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尾崎亜美、パートナー小原礼氏の言葉で生まれたデビュー45周年アルバム『Bon appetit』への想い

尾崎亜美、パートナー小原礼氏の言葉で生まれたデビュー45周年アルバム『Bon appetit』への想い

September 19, 2021 12:00

尾崎亜美

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今年3月にデビュー45周年を迎えた尾崎亜美。筆者が最初にインタビューをさせて頂いたのは2018年リリースのアルバム『Life Begins at 60』の時だった。そこから世の中は随分と変わり、尾崎自身の生活にも音楽にも色々大変なことが降り積もり、一度は足が止まってしまった。しかしパートナー小原礼氏の行動によって、少しずつ動き出してきた尾崎亜美の音楽が、9月15日リリースのアルバム『Bon appetit』として完成した。“召し上がれ”を意味するアルバムタイトルは料理上手な尾崎らしい。本作には提供曲のセルフカヴァーに加え、新曲、東京都中野区立明和中学校校歌「明和の風吹きぬける時」(ボーナストラック)が収録。アルバムに込めた想い、リード曲「メッセージ ~It's always in me~」へ込めた想い、尾崎にとっての料理と音楽。それらすべてを語って頂いた。


ー デビュー45周年おめでとうございます!こういう状況でここ2年くらいは音楽活動も大変だったと思いますが、45年を振り返っていかがですか?

本当は3月にデビューしているので、こういう状況になるもっと前はデビュー日に近いところで45周年をパーッと盛大に祝おうって言っていたんです。でもそれがどんどん難しい状況になってきて、そんな盛大には出来ないかもしれないけど良いアルバムが作れて良いコンサートができれば良いねって言っていたんです。春は出来ないけど秋ならきっと大丈夫だよって。なのにこの有様!


ー ですね(苦笑)。

まだまだ大変な状況ですが、でもやっぱり「良いものができたよ!」って皆さんにお伝えて、分かち合いたくて。「美味しいものができたよ!」と同じ発想ですね(笑)。私は人にご馳走を振る舞うのが好きなので、音楽も同じように「こんなの出来たの。食べて!」という気持ちなんです。だからこういう状況下ではありますがやっぱりコンサートはやらせて頂こうって思ったんです。

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ー 今作のタイトル『Bon appetit』ってまさに「どうぞお召し上がりください」という意味ですよね。それに「旺盛な食欲」という意味があるようで。

私のファンクラブの名前が“グラットンクラブ”というんですが、グラットンは<食いしんぼう>という意味の他に<旺盛な>とか<欲張り>という意味も含むので、もしかして“Bon appetit”もその仲間なのかな?だとしたらすごい偶然の一致!


ー 料理好きの尾崎さんの音楽を私たちが食欲旺盛に食べまくるみたいな。何かそれだけで楽しいです!

そうですね!やっぱり作ることがすごく好きでね。勿論自分の為にも作りますけど、人と分かち合いたい気持ちが大きいので、日々ご飯を一生懸命作るんです。それは多分、配偶者の小原礼さんが家にいるということが大きいなんだと思いますが。だって誰もいなかったらそこまで品数を作らないだろうし(笑)、たまに綺麗なご飯を作って「ワインでも飲んじゃおう♪」はあるかもしれないけど、毎日はね。やっぱり誰かの為にという想いがあると自然にそうなるし。音楽も今話したいことを話そうと思って作りますよね。私の音楽の言葉で話しかけるので、出来上がったもの是非皆さん聴いて欲しいです。


ー やはり尾崎さんの中で音楽と料理は繋がっていますね。

そう。お料理も音楽も私の感性に近いところにあるのかなと思います。


ー 今のお話を伺っていると本当にこのアルバム名は納得です。

本当はね、もうちょっと気取ったタイトル案もあったんですよ(笑)。45周年っぽいというかアニバーサリーっぽいというか。でも私がこういうことを日々考えてるって小原さんは傍で見てるわけですよ。私、おもてなしする時は必ずメニュー表を作るんですが、その右下に必ず“Bon appetit”って書いてるんです。それを小原さんはいつも見ているので「アルバムタイトル、“Bon appetit”が良いんじゃない?」って言ってくれたんです。それがいつもの私の言葉だからって。「おもてなしの想いと今回のアルバムを出す想いって近いよね。」って。


ー うわぁ、なんですか、その素敵なエピソードは!

(笑)。でも確かにそうだなと思ったんです。それで「ジャケットはさぁ、いつも人の誕生日とかに焼く数字パンが良いんじゃない?」とも言ってくれて。


ー じゃあやはりあのジャケットのパンは尾崎さんが作られたんですね!

はい、私が作りました。でも4も5も難しいんですよ!10周年だったらどんなに簡単だったか(笑)。


ー アハハ!

でも今年は友達とも集まれないから、自分のために焼こうって思って今年3月の私の誕生日に64パンを作ったですよ。それと7月には母の誕生日があって。もう亡くなってるんですが、もし生きてたら95歳になるので95パンも作りました。でも今回はその時に難しかった4と5の2つが同時にきちゃっているので大変でしたね(笑)。3回も作り直したんですよ!


