山本彩、LINE CUBE SHIBUYAで開催されたセミファイナルとファイナル公演の模様をレポート!
January 30, 2026 19:00
山本彩
山本彩、ソロ10周年の幕開け。“一人で戦う”から“みんなで作る”へ─「home away from home」が示した現在地
2025年11月23日、神奈川芸術劇場から幕を開けたSayaka Yamamoto Hall Tour 2025-26 “home away from home”。大阪・オリックス劇場を経て、2026年1月28日・29日、LINE CUBE SHIBUYAに到達した。セットリストは新旧を織り交ぜた全19曲。全公演で、2日間ごとにセットリストを入れ替えるという、山本彩にとって初の試みも用意されていた。
SEが鳴り止むと、会場はブルースモークに包まれ、犬の鳴き声が響いた。静かなざわめきの中、トライアングルがひとつ、空気を切る。山本彩が姿を現し、1曲目に選ばれたのは「ヒトコト」だった。派手なイントロも、強い煽りもない。静かなピアノに導かれるように、ギターを持たずステージを歩きながら、観客と視線を交わし、言葉をそっと置いていく。「ヒトコト」は、彼女がソロライブをスタートさせた『山本彩 LIVE TOUR 2016 〜Rainbow〜』でも、幕開けを飾った曲だ。10年の時間を経て、再びこの曲から始まったこの夜は、外に向かって叫ぶのではなく、内側へと深く潜っていくライブであることを、静かに示していた。
続く「君とフィルムカメラ」では、夕陽のような照明とブルーが交錯する。アコースティックギターを抱え、日常の風景をなぞるように歌われるその音が、会場を一気に彼女の描く時間の流れへと引き込んでいった。29日は「yonder」が披露されている。
ライブはそのまま「刹那」へ。“夏”をイメージして書かれたこの曲では、入道雲のような照明が立ち上がり、ストリングスの旋律がきらりと光を放つ。軽快なバンドアレンジの中に、解放感とノスタルジアが同時に息づき、ドラム、ギター、ベースに重なるストリングスが、一瞬で過ぎ去る季節の輪郭を鮮やかに描き出していく。3曲を歌い終え、ここで最初のMC。
「こんばんは、山本彩です。“home away from home”ツアー、ありがとうございます。新年一発目ということで、あけましておめでとうございます」ホールツアーとしては、前回の大阪公演から約1か月ぶりのステージだ。「ちょっと間が空きすぎて、気持ちはもう初日です(笑)」そう笑いながら、初めて来た人にも、何度目かの人にも、“楽しむ”という一点では同じだと語りかける。「今日は“home away from home”ツアーなので、みんなで家族みたいに、一つになれたらと思います」会場を見渡すその表情には、この夜を“帰る場所”にしようとする、確かな意思が宿っていた。
「ラメント」で描き出された壮大な世界観を経て、ライブはそこから一気に表情を変える。ドラムの鋭いイントロを合図に、ベースがうねり、ワウを効かせたギターが空気を切り裂く。アコースティックギターに山本の歌声、そこへバイオリンの旋律が重なり合い、ステージは赤い照明に染め上げられていく。披露されたのは「劣等感」だった。「劣等感」は、山本の楽曲群の中でも、自己認識のリアルな感情をそのまま直球で描いた一曲だ。自分を飾らない言葉と歌が、フロアの感情をまっすぐに引き寄せていく。気づけば会場には大きな一体感が生まれていた。このサウンドを支えていたのは、ソロライブの初期から共に歩んできたバンドメンバーたち。ベース・奥野翔太、ギター・草刈浩司、ドラム・SATOKO。さらに、バイオリンのAyasa、asami(Cho)、そしてキーボードとギターを自在に行き来する花井諒が加わり、サウンドはより立体的で、色彩豊かなものへと広がっていく。
続いて山本はギターをMiami BlueのAmerican Professional II Stratocasterに持ち替え、「イチリンソウ」を歌い始めた。ソロとして歩み始めたことを象徴するこの曲では、強く踏み鳴らすのではなく、静かな決意を胸に前へ進むような歌声が、ホールいっぱいに広がる。バンドも必要以上に感情を煽ることなく、一輪の花がそこに立っている―そんな佇まいを、音そのもので描き出していた。
