ー その「I’m A Sin Loving Man」は、イントロレスで繊細なゆうくんの歌声に冒頭から心掴まれました!
ありがとうございます。
ー(取材当時の)資料にはクレジットが載っていなかったけど、最初に聴こえる音はアコギ?
そう。あれは僕が弾いたんだけど、実はデモテープのまま使いました。でもムードがあったのでエフェクトもそのままにして音を少し遠くで鳴らして、あのアコギを基調に他の音がどんどん入っていく感じが良いかなと。多分人生初のギター弾き語り(笑)。
ー あのギターがすごく雰囲気ありました。この曲も作詞がMichael Kanekoさんですね。
自分は天使ではないし罪深い人間。でもその罪深さを認めるという歌詞なんだけど、以前、立川談志さんが「落語は業の肯定だ」と言ったことをふと思い出しましたね。人間の欲望や愛する愚かさ。そういう愚行の肯定を甘い声で歌うと、嘘を平気でつく男みたいでしょ(笑)。
ー ああ、なるほど(笑)。でもそういうのって魅力的でもありますよね。大人ならではというか。
そうですね。
ー 大人ならではの魅力と言えば、「桜の闇のシナトラ」。この曲の演奏はまさかのJohn Scofield Trio。これも奇跡的に短期間のスケジュールで3人が揃ったと伺いました。
そうなんです。奇跡的にメンバー全員が6時間だけ時間がとれる日があって、6時間スケジュールを取ってもらいました。でも結局2時間で2曲終わりましたけど(笑)。
ー 驚異すぎるでしょ(笑)。
「ニューヨークに咲く桜をイメージして4人でやりましょう。」って言ったら、そのディレクションをとても気に入ってくれて、そこからは本当に早かったですね。もうシールドを挿した瞬間からジョンスコだったから、そのままの流れを大切にしようと思って。
ー いいですね。そして作詞が売野雅勇さん。
4曲目まで言葉を人に任せたことは意味深いなと思っていて。特に日本だとシンガーソングライターは自分で歌詞を書かなければいけないようなイメージがあるけれど、僕は言葉だろうが音だろうが、人と人とが空気で触れ合う感情に溢れていると思うんです。「シナトラ」とか「窓」とか「桜」という音にはそんなに意味がなく、そこに意味づけするのは周りの人。だからこそ言葉でもセッションしたくて。勿論歌詞を自分で書いても良かったんですが、言葉で人と交わりたい。言葉でコミュニケーションして、それが自分の音楽という枠の中で出会う機会を欲しくて、大好きな売野さんに歌詞をお願いしました。
ー ジョンスコと売野さんを合わせちゃうなんてゆうくんだからできること。
そういう面白さを実験的に試したわけではなく、それしかないって思ったんです。有名な作詞家だからとか、ジョンスコだからではなく、まだ見えていない完成された曲に向かうための一部というか。そういうのが良いんですよね。
ー パズルのピースみたいな?
そうそう。だから今回はたまたまジョンスコと売野さんだったけど、そこが起点ではないんです。ただ今回はそのケミストリーがきっちり握手されたのが良かったです。プロデュースしたのは自分だけど自分が凄いとも思わないし、自分の曲ではあるけれど、まるで人の曲のように素晴らしいとも感じられるし。
ー ちょっと俯瞰して見ている感じなのかな?
そうですね。もう運も奇跡も全部呼んだなって。
ー 売野さんの歌詞は、リアルなのに夢想のような余韻と美しさがありますよね。その上ユニークでもあるし。
ワンセンテンスで引き寄せるどうしようもない魅力があって凄いなぁ…って思いました。
ー「Brooklyn Sky」は 3ヶ月連続配信の第二弾でしたが、スタジオの空間を感じるようなベースの生音感にデジタルが乗った時の調和が面白いですね。
タイトル通りブルックリンをイメージした曲なんですが、マンハッタンとも違う…何ていうんだろう、東京だと吉祥寺とか下北沢みたいな感じ。
ー ああ、わかりやすい。この曲はトランペットの黒田卓也さんがメンバーをチョイスしたとか。
そうです。卓也との付き合いは8年くらいかな。
ー きっかけは?
ジャムセッションです。横浜のDOLPHYだった気が…。ピアノの(大林)武司とは一昨年くらいに卓也を通じて知り合いました。素晴らしいピアニストで大好きです!ニューヨークのブルーノートで普通にライヴしていますからね。
ー 今回はゲストのバリエーションが実に豊かですよね。「SoDaRaw」ではサイプレス上野(以下:サ上)さんが参加。ライナーノーツでサ上さんの声を「終わらない思春期」って言ってますね。
ずーっと思春期が続いているようなムード。ふざけてるんだけど真面目に生きているし。
ー 純粋っていうことなのかな?
ああ、一言で言うと純粋なのかもしれない。一生懸命っていうか。なんかそういうのってすごく素敵ですよね。
ー 素敵ですね。歌詞はお二人で作られたということですが、どうやって?
ラップの部分は彼が作って、あとは僕です。「終わらない思春期の感じで、好きに作ってみて」ってお願いして(笑)。
ー この歌詞を見た時、ゆうくんが以前Spotifyのライヴで、うまくいかないことが多いと嘆く仲間に対して「そんなの好きにやればいいんだよ!」ってアドバイスした話を思い出しました。
ああ、なるほど。やっぱり同じ人間が考えることだし、何かを決めてこういう歌詞を作ろうとはしていないから同じような感情が歌詞に出てきますね。好きなことって逃げられないじゃないですか。
ー ええ。
それを仕事にしているから常に音楽のことがMAXだし。だからキツくあたることもあるし。