半﨑美子、「もしかしたら今、お手紙をテーマに書くタイミングかもしれない。」『うた弁4 you』インタビュー

ー 昔はよく文通とかありましたよね。返事来ないかなってポストを何度もカチャカチャ開けて親に怒られたり（笑）。

ありましたね（笑）。でも本当にあの感覚です。年を重ねるにつれ待つことの大切さを実感するんです。効率化が進んで時間が短縮されて、24時間の持っている時間は昔と変わらないのにどんどん待てなくなって。私もその一人なんですが、だからこそ待つことの大切さを思い出させてくれるのが手紙の良いところだと思います。（ジャケットをめくりながら）この中のお手紙は実際に私がファンの方たちからいただいたものなんです。この一番上の手紙は小さなお子様からいただいた手紙で。


ー だから可愛い文字なんですね。何かジャケットにも愛情が詰まっていますね。

そうなんです。


ー 「大家さんと私のブルース～困った時はお互い様～」の歌詞にも愛情を感じました。この曲に出てくる大家さんはパン屋さんの二階に住み込みしていた時の？

その後ですね。8年間お世話になった大家さんへ宛てたお手紙（曲）なんですが、とても素敵な奥様で、本当の母親のように接してくださいました。私がお世話になっていた時はまだインディーズで、音楽活動をしながらバイトもしていたんですが家賃を払うのが厳しくなってきて……。大家さんに相談したら、マンション掃除の仕事をする代わりに家賃を下げてもらえることになり、お陰で8年間住むことが出来てました。そこには2018年まで住んでいたんですが、この曲はそのお別れの日を歌っています。私が歌手として活動していることも知ってたので、デビューしたときもすごく喜んでくれて。で、デビューして1年後にそこを出ることになり、空っぽのお部屋でいざ大家さんにお礼を伝えようと思ったら、もう涙ばかり出てきて嗚咽状態（笑）。その時、大家さんが「困った時はお互い様。」という一言を私にくださったんです。それが凄く忘れられなくて。


ー 想像すると涙が出てきますね。

そうなんですよ。私も誰かに対してそういう風に言える人でありたいと思いながら、この曲を書きました。どこかで聴いてくれたら嬉しいですね。


ー ピアノのペダルや鍵盤を押さえる音が入っているのが生っぽくて、この曲に合っている気がしました。

この曲はミトカツユキさんがピアノを弾いてくれて、ウッドベースと一緒に録りました。独特な部屋感がありますよね。本当は郷愁に駆られるようなメロディーで、間奏にトランペットを入れたいと考えていたんです。けれど空っぽの部屋に大家さんと私の二人だけだから、あえて楽器もその方向でというミトさんの提案で、間奏はウッドべースのソロにして、あくまでピアノとウッドベースのみという空間にしました。音の生っぽさも部屋感に繋がっているのかもしれませんね。


ー なるほど！それと「リンドウ」ですが、メジャー後はこういう疾走感ある曲調って半﨑さんの中では珍しくないですか？

サンバ調の「天国3丁目」やジャジーな「灰汁」はありますが、このテイストはないかも。


ー お盆の時期に亡き人を思っている歌詞とこのサウンドを掛け合わせた理由がすごく気になりました。というのも、このサウンドが個人的に大好きで。

ありがとうございます。亡き人への想いを夏らしいサウンドにのせて歌いました。ミトさんが疾走感のある瑞々しいサウンドにしてくださって。歌詞とサウンドがまさにリンクするようなバラードに仕上げることも多分出来たと思うんですが、バランスとしてはチグハグでも妙にフィットする感じが自分の中にはあって。「天国3丁目」もそのひとつですが、そういう意味では今回久々にこういう楽曲を作りました。このアルバムを発売する8月は、亡き人との対話が深まる時期だと思うんです。夏の終わりと共に迎えたり見送ったりする…お祭りとかもそうですが。