ここで、2度目のMC。「楽しんでくれてるんだろうなっていう声が、イヤモニ越しにすごく届いてます。本当にありがとうございます」LINE CUBE SHIBUYAでのライブは、約5年ぶり。5年前、この場所で彼女が立ったステージは無観客だった。「誰もいない景色を見ながら、配信でライブをしていました。あの時は、それが精一杯のライブだったなって。振り返ると、5年って本当にあっという間ですね」そう笑って語ると、客席から「おかえり」の声が飛ぶ。「ただいま」と応える山本は、この場所を“第二の居場所”と呼び、当たり前ではなかった時間が、こうして重なっていることへの感謝を言葉にした。「“home away from home”ツアーということで、今日はみんながおうちに帰ってきたみたいに、くつろいで、はしゃげる最高の一夜にしたいと思います」そう言って客席を見渡し、「後半戦、行っちゃっていいですか?」と問いかけると、会場は大きな歓声で応えた。その言葉の余韻を受け継ぐように、ステージの空気が静かに切り替わる。
「Seagull」では、アコースティックギターを手に、ピアノとバイオリンに包まれながら歌い始める。ステージは茶色の紅葉を思わせる照明に染まり、サビでは青い星が瞬くように光が広がっていった。続く「JOKER」ではエレキギターに持ち替え、イントロ定番のバイオリンフレーズに合わせて、人差し指が一斉に掲げられる。疾走感のあるビートが手拍子を加速させ、幾重にも重なるブルーの照明の中、会場は一気にひとつになった。
曲が終わると照明が落ち、山本の姿だけが浮かび上がる。そして、アカペラで歌い上げる。「両手ひろげ東京、声上げろー。リミッターを外して! 歩けばその先に道は出来る」その一声を合図に、会場から一斉に「WOW!」が返った。「まだまだいくぞ。Are you ready!?」という煽りとともに、披露されたのは「Are you ready!?」。ギターリフが鳴った瞬間、観客は考える前に身体を動かしていた。空気は完全に切り替わり、ホールは一瞬でライブハウスの密度へと変貌する。演る側と観る側の境界が溶け、魂を交換するような熱が交差していった。まだ見ぬ世界へと踏み出すための合図。この夜、この場所の温度を一気に引き上げるアンセムとして、「Are you ready!?」は力強く鳴り響いていた。
その熱を引き継ぐように、スラップベースのフレーズを起点に、ギターが絡み、アコースティックギターがビートを刻む。音が幾層にも重なり合い、「喝采」へ。観客の手拍子と声が自然に混ざり合い、リズム帯は一気に太くなる。その鳴りは、どんなロックフェスの大箱に放り込まれても、決して埋もれない。10年かけてバンドとオーディエンスが育ててきた一体感。その結晶が、今この瞬間のサウンドとして鳴っている。跳ね返る低音、押し切るバンドグルーヴ。ラストに放たれた「これで満足か?」という一言は、観客への問いであると同時に、ロックシーンそのものへの挑戦状のようにも響いた。
その余韻を切り裂くように、バイオリンAyasaのソロと、奥野翔太のベースが描き出す強烈なコントラスト。その流れを受けて、「ゼロユニバース」へ。ステージには、晴れ渡る空を思わせる光が広がる。山本の真骨頂とも言える高音が、伸びやかに会場を突き抜け、天井へと放たれていった。その余韻が会場に残る中、撮影OKのアナウンスが入ると、山本は客席に向かってこう呼びかけた。「ツアーの感想と一緒に、SNSに上げてもらえたら嬉しいです。今日は、こんな素敵な夜を過ごせていることに乾杯したいと思います!」そう言って、「ドラマチックに、乾杯!」と歌い出すと、彼女はステージを降り、客席の中へと歩み出る。一人ひとりと目を合わせ、言葉を交わすように歌いながら、会場との距離を一気に縮めていった。
続く本編ラストのMCで、山本は「ライブで味わう2時間って、世界で一番短く感じます」穏やかな表情を浮かべながら、こう切り出した。「ステージに立つたび、想像を超える熱量で迎えてもらっていて、毎回驚かされています。今日は、その驚きをまた更新してもらいました。本当にありがとうございます。ソロとして一人で歩き出してから10年。最初は心細くて、“一人で戦わなきゃ”って思っていました。でもライブを重ねるうちに、私のライブは、私一人が作っているんじゃなくて、みんなと一緒に作っているんだって、思えるようになりました」
そして、はっきりとこう続けた。「今では、この場所が“ホーム”だと思えています。1番じゃなくてもいい。このライブが、みんなにとって“また帰ってきたい場所”であったら嬉しいです。最後の2曲は、つらい時に一人で抱え込まなくていいように。そんな自分も愛せるように。そういう気持ちを込めて書いた曲です」そう前置きして披露されたのが「サードマン」。ピアノとの静かな歌い出しから始まる壮大なバラードは、時間の流れをゆっくりと変えていく。間奏では草刈浩司の“泣き”のギターソロが深く響き、その一音一音が、観客一人ひとりに語りかけるように染み渡っていった。なお、翌29日の公演では、このパートに「Larimar」が据えられ、同じ文脈を持ちながらも、異なる色合いで本編終盤を彩っていた。
