じましたね。


ー でも海蔵さんの想いはとても感じました。

ありがとうございます。そうだと嬉しいです。


ー そして「君を好きになることが どんな罪になるって言うの?」はギターのアグレッシブなサウンドが更に歌詞の切なさや熱い想いを際立たせていますね。

この曲は自分の話ではなく、自分の友人と何気ない会話の中で聞いた話というか、その友人の感情を僕なりに曲にしたんです。あのアグレッシブなサウンドは、編曲をしてくださったSUIさんや、ギターを弾いて頂いた武藤良明さんの現場の熱量みたいな部分から出来上がったと言っても過言ではないです。エッジの効いたギターはレコーディングでみんなのテンションが一番上がってた気がします。多分歌入れよりテンションが上がってたんじゃないかな。


ー え、それってちょっと悲しい気が……(笑)。

いいんです、いいんです(笑)。それぐらいに気の知れた人たちと制作が出来たので、「そこで今日イチのピークを持ってくるのか!」みたいに自虐しながらレコーディングしていました(笑)。ただ僕も出来上がりを聴いた時に、さっき言っていただいたように悲しい曲ではあるんですけど心の中の熱い想いみたいなところをメロディーラインで表現してくださってるので、僕も上手く歌うというより、想いのままに熱く歌ってみました。


ー 今作ではこの曲含め何曲か「サイコパスのうた」でも共作したおだともあきさんと一緒に作曲されていますが、おださんのTwitterを見ていたら「冒頭1時間はくっちゃべり(笑)」と書いてあって(笑)。

そうですね。おだくんと曲を作る時って、いつもそんな感じで(笑)。具体的な曲作りというより、多分お互い何となく頭の中でイメージみたいなのがあってそれを少しずつ擦り合わせていていくというか、僕らの雑談ってお互いの歩幅を合わせる時間なんです、きっと。なので雑談によってお互いがお互いの良いところを見つけあえて曲が作れる気がするというか。まぁそういう無駄話ありきの作曲みたいな(笑)。でもやっぱりおだくんと曲作りするのは楽しいです。例えば「僕はこういう曲調が好きなんだよね。」って言いながら具体例として、色々なアーティストさんの曲の自分が好きな部分を示すんですが、それをおだくんが全部聴いた後に「あれ?これキーは違うけど、もしかして全部コード一緒かもしれない。」って言われたことがあったんです。それは僕も分からなかったことで。


ー 面白いですね。じゃあ海蔵さんが好きなコードっていうのがやっぱりあるんですね。

そうなんです。この言葉に対してはこういうメロディーやコードが好きっていうのが見つかったのひとつの発見でもあり、やっぱりビックリしました。多分自分一人だったら気付かなかったと思うんで。


ー 海蔵さんって曲作りの時はソフトを使うんでしたっけ?

いえ、僕は鼻歌です。楽器が苦手なのでお風呂場で鼻歌を歌って(笑)、それをおだくんと音符にしたりちょっとコードを合わせてみて、“あ、そのコードだったらもうちょっとこういう歌い方にしようかな”みたいな感じで、結構うまい形で分担してますね。


ー 楽器に挑戦するつもりは?

う〜ん……楽器は今のところ、ちょっとまだかぁ…(笑)。


ー 観てみたいな、海蔵さんがライヴで弾くピアノ!

ピアノちっちゃいんだろうな(笑)。

<一同爆笑>


ー それと「旅立つ僕らに」はこれからの卒業シーズンにピッタリな曲ですね。

僕の周りでも今年学校を卒業する知り合いが何人かいるんですが、こういうご時世だからなかなか思うような卒業式ができなさそうで……。


ー あぁ確かに。

僕自身は学生時代の卒業式をすごく覚えていて。別れのタイミングでもありますが、今までみんなと過ごした時間を自分の中で消化できるというか、思い出としてちゃんと納められるのが卒業式だと感じているんです。それがあったから次のステップに新しく一歩踏み出した自分もいたと思っていたので、晴れやかな気持ちだけで学生生活の最後を迎えられない皆さんにとって、少しでも歌の力で新たなステップを踏めるお手伝いが出来たらなと思ったんです。だから沢山の人に聴いてもらいたいですね。