ー それは大変でしたね!食べ物繋がりというわけではないんですが、新曲の「フード_ウォーリアー」はまさに今の時代を尾崎さんらしい角度で切り取った作品だなと思って、とても大好きです。この曲を聴いていると元気が湧いてくるというか。

ありがとうございます。キッチンに立つ時間は長いので、やはりキッチンで発想を膨らませることが多いです。コロナと戦う方法って色々あると思うんですけど、出来れば楽しく戦いたくて。外国旅行には行けないのなら料理で外国に行ってやるぞ!という発想なんですよ。今日はブラジル、明日はパリって。お料理は私にとっての魔法のアイテムなので、時間も距離も自由自在。一生懸命料理を作りますよという曲です。


ー 何だか尾崎さんの料理を実際食べてる気になっちゃいます。

それはすごい嬉しい!おもてなしの時はテーブルウエアも大切にするし、そういうことが楽しいんですよね。全く無理をしてないので楽しいと思うこと歌にして、皆さんに聴いてもらったら楽しい気持ちになってもらえるんじゃないかなと思いました。テレビではすごく深刻なトーンでニュースが読まれていて、勿論そういうことはちゃんと自覚もしてますが、でも私はキッチンで私なりの戦いをしています。特に気に入っているのは、“豆 豆 豆”っていうところ。


ー あの部分可愛いですよね!

ね!ね!自分で歌っている“豆 豆 豆”も好きなんですが、コーラスの“豆豆”も好きだし、“煮える間〜♪”の後にもう一回“豆”て言うんですよ。そこがすごく好き(笑)。やっぱりコミカルな部分があるとホッとするでしょ。


ー ええ、とても。特に今のような状況下だと尚更です。

カチカチの気持ちのままだと正しい判断が出来なくなってしまうこともあるから、いつもちょっと心を柔らかくしておくために笑いってすごい必要な気がするので、“豆”でクスっと笑ってもらえたら嬉しいです。あとこの曲のアコーディオンは松任谷(正隆)さんが担当なんですよ。


ー そうなんですよね!資料を拝見してちょっとビックリしました。

松任谷正隆さんは私の師匠格なんです。デビューの時にアレンジして頂いて、アルバムも2枚プロデュースして頂いているんですが、今回初めて私のピアノと松任谷さんのアコーディオンが合奏の形で入っているので、その部分は聴きどころのひとつです。あと今回のアルバムリリースライヴでは、初めて一緒にステージに立てるんです。コロナは本当に辛いですが、こうやって時々ご褒美みたいな、宝物みたいな時間もやっぱり来ると思うし、ずっと不機嫌な気持ちでいたら楽しいことも通りすぎるかなと思うんです。幸せって量ではなく幸せと感じる力の強さなのかなって。そういうことですごく変わると思うんですよ。どんな辛い状況でもそこだけは忘れないようにしようと思って。だってキャンセルの嵐でしたからね、ライブは。


ー そうですよね…。

本当に泣きそうになりましたもん!私はまだ耐えられるけど、ライヴで一緒に働いているスタッフさんが本当に可哀想で、彼らのことを思うと涙が出ますね。だけどそこを踏ん張って「僕たちも頑張ってるので、亜美さんも頑張ってください!」というメッセージをくれたり、誕生日にはコンサートスタッフが連名でプレゼントをくれたり。そういうことをしてくれる良い仲間なんです。その他にも、例えばお邪魔するつもりだったライブハウスがほとんど立ち行かなくなったりもしているし、キャンセルの嵐の中で戦っている方が沢山いらっしゃるから、今の状況が落ち着いたらそういうところにもいっぱい行きたいなと思っています。


ー 「Barrier」は今作で一番アッパーですが、SNSをテーマにしているんですね。

結構前から起きていたことですが、顔を晒さない匿名性が故に勝手なことを書いたり人を攻撃するようなことを書く人も多いじゃないですか。勿論そんな人たちばかりではないけど。ただそれがコロナになって、更に増えた気がするんです。


ー 歌詞の「正義」という言葉がそういう点を言い表しているなと感じました。

正義という名のもとに人を攻撃しても良いと考えてしまっていることの怖さ。怖いし、腹が立つし。でもやはりミュージシャンとしては音楽で表現したかったので、こういう曲にしました。もっと言うと曲の中では被害者になるかもしれない怖さで終わってはいますが、加害者になるかもしれない怖さも私の中ではものすごい大きくて……。だから“これはもしかして人を貶めているような言葉ではなかろうか?”とか、“ディスってないよな”って思いながらTwitterやブログは書くようにしています。まぁ仲良しの相手にちょっとふざけて書くときがありますが(笑)。でも基本的には気を遣うようになりました。決して人を悪く言っていない言葉でも、受け取る相手にとっては不快に感じる言葉もあるので。そういうことばかり考えなきゃいけないのは、若干不自由さを感じることもありますが、言葉って時として刃物ぐらい怖く使えるし、残念ながらそういうことが多発していたじゃないですか。


ー ええ。

だから自分もSNSを使う一員として敏感にはなります。今回はそういう不満や怖さをマーシャルを使ったようなハードなテイストの曲で表現しました。新しい曲ではやはり近々で強く感じたことを歌にしてますね。