POPSCENE - ポップシーン
POPSCENE - ポップシーン
尾崎亜美、パートナー小原礼氏の言葉で生まれたデビュー45周年アルバム『Bon appetit』への想い

尾崎亜美、パートナー小原礼氏の言葉で生まれたデビュー45周年アルバム『Bon appetit』への想い

September 19, 2021 12:00

尾崎亜美

0
シェア LINE

ー リアルが詰まっていました。あと気になったのが、ボーナストラックに収録の東京都中野区立明和中学校校歌「明和の風_吹きぬける時」です。

知り合いの知り合いが学校の関係者の方に私の名前を出したところ「是非に!」と言ってくださって実現しました。合併した中学校が取り壊される小学校の跡地に建てられるのですが、その壊される小学校も建て直すまではみんなが通う中学校も見に行きました。いっぱいお話も聞きました。ある人から「校歌ってレガシーになるものですよね。」と言われてハッとしたんです。あぁ、確かにそうだって。だからちゃんと書かなければと気合が入りました。校歌なので真面目なものを望まれてんのかなと思ったら「すごい元気が出るようなポップな曲を書いて欲しい」と要望があって、どれくらいのポップなのか伺ったら「天使のウインク」ぐらいって言われて。


ー え?!それはかなりポップですね。

でしょ!なのであのようなテイストの曲になりました。今って子供たちが大きな声で校歌を歌う機会がないんですよね。なのでせめて少しでも元気になれるものになれば良いなと思ったこともあり、デモテープではありますが、あえてこのまま収録しました。でもやはり自分の曲や人に楽曲提供するのとは違う面白さがありました。例えば一人称は「わたし」のみ。それはこれからの時代、ジェンダーや国籍、障害、そういうことも分け隔てなくみんなが平等に教育を受けるべきで、みんなが同じように夢を持つべきだからひとつの一人称という理由なんです。そしてそれを応援できる場所としてうちの学校はありたいとおっしゃられて、私もすごく感動しました。グラウンドがね、すごく立派だったんです。パッと見上げたらものすごい空が広がっていて、この空に見守られて育っていくんだなと思ったので、この空の大きさを感じてもらえるような、風が吹き抜けていくような、そういう自分が今感じていることを言葉にしたかったんです。だからコロナが落ち着いてみんなが歌っているところを見に行きたいし、それが今はすごく楽しみなんです!

20210918DSC_1142.jpg
ー 今作にはセルフカヴァー曲も収録されていますが、宇都宮隆さんへご提供された「境界線を引いたのは僕だ」のライナーノーツに、“宇都宮隆さんが稀に見る変わった方だったのでこんな物語が生まれました”とあったのがとにかく気になりました(笑)。

やっぱり?(笑)ディスるとかに敏感になっているって言ったけど、すごく変わった方なのは事実なんです(笑)。でもやっぱり気になったのでレコード会社の人に物凄く確認したんですよ。でも大丈夫だっておっしゃったので書かせていただきました。宇都宮くんはね、例えば食べ物の好き嫌いが激しいので、食べられないものは多いですね。打ち合わせを和菓子屋さんでやることになって宇都宮くんに確認したら「ああ、良いですね。そこでやりましょう。」と言ってくださったんですが、実は和菓子が食べられなくてお茶だけになったり。


ー え!それはなかなか(笑)。

ね(笑)。まぁ聞いてみると生きる上で色々大変そうだなと思って、そういう部分が曲のヒントになっています。でも歌入れの時に宇都宮くんが「これ、僕のことじゃないですよね?」って聞いてきたので「さぁどうかな。」って答えておきました(笑)。勿論歌詞のままではないですよ。こういうことが実際にあったわけではなく、発想を飛ばして書いてみました。そういう意味でも宇都宮くんは想像力をかき立ててくださる方でしたし、個人的に「境界線を引いたのは僕だ」というタイトルも気に入っているんです。小説になりそうなちょっとアカデミックな感じもして。


ー そうですよね!あと、のんさんの『Superhero’s』収録の「スケッチブック」を今作でセルフカヴァー。『Superhero’s』はアッパーなバンドサウンドが多かったのでこの曲がとても記憶に残っていました。

