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藤巻亮太、配信シングル「Heroes」インタビュー

藤巻亮太、配信シングル「Heroes」インタビュー

January 13, 2020 12:00

藤巻亮太

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ー『ウルトラマン クロニクル ZERO&GEED』は「ウルトラセブン」の息子として初登場してから10周年を迎え、親子ヒーローとしていまもなお絶大な人気を誇る「ウルトラマンゼロ」の武勇伝をこれまでの登場作品から総集セレクトした番組。今までにあまりないタイプの番組だと思うのですが、「Heroes」はどういう点を大切に作られましたか?

まず、“ウルトラマンって何なんだ?”というところから考えました。子どもの頃は物語の深い部分までわからず、ただ格好良いっていう目線で見るじゃないですか。


ー「怪獣をやっつけろ!」とか。

そうそう。でも大人になると当然もっと違う見解もしなければいけないと思うんです。今回は円谷プロダクションのプロデューサーの方としっかりお話をすることが出来たんですが、その方とお話をさせて頂けたことが一番大きかったです。


ー どういうお話を?

ウルトラマンというのは、昭和から始まって平成を駆け抜けて令和へ続きますが、その時々の時代をすごく反映しているんです。昭和は経済成長があり、その中で社会が持っている正義や悪を表しています。それが平成になってくると時代がより多様化してくるので、正義と悪も多様化するんです。そこでウルトラマン自身が悩み始めて悪のウルトラマンも出てくる。それまでのように「絶対に悪い奴がいて、それを倒すんだ」ではなくなるから。

ー ああ、なるほど!

そこで時代を映す鏡だということが分かったんです。日本人の思考の変遷を話の中で辿りながら令和になったここから先、ウルトラマンはどうなっていくのか。この『ウルトラマン クロニクル ZERO&GEED』はその第一弾でもあります。先程、今までにないタイプとおっしゃった通り、この作品はオリジナルではなく傑作選なので、ひとつのウルトラマンだけにスポットを当てるのではなく、ヒーロー達がどう生きてきたのか、音楽として作れたらテーマ曲としては多分正解なんじゃないかと考えたんです。だから「Hero」ではなく「Heroes」と複数形にしました。そのプロデューサーの方に聞いた話なんですが、子どもに「ウルトラマンになりたい?」って聞くと「えー、大変そうだから嫌だ。」って言うんですって。


ー それは何か意外だし、妙にリアルですね(笑)。

そうですよね(笑)。でも、仮面ライダーだったらなりたいんですって。つまり等身大かどうかで違ってくるらしくて。仮面ライダーは人間らしいサイズだけどウルトラマンって、ものすごく大きいじゃないですか。


ー 確かに。

だからウルトラマンにはヒーローとしての憧れはあるけれど、どちらかというと応援したい気持ちが強いらしいです。 ウルトラマンという圧倒的な存在を応援したい……こういう在り方ってウルトラマンならではなのかなと思うし、応援したいって子どもからの目線なんですよね。でも大人の目線で見た時に“それだけで良いのか?”という疑問が沸いてきて、それが歌詞を書く起点になりました。ヒーローってただただ人間の為にすべてをかけて戦ってくれているじゃないですか。


ー ええ。

それに対して無力の人間は何が出来るかというと、本当の意味で心から応援する。それはもはや応援というより“称える”ことだと思うんです。スーパーヒーロー達を、しっかり称える人間性を持った大人になっていかなければいけない。大人の目線としてその重要性を感じました。


ー だから歌詞に「称えよ」と出てくるんですね。お話を伺うまで、この部分が少し気になっていました。

“称える”って、憧れや応援をひとつ超えた言葉だと思うんです。今は古今東西、様々なヒーローがいるしアメコミは映画にもなって大人気だし、特に勧善懲悪なので正義と悪のどちらかが滅ぼすまで戦い続けますよね。


ー まさにある意味、ヒーローものの典型というか。

そうそう。それって正常的だし、それでめでたしめでたしとなる。ただウルトラマンを突き詰めていくと、もしかしたらそういう構造じゃないんじゃないかと考えたんです。特に「ウルトラセブン」は人間を助けるけど、その中に「人間って本当に正しい存在なのか?」というテーマが隠されているんです。何故なら人間は戦争もしてしまうし、愚かな部分もある。そういう<光>と<闇>を両方持っているのが人間なので、実はどちらかがどちらかを滅ぼすストーリーではないんです。そういう意味でもウルトラマンには東洋的な思想があるんじゃないかな。つまり<陰>と<陽>。太陰太極図という、黒と白の模様があるじゃないですか。


ー 白と黒の勾玉が上下についたような。

それです。あれはまさに<陰>と<陽>を表していますが、どちらが正しいかではなく、バランスが取れていることが重要というか、一番良い世の中の在り方なんじゃないかと思ったんです。闇があるから光もあって、光があるから闇もある。それらは補完的な関係だから「本当の意味での悪」は、その調和を乱すもの。調和を乱すものに対してもう一度調和を取り戻していく為の正義を司っているのがウルトラマンだと思うんです。その調和を乱すものは怪獣だったり、時に人間だったり。


ー 深いですねぇ…。

ウルトラマンって勧善懲悪でない分、結構深いんですよね。どちらもあるんだという深さと大きさを持ったヒーローというのは、ウルトラマン以外あまりいないんじゃないかなと思います。ウルトラマンを観る対象年齢は3歳〜6歳と言われているので、どこまでそういう深さや歌詞で言っていることが伝わるかは分からないですが、<正義>と<悪>について、少なくとも大人は真剣に考えなきゃいけないんですよね。子どもってすごく純粋で柔軟だからこそ良いものを届けなきゃいけない。それは円谷プロダクションさんの精神でもあるんです。