本編ラストを飾ったのは「共鳴」。痛い夜も、つらい時間も、共に叫び、共に鳴き合えるように―その想いが、歌声と拍手となって会場を満たしていく。ラストサビ前、山本はオーディエンスにマイクを向ける。「鳴らせ 鳴らせ 溢れるかぎり誰も代わらなくていいから 終わりのないノイズを掻き分けて奏でよう ちっぽけな僕らの歌を」その合図に、会場中の声が重なった。痛みも迷いも抱えたまま、それでもここに集まった一人ひとりの声が、同じフレーズを通して、確かに“共鳴”していく。音がすっと引いたあと、歓声と拍手が渦のように広がる。それでもなお、ホールには「まだ終われない」という熱が、はっきりと残っていた。
アンコールの拍手に迎えられ、山本が再びステージに現れる。ギターを抱え、弾き語りで歌われたのは、まだタイトルもなく、完成もしていない未発表曲だった。「次に歌うのは、まだ世に出るかどうかも分からない曲です」そう前置きし、一人で過ごす時間の中で生まれた“虚無感”について語る。考え続けても変わらない感情に、自分自身で意味を与えるため、歌にしてきたこと。この曲も、完成する頃には形を変えているかもしれない。だから今夜は、“途中経過”のまま届けたいのだと。
ツアーで歌い続けるうちに、「完成させてほしい」という声が各地から届き、それが大きな励みになっているという。今年中に形にし、次に聴いてもらえる機会へつなげたい——その静かな決意だけが、歌い終えたあとも、会場に確かに残されていた。その余韻を受け継ぐように、再びバンドメンバーが呼び込まれ、「レインボーローズ」が披露される。ファンへの感謝と愛情を込めた演奏が、アンコールの空気をやさしくあたためていった。なお、2日目の公演ではこの楽曲のみ撮影OKとなり、会場にはより穏やかな高揚感が広がっていく。
アンコールのラストを飾った楽曲は、2日間で入れ替えられた。初日は「ヒトコト」で始まり、「メロディー」で終幕。2日目はその順を反転させ、「メロディー」から始まり、「ヒトコト」で締めくくられた。
始まりと終わりを入れ替えることで浮かび上がるのは、“home away from home”というツアータイトルが示す、循環と帰還の感覚だ。どこから来て、どこへ帰るのか——その問いに明確な答えを出すのではなく、一夜一夜の記憶そのものを「帰る場所」として差し出す。これまでの時間と、この夜の感情をそっと束ねるように、山本彩はステージを締めくくった。
「今日は本当にありがとうございました。この思い出、記念に写真を撮ってもいいですか?」そう呼びかけると、会場全員で「10周年!」と声を揃え、記念撮影が行われた。その後、メンバーがステージ中央に集まり、山本はマイクを通さずに言葉を届ける。
「ツアーファイナル、本当にありがとうございました」そして、「また皆さんに会いましょう」と微笑み、ステージを後にした。
ソロ活動10周年の幕明けの年。2016年11月2日、愛知・Zepp Nagoya。山本彩は、その場所からソロアーティストとしての歩みを始めた。一夜一夜のステージで課題と向き合い、そのたびに、自分の中に小さな蕾を宿してきた10年。歌い、悩み、更新し続けてきた時間の積み重ねが、今の山本彩を形づくっている。初のソロライブで、彼女はこう語っている。「レインボーローズの花言葉は、無限の可能性です。私自身も、その言葉のように突き進んでいきたい」その想いを胸に重ねてきた軌跡は、自身の誕生日である7月14日の日本武道館へと、まっすぐにつながっていく。10年かけて育ててきた蕾は、そこで、どんな花を咲かせるのだろうか。
ライター:池田鉄平
□ セットリスト
<1月28日(水)公演>
M1. ヒトコト
M2. 君とフィルムカメラ
M3. 刹夏
M4. ラメント
M5. 劣等感
M6. イチリンソウ
M7. stay free
M8. あいまって。
M9. Seagull
M10. JOKER
M11. Are you ready?
M12. 喝采
M13. ゼロ ユニバース
M14. ドラマチックに乾杯
M15. サードマン
M16. 共鳴
EN1. タイトル未定
EN2. レインボーローズ
EN3. メロディ
<1月29日(木)公演>
M1. メロディ
M2. yonder
M3. 刹夏
M4. どうしてどうして
M5. スマイル
M6. イチリンソウ
M7. Homeward
M8. ブルースター
M9. Seagull
M10. JOKER
M11. Are you ready?
M12. 喝采
M13. ゼロ ユニバース
M14. ドラマチックに乾杯
M15. Larimar
M16. 共鳴
EN1. タイトル未定
EN2. レインボーローズ
EN3. ヒトコト
■ 山本彩 Official Web Site
http://yamamotosayaka.jp/