POPSCENE - ポップシーン
POPSCENE - ポップシーン
松室政哉、2ndシングル『僕は僕で僕じゃない』インタビュー

松室政哉、2ndシングル『僕は僕で僕じゃない』インタビュー

June 25, 2019 18:30

松室政哉

0
シェア LINE

ー c/wの「Hello innocence」は個人的にも大好きな曲だから、やっと音源になって嬉しいですよ。

ありがとうございます!だってこの曲って、2015年に密着してもらった時の音源ですからね。


ー そうそう。特に夢の中を表現しているようなイントロのバイオリンがやっぱり映画好きな室くんならではの表現だなと思って。

そうですね。まさにいつかの前衛映画に流れてきそうな感じ(笑)。ストリングスのレコーディング前にそれぞれの楽器がそれぞれの方法でチューニングをしているからああいう感じの音がスピーカーから聴こえて来るんですよ。何かそれがイメージしていた世界観そのものな気がして、ああいうイントロになりました。


ー ストリングスもそうだけど、自分で演奏しない楽器に対してどう伝えるのか気になるんだけど。

ミュージシャンの共通言語みたいなものは自然に出てきているんですよね、多分。それは例えば、「The Beatlesのあの曲の感じ」かもしれないし色彩かもしれない。それこそ言葉のキャッチボールしながら実際に音を鳴らしてみてまた話し合う。その繰り返しですね。


ー「きっと愛は不公平」でも内面から溢れ出す悲痛な叫びを描いていたけど、この曲はもっと内面というか、自己に向いていますね。改めて曲の発想を教えてください。

曲の原型自体は大阪時代に作っていたものですが、当時からすでにバンドサウンドでシリアスなストリングスが鳴っているイメージがあって、その中で“Hello,innocence”という言葉が出てきてそこから広げていったんです。「きっと愛は不公平」は同棲していた彼女が出ていったというストーリーがあるじゃないですか。


ー ええ。

それに対してこの曲はそこまで明確なストーリーを描いていないんですよね。でも誰もが胸に秘めている後悔…例えば人を傷つけることを言ってしまい「ああ、あの時何故自分はあんな酷いことを言ってしまったんだろう。」って何年も後悔し続けるとか。ことの大小は関係なく、そういう「後悔」をテーマに曲を作りたいと考えたんです。言葉のチョイスやサウンドも相まってダークな世界観になりましたが、やっぱりサウンドが引っ張っていってくれたことが大きいかもしれないですね。


ー このサウンドは本当にひとつの独特な世界を持っているから分かる気がしますね。それによって歌詞は勿論だけど、歌い方も変わったりしました?

そうですね。 2番のサビが終わったところなんて全部の音が鳴ってますからね!ストリングスに、エレキも2本鳴ってるしベースもドラムも。そういう中で歌を聴いてもらおうとすると、どうしたってエモーショナルになっていきました。でもそれはレコーディングで自然にそうなったと言うのが正しいかもしれません。


ー 俯瞰して歌詞の世界観を描く作品が多いけど、実は内面をえぐるというか主観で描くことも得意なのかなと…。

あー…得意というか、ひとつの表現したいものとして僕の中にあるのは事実ですね。ストーリーのある映画的な作品づくりも好きだけど、もっと魂をえぐっていく作品が作りたい気持ちもあります。


ー ライヴでもお客さんが曲の世界に入り込んで真剣な眼差しで聴いていますよね。

ありがたいですね。でもこの曲ってデビュー以降はまだライヴで演っていなくて。


ー え、そうだったっけ?

そうそう。あれはまだインディーズ時代だから。でもこの曲が一曲あるだけでライヴ全体の印象が変わってくるなと思うし、デビュー前にレコーディングして早く出したいと思っていたけど、曲が曲なのでどのタイミングで出して、どの曲と合わせるのが良いかずっと考えていたんです。でも今回「僕は僕で僕じゃない」が出来た時に、“あ、此処な気がする”って思ったんです。決して同じような内容を歌っているわけじゃないけど「僕は僕で僕じゃない」を最後まで聴いてもらった時に生まれる微かな希望を、この「Hello,innocence」が際立たせてくれる気がして。だからこの2曲がひとつの作品に収録されたのはしっかり意味があると思います。


ー もしこの曲を、現存する映画のテーマ曲にするとしたらどんな作品?

後悔と許しの物語って結構映画で語られているテーマなんですよね。それは日本だけにとどまらず全世界ね。そんな中でまず邦画だったら「悪人」。何であんなことをしてしまったんだと思うけど、それはその時その瞬間の自分の選択なんですよね。でもそのことを悔やめる人に出会ってしまい…。まぁ、人を殺してしまう物語なので極端な例だけど、実は人間の後悔をテーマに作られているんです。それと洋画だとスウェーデンとデンマークの「未来を生きる君たちへ」。この作品はアカデミー賞の外国語映画賞部門で受賞しているんですよ。


ー そうなんだ。

この物語はある人が難民キャンプで国境なき医師団みたいな仕事をしていると、権力を誇示する為に女子ども関係なく暴力を振るう極悪人がある日怪我して運ばれてくるんです。そこで「こいつを助けて良いのだろうか?」って悩むんですよ。医者としては助けなければいけない。でもそいつが戻ったらまた弱い者が殺されるし…と葛藤があって。それと同時に子どもたちの学校のいじめの話があったりして色々なことを描いた映画です。すごく許しと暴力という重たいテーマだけど、その先に少しの光を感じられたりもする。あえて挙げるならその2作品かな。


ー 2作品とも観たことがなかったから、今度是非観てみます。

是非是非。そういえばこの間聞いた話で面白かったのは、自分が経験した辛いことや苦しいことを、例えば10年後に思い出しても胸のあたりが詰まるじゃないですか。


ー 確かに。

その時の気持ちって、当時経験した時と全く同じ作用が身体で起こってるんですって。 決して減ったりしないものだと。


ー ええ、知らなかった!

それが科学的に正しいのか分からないけど、でもそれってすごく意味があるなと思ったんです。人間が生きていく中でそういう経験をしたことを忘れてしまってはまた同じ過ちを繰り返しちゃうし。そういう後悔みたいなものって本当はない方が良いけど、生きていれば絶対ありうることだし、不可抗力もあるだろうし。


ー じゃあ、松室くん自身のそれほど重くない最近のプチ後悔は?

「アベンジャーズ/エンドゲーム」を観に行ったんだけど、もう少し後ろ側の席でも良かったかな(笑)。いや、世界には入り込めたけど、キャラが沢山出てくるから引きで観ないと。次はもうちょっと後ろの席で…。


ー アハハ!松室くんらしいプチ後悔だ。6月28日には自主企画の対バンライヴ【Matsumuro Seiya presents "LABORATORY" session1】(以下: "LABORATORY" )を開催。記念すべき1回目の対バン相手wacciさんとはいつ頃からのお知り合いなんですか?

橋口(洋平)さんのラジオでゲストに出して頂いてからなのでわりと最近ですね。その後、橋口さんとは5月に京都で弾き語りの2マンライヴでご一緒しましたが、wacciとして対バンするのは初めてなんですよ。橋口さんの作る曲ってずっと気持ち良いんですよね。特にメロディは、ポップミュージックとして一番痒いところに常に手が届く。それってすごいこと。でもバンドなのでやっぱりエモーショナルな部分もあるし、バンドとして王道に向かっていく人たちってそんなには多くはない気がするんです。そういうところは素直に凄いなぁと思えるし尊敬もしています。