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けいちゃん、アルバム『円人』インタビュー!無限に進む物語に込めた想いと、レコーディングでmajikoにNGが出た理由とは

けいちゃん、アルバム『円人』インタビュー!無限に進む物語に込めた想いと、レコーディングでmajikoにNGが出た理由とは

December 9, 2023 17:00

けいちゃん

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今年6月に全国公開された映画『美男ペコパンと悪魔』の主題歌「シンフォニア」を書き下ろしたフリースタイルピアニスト “けいちゃん”。同月に開催された【けいちゃん ピアノリサイタル『Rubato Circus』】は即完。TBS系朝の情報番組「THE TIME,」にレギュラー出演。ピアノを軸とした音楽総合表現者として、トラックメーカーとしても活躍し、自身のYouTubeのチャンネル登録者数は100万人を超え、総再生回数は3億2千万回を超える。そんなけいちゃんが12月6日に3rdアルバム『円人』をリリース。今作ではmajikoをフィーチャリングに迎えた3曲、映画主題歌となった「シンフォニア」、インスト曲など全11曲をひとつの物語として表現。今回は、コンセプチャルな今作への想いやmajikoさんとのレコーディングエピソード、楽曲を通じて考える死生観などを伺ってみた。

ー 少し遡りますが、今年6月に全国公開された映画『美男ペコパンと悪魔』の主題歌として「シンフォニア」(6月2日配信リリース)を書き下ろし。初の主題歌担当はいかがでしたか?

嬉しかったです。やっと来たか!という感じで。制作としては例えばサビはキャッチーなものが良い、歌詞にこの言葉を入れて欲しいなど、先方からいくつか要望があり何度かラリーをしながら作ったんですが、作品に付随する形で曲を書くのが初めてだったのでそういったタイアップの面白さや難しさみたいなのを色々学ばせていただきました。


ー 横浜国際映画祭にも出席されて、レッドカーペットも歩かれましたね。

もうめちゃくちゃスターになった気分でした。


ー だってスターじゃないですか。

いやいやいやいや、まだちょっとしかスターじゃないです。あ、嘘です。まだまだです(笑)。でもなかなかレッドカーペットを歩く経験なんて出来ないじゃないですか。


ー 俳優さんならまだしもミュージシャンですしね。

そうそう。まさか自分がそういう俳優さんたちと一緒に映画祭でレッドカーペットを歩くことになるなんて数年前は考えてもいなかったので、驚きです。


ー でも、けいちゃんの公式YouTubeでの密着回を観させていただいたんですが、映画祭では結構皆さんとフランクに笑い合っていましたよね。

僕、友達を作るのが得意で、人の懐に入るが特技なんです!


ー でも山田孝之さんにはビビって……

ビビってはないです!!

<一同笑>

ただ、山田孝之さんがスターすぎて、あまりカメラを向けない方が良いのかなって躊躇はしました。でも山田さんが他の俳優さんたちと喋っていた時、山田さんの視界に入るよう僕がちょっと変な動きをして(両手を揺らしながら)。


ー 何してるんですか(笑)。

そしたら山田さんも動きをしてくれて(笑)そこから打ち解けてお話させていただき、写真も撮らせていただきました。


ー 色々な意味ですごいですね(笑)。楽曲の話に戻りますが、この「シンフォニア」は、バッハの「シンフォニア」から着想を得ているとか。

はい。『美男ペコパンと悪魔』は隼人と亜美がいる現実世界と、ペコパンとボールドゥールがいる小説の世界という2つの軸で物語が進んでいきます。僕はその2つの世界に加えて、映画を観るお客さん……つまり我々がいる世界の3つの軸からなる映画だと考えたんです。一方、バッハの「シンフォニア」という作品は3つの声部から成る楽曲なんです。3つの世界と3つの声部。そこに共通項を見出して旋律を組み込んで表現しました。


ー その「シンフォニア」も収録されたアルバム『円人』が12月6日にリリースですが、かなりコンセプチャルな内容ですし、大作映画を観たような気持ちになりました。

まんまと引っかかりましたね(笑)。


ー はい。まんまと引っかかりました(笑)。でもこれだけコンセプチャルな作品だと、いわゆるタイアップ曲が入った時にそのコンセプトが崩れてしまうのではないかと思いましたが、きちんと全てがひとつの物語として繋がっていました。改めてアルバムのテーマについて教えていただけますか?

人って誰かの人生の続きを歩んでいると思うんです。


ー 誰かの人生の続き?

