ー 撮影はどのくらいの期間で?
三日間でした。一日目は航希くんと萩原みのりさん二人の幸せなシーン。二日目は航希くんが独り残されたシーン。三日目は僕が歌うシーンを撮ったんです。まず一日目は萩原みのりちゃんが現場を引っ張ってくれて。凄いんですよ!20歳ですよ、まだ。
ー それで現場を引っ張るってすごいな。
MVだから台詞がないじゃないですか。
ー ええ。
だから当然台本もないけれど、日常っぽく撮りたかったから僕がシーンごとのシチュエーションや状況を説明するんです。そしたら二人がアドリブでずっと喋っていてくれて!MVなので台詞自体の音は普通は使わないから、変な話だけど全然違う会話をしても構わないのに二人ともその役としてずっと喋っていてくれるんです。
ー きちんと仕事に向き合う姿勢は素晴らしいね。
すごいですよね。 で、二日目は航希くんが現場に入ってきた段階で、ちょっと悲しげなんですよ。自分は今日、独り残されたシーンを撮ると分かっているから。でも僕、最初気づかなくて、後から「ああ、そういうことか!」って。だからそれもすごく良い勉強になった。なるほどねって。実際二日目の撮影の中では、航希くんが現場の空気を作ってましたね。撮りながら僕、泣きましたし。
ー そうだったんだ。でも分かる気はします。現在公式の動画サイトで流れているのはショートバージョンですが、私も最後まで観させて頂きました。
そうですか!先ほど言ったみたいに、二人がアドリブでやってくれた会話も素晴らしくて、結果的にそれも使いたくなって、完全版は10分ぐらいの大作になりました。ちょっとした「間」も含めてぐっとくる映像になったと思うので、是非皆さんにも観て欲しいですね。
ー あのラストは泣く!やられたーって思いましたもん!
そうやって思ってくれたのは嬉しいな。あの時の航希くんの表情が本当にすごいでしょ!
ー うんうん!
だからあの撮影日の夜は眠れなかった。一本映画を観たような気分で。
ー そういう現場になったというのは素晴らしいよね。勿論そこには俳優さんや栗山さんの力が絶対的にあるにせよ、松室くん自身、無類の映画好きということもあり、監督としての才能が花開いたのでは?
才能が花開いたかどうかは分からないけど、撮りたいもの、表現したいことがハッキリしていたのは演じやすかったと萩原さんも航希くんも言ってくれました。でもそれって音楽も一緒だと思っていて。特にシンガーソングライターの場合は、レコーディングやライヴでミュージシャンの方たちに演奏してもらう上で、楽曲のイメージを明確に伝えなきゃいけないじゃないですか。
ー そうだよね。
自分が考えたものを色々な人の力を借りて表現する時は絶対に必要なことで、それは音楽でもMVでも共通していると思うんです。 きっと何かを創るって、そういうことなんでしょうね。
ー サウンド面の話をすると、この曲を聴いた時に、個人的に山崎まさよしさんの” One more time,One more chance”を聴いた時と同じ、切ない感情が突き上げてきました。 曲が似ているという意味ではなく、聴いた後に残る感情の部分で。
ああ、なるほど!それは嬉しい。
ー サウンド面で特に意識した点は?
今回は前作のタイトル曲、“毎秒、君に恋してる”の時と同じく、楽曲アレンジを河野圭さんにお願いしたんですが、サウンドテーマとしては少し前のイギリスのロックバンドのバラード。例えばOasisとか。
ー はいはい!
Oasisみたいなロックバンドがストリングスを入れたらこういう雰囲気ではないか?というのがひとつテーマにあって。だからイメージとしてはバラードというよりロック。乾いた音であったり、ストリングスもちょっとヒリヒリと鳴っている。そういう音を目指しました。ドラムはあらきゆうこさんが担当してくださったんですが、普段ドラムを録る時に立てるマイクの半分ぐらいの本数で録ってるんです。そうすることで生まれる粗さみたいなものが、この曲のエモーショナルさやヒリヒリした感じに繋がっていて。僕の楽曲の中でも今迄にはないバラードというか、決して綺麗なだけのバラードにはしたくなかった意識は制作チームの中にありました。
ー このレコーディングに少しだけおじゃまさせて頂いた時に、河野さんが「あまり奇をてらうようにひねたことをするより、しっかり聴かせる部分は聴かせる」というお話をされていましたよね。だからロックバンドのバラードというコンセプト通り、美しさの中にヒリヒリ感を持たせることでメリハリを生んでいるのかなと。
そうですね。曲としてのメリハリもそうなんだけど “毎秒、君に恋してる”とのメリハリもあって、そういう意味では面白かったです。あと、ゆうこさんのドラムって母性を感じるんですよね。女性の包み込むような感性というか。この曲でそういう演奏をしてもらうのはすごく意味あることだと思いました。
「きっと愛は不公平」レコーディング風景
ー あらきさんのドラムで言うと、最後のサビに入るところが“Free As A Bird”みたいで好きなんですよ。
(ドラムを叩くジェスチャーで)ダンダン!ってね。あの感じはなかなかないですよ。一種無骨なように聴こえつつ、実はあの部分がすごく曲としては効いていて。
ー ドラムに関してはハイハットの開閉についてもかなり細かく指示をされてましたね。
そうそう。タイミングとかね。あれでロックバラードとしてのニュアンスが結構決まってきたりするんだなと、見ていて勉強になりました。
ー c/wの“踊ろよ、アイロニー”。ライヴでは何度も演奏されていて盛り上がる曲だけど、あれは…2年前?
もう二年半になりますね。
ー ポップシーンとしても一部密着させて頂いたあのレコーディング合宿での音源を、やっと皆さんに聴いてもらえる日が来たね!
そうなんですよ!あの場所で録った音源はまだ一部しか発表していなくて。当時「今日は○○さんとレコーディングです」ってSNSによくUPしていたから、多分見ている方達からすれば「これは一体何を録っているんだろう?」って感じていたんじゃないかな。だから今回、“踊ろよ、アイロニー”でコウキくん(オカモトコウキ/OKAMOTO’S)や啓ちゃん(岡本啓佑/黒猫チェルシー)がレコーディングに参加している情報が出た時に、あっ!」って思ったんじゃないでしょうか(笑)。