1曲目の「メッセージ_~It's always in me~」という曲と「スケッチブック」は自分の中でテーマがとても似ているんです。なので「メッセージ_~It's always in me~」で始まり「スケッチブック」で終わることをまず初めに決めて、それからどういうストーリーにしていこうか考えました。「スケッチブック」を作った時にのんちゃんが絵を描く人って全く知らなかったんですが、のんちゃんと会う前日、急に歌詞のイメージが湧いてきてあらかじめ少し書いていったんですよ。本当は会ってから書かなきゃいけなかったんだけど「ごめんね、のんちゃん。まだお会いもしていなかったのに何となくイメージが浮かんでしまってこんなの書いたの。」って言って見てもらったら、のんちゃんがうわって仰け反って「絵を描くんです、私!」って言いながら色々見せてくれて。すごく大きくて立派な絵を描いて展示会もしていたんですよね。でもお恥ずかしながらそれまで本当に知らなくて。私が一部知ってたことは、色々ことがあって大変な中で戦っていること。自分の本名も使えない状態でも彼女は一生懸命やっていて、音楽仲間みんなでのんちゃんのために素敵なものを作ろうとしていた仲間の一人だったんですね、私も。だから大切なものを失っても頑張って歩んで欲しいという想いを、スケッチブックに絵を描いたら足りない色があったけどそれでも歩いていくという歌にしたんです。失くした大切な色はいつか還ってくるかもしれないし、もしかしたら還ってこないかもしれない。でも歩き続けるというテーマにしたんです。それに対して「メッセージ_~It’s always in me~」は、どうしても自分の中の失くしたものが見つからなかったけど、色々なきっかけでふっと自分の中にあったことに気づく。失っていたと思った大切なものは自分の中にあったというという曲なんです。なので「メッセージ_~It's always in me~」は「スケッチブック」のアンサーソングというか、その後の物語みたいな作り方になっていて。勿論それは偶然なんですが、アルバムをどういう風にするか決める前に歌詞を見てハッと気がついて、運命的なものすら感じてしまいました。


ー なるほど。

アルバムを作るにあたって新しい曲増やす案もあったし、実際新曲も作ってたんです。だけどこのストーリーの為にはこの曲のが良いかもしれないと思ったし、その感覚に素直で忠実になろうと思いセルフカヴァー曲も選びました。「スケッチブック」はその象徴的な曲になったかもしれません。

20210918DSC_1154.jpg
ー 冒頭でもお母様のお話が出ましたが、約2年半前に亡くなられて音楽と介護のバランスが崩れたことで、音楽になかなか向き合えない時期もあったようですが。

そうですね。結構ハードな生活でした。介護と音楽の両立って。入院してもおかしくない状態でも家にいたいという母の願いを受け入れ、かなり悪い状態ではありましたが家でケアすることになったんです。24時間酸素機器の装着をしている状態で数値も悪かったのでカタンって音がしたらどこの部屋にいてもダッシュで母の部屋に行きました。だからしっかり眠ることはなかったですね。母の為のご飯と自分たち用のご飯とを分けて作らなければいけないし、色々なことで時間的にも精神的にも母にかけてるエネルギーは大きかったんですね。でもそれでバランスを取っていたみたい。やっぱり守るべき人がいる強さがあったんですね。その中でも一番大きい存在がふっと目の前からいなくなって、目的意識や音楽への意欲みたいなものがフッと見えなくなっちゃったんです。神様が取り上げちゃったのかしらと思うくらい。“私は二度と曲を書けなくなっちゃったりして…”と思って迷子になったような気持ちでしたから怖かったですね。でもこういっては何ですが、コロナになり世界中が迷子になって、迷子は私だけじゃないと思えたんです。そこで音楽をやってる意味を考えた時に、音楽という言葉で今思っていること、感じていることを発信する。で、誰かがそれを聴いてくれてその人が元気になったらあなたはすごい嬉しかったんじゃなかったっけって沢山の自問自答があり、そうい考えたら急に霧も晴れて曲が湧いてくるようになったんですね。“うわ、これできちゃう!できちゃう!”って。そうして校歌が生まれたり「メッセージ_~It’s always in me~」が生まれたり。