まぁこれはあくまでも僕の考えなんですけど、例えば今まで生きていた“けいちゃん”という魂と、来世に繋がる魂がピョンって分かれて進んでいくのかなって考えているんです。今回のアルバムでは来世へ進む魂を描きたかったんです。死生観や生のサイクルみたいなものがテーマで、そこに男女の愛が付随した輪廻転生の物語です。


ー 例えば「Edo」(『聴十戯画』収録)などを含め、元々けいちゃんは輪廻転生などを感じさせるテーマの楽曲も結構ありますよね。

そうですね。生死に直結するようなイメージの作品は結構あります。今タイトルの『円人』というのは、人の魂が循環して無限に続いていくイメージを円で表現したんですが、アルバム最後の曲が終わってそのまま流しっぱなしにしていると、1曲目に繋がり無限に物語が進んでいくみたいな仕掛けを取り入れました。


ー 私自身ずっとループして聴いていたら……。物語とサウンドの迷宮に入り込んでしまって(笑)。

どの世界にいるか分からなくなった?


ー そうです、そうです!それとサウンドや歌詞が楽曲同士で繋がっているギミックが散りばめられているのも興味深かったです。

世界観を一つのものにしたかったんです。同じ世界で起こっている出来事を音楽にしたから、同じ事象が起こっていたり、同じ言葉が使われていたり、同じメロディーが入っていたり。そういう部分は意識しました。


ー プレイヤー画面を見ずにインストの「千鬼への合流」を聴いていたら、いつの間にか「夜行 feat. majiko」になっていて。

そうそう、そういう仕掛けも結構あるんですよ。


ー インストも含め、11曲をひとつの物語にするのは大変ではなかったですか?

そういう仕掛けを作っていくことに対して楽しいという気持ちが大きすぎて、大変だとはあまり感じなかったですね。謎解きを自分で作ってみたいな。


ー 今回は、「馬の耳ドロップ feat. majiko」、「夜行feat. majiko」、「愛葬feat. majiko」と、majikoさんをフィーチャリングしたナンバーが3曲ありますが、なぜmajikoさんをフィーチャリングされたんでしょうか。

今作では登場人物に女性も出てくるし、女性の感情を歌いたい曲もある。だからどうしても女性の生の声が必要だったんです。しかも芯はあるけれど透き通っていて力強さや儚さ、そういうものも表現できる声が欲しくて。そう考えていた時に、以前から楽曲をよく聴いていたmajikoさんの声がぴったりだと思い、オファーさせていただきました。


ー 楽曲ごとに全く違うmajikoさんの魅力を余すことなく感じられました。

声色とかも全然違いますよね。本当に変幻自在の声を持っているアーティストです。「馬の耳ドロップ feat. majiko」は色々なジャンルが1曲に詰まっていますが、オペラのような歌い方にも才能を感じましたし「言わせていただきます。」 というセリフの言い方で、今のだと可愛すぎるからもうちょっとOLっぽさをなくして、みたいなやりとりをしたんですがあれは面白かったですね(笑)。


ー 才能も含めて、けいちゃんとmajikoさんはちょっと同じ空気感を感じています。

あー、でも確かに!女版けいちゃんみたいな感じがするなと思いました。……ん?僕が男版majikoさんなのか?(笑)突拍子もなくすごく変な動きをしたり、急に奇声を上げたり(笑)。レコーディングもワチャワチャしながら楽しく出来ました。


ー ピリついたムードはなかったですか?(笑)

ピリッとした雰囲気はひとつもなかったかな。笑いながらみんなで作っていた感じです。ディレクション的な作業もしたんですが、majikoさんは歌い出す瞬間にスイッチが切り替わって、歌い終わるとフニャとなる。その辺もやっぱり僕と似ているかもしれませんね。


ー あとけいちゃんの作品づくりとしてイントロの面白さを感じています。「夜行feat. majiko」は4分5秒の中でイントロが27秒。例えば「般若-HANNYA-」(『殻落箱』収録)は4分13秒の中で54秒がイントロ。そういう長めのイントロでもうひとつの世界を感じることがありますが、あまりJ-POPではない面白さだと思いました。

元々、僕がインストの界隈の人間であることから、歌が入ってない部分に対する情熱や想いが他のアーティストよりも強いのかなとは思いますね。サビから始まる曲やAメロから始まる曲など色々ありますが、イントロというのはその曲の世界観を形作る玄関みたいなものなので、その玄関の装飾をすごく凝ってしまうところもあると思います。


ー その「夜行feat. majiko」から一転、「MAIHIME」はクラシック要素もある映画の劇伴のようなインストで、インパクトの強い次曲「Life Game」へ繋げている。ひとつの物語というテーマはあれど、これだけイメージが違う曲をひとつのアルバムとして全く違和感なく聴かせる上で大切な点はどういうところでしょう?

うーん………(しばらく考える)何か意識していることってあるのかな……確かにジャンルもテンポも雰囲気も全然違いますよね。