ー 個人ごとですが、私も昨年のこの時期に父が亡くなって。だから今年はこの曲と共に父と対話したいです。

そうだったんですか……。


ー 「リンドウ」からの「涙の記憶」もガラッと世界観が変わりますね。

「涙の記憶」はバラードですが、すごくどっしりしていて芯があって。芯があるのはミトさんのアレンジでいつも感じることなんですよね。この曲の“冬が流れていく 細い川となり時はせせらぎ 溶け合っていく”という歌詞は、溶けた雪が少しずつ細い川になり流れていって海に出会うシーンと、様々な方たちの悲しみが繋がっていくイメージを、どっしりしているけど軽やかなアレンジで聴かせてくれました。今回「地球へ」以外、全て新たな書き下ろしなので、アルバムって、いつもは既発のシングル曲を数曲収録するので、その中で新曲を入れていくと、どうしても全体的なバランスが後付けになりやすいんです。でも今回は手紙というテーマで、ほぼ全て新曲なのでイチから構築できました。楽曲も、楽器もアレンジもそう。「星を伝って」も、最初は私の弾き語りにしようと思っていましたが、最後に弾き語り曲を収録することも多かったので、ミトさんにこの曲のアレンジをお願いして、あえてアコギとトイピアノにしたら、温もりと素朴な雰囲気が、歌詞のイメージにフィットしました。


ー あのトイピアノは曲と合っていましたよね。それと「涙の記憶」と「星を伝って」は曲調こそ違えど、ファンの方との繋がりを感じる曲でした。

本当にその通りです。沢山いただいたお手紙やメッセージの返事として書いた楽曲なのですごく広いけれど、とてもパーソナルな想いを込めました。


ー ファンとの繋がりといえば、愛知県幸田北部中学校の修学旅行に半﨑さんのコンサートが組み込まれていたのは驚きました！

有難いですよね！これまで学校公演を続けてきて私にとっても初めてのことでしたし、勿論、幸田北部中学校としても初の試みらしく。修学旅行で皇居に行ったりする中の一つに私のコンサートがあるって本当に光栄なことで（笑）。


ー 確かに（笑）。

でもコンサートで生徒さんたちが「地球へ」が教科書に掲載されることに対して、プラカードを持って祝福してくださったのも嬉しかったですね。デビューしてからずっと様々な学校へ歌いにいったり、校歌を書かせていただいたりする中で、実際に自分の歌が教科書に載るという夢が実現して、さらに今後の学校公演においても、より楽曲を届ける意味合いが深まっていく感じがしました。


ー 楽曲が教科書に掲載されることは本当に半﨑さんの夢でしたからね。それこそ「途」ではないですが、半﨑さんが信じた種が花開いたわけですし。

本当にそうですね！学校公演の後も生徒さんたちからよくお手紙をいただくのですが、そこには進路に関してやその他様々な想いや悩みが書かれていて。だから「途」という曲は当時の自分に対してだけでなく、そういう子供たちにも一つのお返事として届けたいという思いがありました。一つ一つの種が自然と花開く瞬間があって、継続ってすごく大切だと改めて感じます。学校公演では歌だけでなく、「夢は叶う」とか「夢を諦めない」というテーマで講演してくださいと言われることも多いのですが、そ「地球へ」が教科書に載るということで、一つの具体的な夢として、またお話出来ることがあると思うと嬉しいですね。


ー その「地球へ」ですが、今回はAnointed mass choirを迎えての新たなバージョン。コーラスが優しいのに圧巻ですよね。確か『中島みゆき RESPECT LIVE 2023  歌縁』で一緒だった方たちですよね。

はい、どこかでまたご一緒できればと思っていたので、今回「地球へ with Anointed mass choir」で実現出来ました。単純に声の厚みというだけではない、それぞれの持つ声の波動は楽器の演奏と違うパワーを持っていて、それがハーモニーとなって集まることでみんなで地球へ届けるお手紙みたいな形になり、新しいバージョンとして素敵な仕上がりになったと思います。オリジナルでは武部さんのアレンジと皆さんの演奏が相まってドラマチックな物語になっていますが、今回はクワイアコーラスがあるので演奏はミトさんのピアノのみです。でも逆にそのアレンジだからこそ、それぞれの想いを持ち寄った一つのメッセージになったと思いました。


ー 『うた弁4 you』の特別盤では、昨年10月に開催されたツアーの東京公演、中野サンプラザでの集大成コンサートの模様を収録されていますね。

あのツアーは本当に会場の皆様と一緒に立ち止まるという特別なコンサートでしたし、中野サンプラザは聖地であり本当に思い出深い会場ですので、そこでの模様を収録出来たのは個人的にも嬉しかったです。9月からは北海道ツアーも開催ですし、ショッピングモールのライブも再開したので、色々な場所で皆さんにこの『うた弁4 you』というお手紙を届けたいです！！


ー ありがとうございました！


インタビュー＆フォト：秋山雅美（@ps_masayan）


■ 半﨑美子「うた弁4 you」
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