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「LOVE&PEACEって具体的に何?」高橋優が伝えようとしたこと。アルバム『ReLOVE & RePEACE』インタビュー

「LOVE&PEACEって具体的に何?」高橋優が伝えようとしたこと。アルバム『ReLOVE & RePEACE』インタビュー

November 2, 2022 18:00

高橋優

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ー 「あいのうた」は優くんがリアルタイムシンガーソングライターだと改めて感じました。特に最後の“生き抜いてまた会いましょう この世のどこかで”という歌詞は、コロナだけでなく今の世の中これ以上のリアルはないなって。

実は何を歌ったら良いか分からなくなった時期が結構長く続いていたんです。昨年の夏から去年の年末ぐらいにかけて分からなくて、でも今年入ってからもやっぱり分からなかったんですよね。


ー それは何故?

大きな要因としては今の世の中、みんな何が欲しくて何が要らないのか、何が希望で何が絶望なのか、そういうことが自分の中で全然分からなくなってしまったことです。例えば僕にとっては「そんなの誰が見たって無しでしょう!」と思っていることを喜んで受け取っている人がいたり。この「あいのうた」を書いてる時もぶっちゃけそういうことがあまりはっきり見えてはいなくて。でももしかしたら、この時代自体がはっきり見えなくなっているのかもしれないと考えたんです。自分だけではなくそう思っている人が沢山いるんじゃないかって。


ー 実際、コロナ渦以降SNSなどで色々な発言を目にすると、こんなに価値観って違うのかって愕然としたことはありました。

でしょ。だから<希望を求めて>とかではなくそれこそ今、取り沙汰されている言葉や誰しも一度は見たことがある、聞いたことがある言葉をMCで言うかのように、「こどものうた」や「素晴らしき日常」を書いた時のように書いてみようと思ったんです。あとやっぱり戦争が始まったのも要因にはあったと思います。戦争が始まると<LOVE&PEACE>ってみんなよく言うじゃないですか。


ー ええ。

でも“<LOVE&PEACE>って具体的に何?”って思ったんです。自分自身も結構そこら辺でこじれている部分があるんですが(苦笑)、曲を書く上ではそこを包み隠さず出すことがまずは1歩目かなと。だって<LOVE&PEACE>と言うからには、本当にその中で生きていなきゃ駄目というか、言えない気がするんです。でも僕は真っ当な人間ではないというか、この曲で“僕はクズでも構わない”と歌っていますが、実際自分でそういう風に思う時もありますしね。「福笑い」みたいな曲も歌っているせいか<高橋優>に対して爽やかで明るいイメージを持っている人もいるし、そこはそこで大切にしていかなきゃいけないんですが、それでもアルバムの1曲目では自分の本当の表現と言うか、爆発させても良いところでは起爆剤を沢山詰め込んだものに火をつけていかないと、自分の中で不発弾ばかりになりそうでそれは絶対良くない気がしていて……。この曲では、“世界平和を祈って唄うような柄ではないので”とか、“愛と平和の歌が聴こえる イヤホンで聞こえないようにする”と言ってしまっているけど、そういう部分は聴いている人たちにも「どうですか?」って問いたいところではありますね。


ー この曲は今言われたような歌詞の深さだけでなく、サウンドもやはり気になっていて。イントロからヒリつくアコギの鳴りと、曲が進むにつれ重厚なコーラスやトラックが入る振り幅の広さには正直驚かされました。

僕はアコギ推しだったんです。とにかくアコギで始まりアコギで終わるぐらいの曲にしたかったし自分の佇まいが少し見えるような曲になれば良いと思っていたんです。「STAND BY ME!!!!」はバンドっぽい曲で、リフもずっと「ダダダダダダ♬(ギターを弾く仕草をしながら)」みたいな感じだし。でも「あいのうた」はアコギのストロークでガチャガチャやる感じ。プリプロの段階では編曲してくれた池窪(浩一)さんから全然違うイメージのアレンジが上がってきたので、もっとアコギで押し通したいと伝えたし、ストロークのコード感も結構細かくリクエストしました。でもアコギ1本って難しいんですよね。迫力のある音に作り上げるためには演奏する人だけの音だけだと案外優しく聴こえちゃったりするので、迫力あるように聴こえているのはエンジニアさんの技術あってこそだと思います。で、コーラスやトラックの部分に関して僕はタッチしていなかったんですよ。でもゴスペル的なアイデアは池窪さんとディレクターの間で出たらしくて。ディレクターはずっと僕のA&Rを担当していた人なんですが、結構ぶっ飛んでいる人なので。あ、良い意味でね(笑)。何回目かのプリプロでその音が入った音源が急に来たんですが、僕はそういう突飛なアイデアに対して嫌いな時はすぐに嫌いって言うけど、嫌ではなかったし、ああいう音が入ることで曲の世界観は広がりましたね。