ー 良いですね。

ええ。大阪に住んでいる弟たちが来て母の四十九日会みたいなことをしたことがあったんです。その時に何気なく私が「私ね、星になんかならなくて良いと思ってるんだよね。何か淋しいよね、遠くて。もっと近くにいて欲しいなと思ってる。風の向こうとか花の影とかそういうところにいたらと思ってるんだよね。」って言いながらハハハって笑っていたら、小原さんが「それ書いておく!」って言って小さいメモ用紙に書き出して、それを冷蔵庫に貼っていてくれたんですよ。


ー うわ、すごく愛情を感じます。

でもね、それがなぜか関西弁なの。東京生まれなのに(笑)。「星になんかならんでええ。」って。


ー なんで!?(笑)

ねー(笑)。で、それも1年以上寝かしてたわけですよ。それで新しいアルバムを作る時に「アレ、作品にしてね。」と言われて「そうだよね。」と思って、ひとりでお散歩している時にメロディーや歌詞がぶわっと出てきて。この「メッセージ_~It's always in me~」が作れなかったら次には進めなかったかもしれないですね。だから今回は曲のこともそうですし、タイトルやジャケットデザインのイメージなど小原さんの力が大きかったです。


ー リード曲ですが決して悪戯にサビを盛り上げたりしないし「おかえり」と言うエンディングも本当にサラッとしていますよね。演奏もピアノと歌だし。だからこそ逆に胸に響くというか。その潔さというか、引き算の美学はやはり尾崎さんならではだと感じました。

Fazioli(コンサートグランドF278)というイタリアのピアノが高崎のTAGO STUDIOにあって、すごく大好きなピアノなんです。その透明感というか、私が表現したいものを具現化する為には絶対必要だと思ったのでお願いしました。今作では3曲そこのピアノ使って弾かせてもらいました。


ー まだまだ厳しい状況は続きますが、45周年を迎え、そういう状況下でこれからどういうものを発信していこうか、気持ち的に変わる部分はありますか?

明日も尾崎亜美は尾崎亜美だろうと思ってたら、結構脆いというか、絶対ってないなってしみじみ感じました。母の亡くなったこともそうだし、コロナもそう。何があっても自分でいなければいけないって本当に思いました。“自分って何だろう?”ってずっと問いかけてないとまた迷子になりかねないんですよね。それは誰にでも起こることでしょうが、そういう風に思っていたら人を攻撃している暇もないし、自分を充実させようとする方がよっぽど尊いし大切なこと。人様のことを言うのはおこがましいですが、みんなそうやっていけたらきっと柔らかい世の中になるし、意外と強敵にも良い感じで戦っていけるのかなって思うんですよね。コロナの終息はいつか分かりませんが、それでも笑えることを探そうとをするしかないんですよね。実際物凄く辛い状況下なので周りの人に「楽しいことを探そう!」って言うのは酷かもしれないけど、それでも探さなきゃいけないんじゃないかな…。そういう中で、もし音楽が少しでもその役に立っているんだったら音楽をやってて良かったと思う瞬間がもっともっと訪れるのかなと思うしそうでありたい。明日も尾崎亜美でいたいですね。


ー ありがとうございました。

interviewer&photo:秋山雅美(@ps_masayan


■ 尾崎亜美 オフィシャルHP
https://www.amii-ozaki.com

Release

尾崎亜美 アルバム
「Bon appetit」

2021年9月15日発売

-収録曲-

□ CD
1. メッセージ 〜It's always in me〜
2. I’m singing a song ※江原啓之
3. Jewel ※観月ありさ
4. フード ウォーリアー
5. Barrier
6. 月を見つめて哭いた ※広瀬倫子
7. 境界線を引いたのは僕だ ※宇都宮隆
8. 潮騒 ※藤田恵美
9. To Shining Shining Days ※chay
10. スケッチブック ※のん
【Bonus Track】
11. 明和の風 吹きぬける時(東京都中野区立明和中学校 校歌)
※印:オリジナル楽曲提供アーティスト

□ DVD
1. VOICE
2. 純情
3. 手をつないでいて
4. オリビアを聴きながら
5. スープ
6. Smile

尾崎亜美コンサート2020
Live at EX THEATER ROPPONGI (2020.9.12)

Bon appetit

CD

CRCP-20577 / ¥4,500(税抜価格¥4,091)

YouTube

Music Streaming