ー 新しさを感じました。そういう意味では「氷の世界」も二胡が使われていることや、声の重ね方で心象風景のようなものが叙情的に表現されていて新鮮でした。

あの二胡の音は……(筆者のiPadを指差しながら)それiPadですよね?


ー そうです。

僕もiPadでGarageBand(音楽ソフト)を使用して、遊びで音を編集したりするのが好きなんですが、この曲ではこういうイントロが欲しいと考えていたのでアコギで作った曲をそのままiPadに取り込んでGarageBandで二胡みたいな音を作ったんです。(指を動かして「氷の世界」のイントロを口づさみながら)指をスライドさせるとああいう感じの音が作れるんですよ。


ー へぇ、面白い!

でしょ!そういうデモを自分で作ったんです。この曲は「ever since」も編曲してくれた宗像仁志さんのアレンジなんですが僕、宗像さんのアレンジが大好きで!僕はいつもめっちゃくちゃ面倒くさいリクエストをアレンジャーの方たちにするんですが、宗像さんのアレンジはいつも最初から好きで、すぐに“あぁ、すごく良い!”って思うんですよ。ただ、プリプロ第一稿が来た時に僕は考えていた二胡の音が消えていて別のメロディーになっていて。自分としては宗像さんのアレンジが好きだから宗像さん色に染まるのもそれはそれで良いと思ったんですが、先に聴いていたスタッフが、高橋がデモで作ったメロはそのまま生かしたいと言ってくれて、あの二胡の音が入りました。ああいうアジアンなテイストは入れたかったので、スタッフがそう言ってくれたのも嬉しかったです。今日『おとなりさん』でやった「うんちマン」であれば「うんちマン うんちマン くしゃい くしゃい」なので、最初は5文字。コードはAm、Dmで“うんちマン うんちマン“と2回歌うんですね。でもAm、Dmで5文字、5文字だったら言葉は何でも入れられるじゃないですか。ソイミルクとか。


ー 確かに。

昨年くらいからそういう曲の作り方がパズルみたいで楽しくて。だから「氷の世界」もシロクマが出てきたりペンギンが出てきたりして一瞬登場人物がフワっとするというか、あえて曲をちょっと煙に巻くというか、何のことを歌っているのか自由に受け取ってもらえるようなパズル感覚で作りました。


ー 煙に巻くという意味ではやはり「forever girl!」ですよね(笑)。

うん……あ、いやいや、煙に巻こうと思っているわけじゃないですからね(笑)。自分はただ単純に言葉遊びを楽しんでいるだけだから。


ー 言葉遊びね(笑)。

そうそう(笑)。何でも具体的に歌うのは、ドーナツの物質の部分を歌うようなものだといつも思っているんです。だから物質ではなくドーナツの穴の部分を曲にしようと思って。物質の部分って具体的な起承転結文章なんですよね。“僕は今ここにいます。六本木1丁目でソイラテを飲みながらお話をしています”とか、“今は何時何分です”とか。でも、“ほろ苦い香りを嗅ぎながら少し鳥肌が立っているのは夢なのか現実なのか”とかみたいなことを書くと、一気に何のこと言っているのか分からなくなるじゃないですか。それがドーナツ穴の部分。でも間違いなく同じく此処のことを歌ってる。だから「forever girl!」に関して言うと、今回のアルバムインタビューで皆さんに「何の曲ですか?」と聞かれるけど、そこで何の曲か説明することはそれこそ遊び心を分解してしまうことになるわけで、僕が用意したドーナツを皆さんはどう想像するのか、もう少し僕は楽しんでいきたいですね。