【ライブレポート byポップシーン】平井堅『Ken Hirai 30th Anniversary Ken's Bar - One Night Special !! -』5月13日(火)神奈川・横浜アリーナ
May 17, 2025 18:00
平井堅
1995年5月13日にシングル「Precious Junk」でデビューした平井堅が、デビュー30周年イヤーの幕開けにふさわしくデビュー記念日の2025年5月13日(火)神奈川・横浜アリーナにて一夜限りのスペシャル・ライヴ『Ken Hirai 30th Anniversary Ken's Bar - One Night Special !! -』を開店。
『Ken’s Bar』とは、平井自身のライフワークと位置づけるコンセプト・ライブで、日本での有観客の『Ken’s Bar』としては『Ken's Bar 20th Anniversary Special !! vol.4』最終日である日本武道館公演以来、実に約6年ぶり。(上海では2019年12日24日に開店)更に今回は、全国24都市32館の映画館にてライブ・ビューイングを実施。会場に集まった約1万2000のオーディエンスとライブ・ビューイング約1万2000人、計2万4000人が待ち望んだ『Ken’s Bar』に胸を熱くした。
30th Anniversaryのロゴをあしらった赤いステージ幕。会場に響くピアノの音色。楽しげな話し声は客電が消えると共にフェードアウト。期待に目を輝かせ、首を伸ばし前のめりになっている。「楽園」「キミはともだち」「魔法って言っていいかな?」その他、ラジオの周波数を合わせるように、平井の曲が歴代のアーティスト写真と共にノイズまじりに次々と流れた。30周年を感じさせる演出に拍手が沸くと、ステージ中央には平井の姿。いつの間に?と言わんばかりの驚き顔や声をかきわけ、聴こえたのは「even if」のサビ。艷やかな平井の歌声と、鈴木 大の美しいピアノに呼吸さえ忘れそうだ。
「Ken’s Barへようこそ!」
そう挨拶し、石成正人のギターは「楽園」を奏でた。2000年にリリースされたこの曲は、平井堅というアーティストがブレイクしたきっかけと言ってもよいであろう。ヴォーカリストとしての表現力を変え、今の平井に繋がり、リリースから25年経った今もなお愛され続けている楽曲だ。続く「告白」での力強くドラマチックなピアノと、ヒリつくような感情を吐き出す平井の歌声を、ライティングが作り出すモノトーンの世界がより際立たせた。歌とピアノ、たったその2つが会場を飲み込む。圧巻だ!曲が終わり、会場は割れんばかりの拍手に包まれ、その世界に飲み込まれたひとりでもある筆者も感嘆した。そんな会場の空気を変えたのは、映画『千と千尋の神隠し』の主題歌「いつも何度でも」だ。近くで目にするオーディエンスの顔は、穏やかにほころびリズムをとっている。2001年リリースのRemix Album「Kh re-mixed up1」収録で全英詞の「One Love Wonderful World」はグルーヴ感に溢れ、数多い関係者席の人たちもリズムをとっていた。
低い音と共にモニターは残像のように平井をゆっくりと映す。顔、肩、髪……。吸い込まれるように音が消えると、ピアノは「瞳をとじて」を奏で、そのイントロに拍手が広がる。わざわざ説明するのも無粋だが、映画『世界の中心で、愛をさけぶ』主題歌で、映画タイアップ曲としてオリコン年間シングルチャート史上初となる年間1位を獲得した、言わずもがなの名曲。この曲だけではないが、時代が変わり、音楽の聴き方や在り方が変わろうが、平井堅というアーティストにはこのように色褪せず、いつまでも心に刻まれる楽曲が数多く存在する。曲が終わり、鈴木が奏でたのはKANの「エキストラ」のフレーズ。そこから旋律は「思いがかさなるその前に…」へ。今回、ピアノソロや石成のギターソロでもKAN氏の楽曲が奏でられており、平井のKANへのリスペクトが伺い知れる。ここで【ACT1】は終了。休憩に入る旨のアナウンスに続き、ダジャレ混じりの平井の影アナが会場を笑わせた。
【ACT2】最初の「POP STAR」では、曲の始まりより先に興奮を帯びた歓声が広がり、客席を見回すオーディエンスの姿があった。
歌いながら平井がセンターやアリーナを練り歩いているのだ!その歓声にもみくちゃにされながらも、平井も心から楽しそうな笑顔を見せオーディエンスに手を振った。筆者の眼の前を通った時は思わず仕事を忘れ、“いち平井堅ファン”として、歓声をあげそうになってしまった(笑)。ステージにはミュージシャンの他、勿論あっくんともっくん(ミュージックビデオに登場するアライグマとモグラの着ぐるみ)もいる。本当に楽しい雰囲気だ。熱気はそうすぐには冷めないが、ピアノソロは、その興奮と寄り添いながらも優しく心を鎮め、“太陽”へ。『没後120年 ゴッホ展-こうして私はゴッホになった-』のテーマ曲として書き下ろされた2010年の楽曲で、筆者が個人的に大好きな曲だ。ゴッホを感じさせながらも創造する苦しみとその先にある歓びはきっと平井自身も同じなのだろうと、清澄な歌声にじっと耳を傾けた。
ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)のベースと平井の歌のみで構成された「哀歌(エレジー)」は前代未聞であり、激しく心が震えた!アカペラを基調に、ここぞというルートをソロであったり声に重ねたりしながら曲の世界観を生み出す。平井のファルセットと低くうねるベースは両者一歩も譲らず、だが完全に溶け合う。両者の、そして圧倒される楽曲の存在感。
多分この時点ではこのベースが誰かわからなかった人も多いはずだが、続く「メリー・ゴー・ラウンド・ハイウェイ」でクレジットが出た瞬間、歓声があがった。ハマ・オカモトのベースは打って変わってグルーヴ感たっぷりに低音を響かせた。エモーショナルな神谷洵平のドラムにもテンションが上がる!ピンク色の光の粒を散らしたミラーボールにハッピーなクラップがリズムを刻む。拍手が起きたのはジャズアレンジされた「Love Love Love」でのイントロのピアノ。それに続く平井の歌声には更に大きな拍手が広がった。「哀歌(エレジー)」では演奏や発想に心震えたが、「Love Love Love」ではゴスペルのような強さと優しさ、満ち溢れるクラップとオーディエンスの笑顔に心が震えた。舞い散る紙吹雪に開放感を感じる平井の笑顔。いつまでも鳴り止まぬ拍手。
「今日はどうもありがとうございました」その言葉に更に拍手と歓声が大きくなる。
「なんか、無愛想なコンサートでごめんなさい」
本編は残すところあと1曲。ここまでの13曲MCなしだったことを謝る平井。しかしファンからは「おかえりー!」や「大好き!」の声。みんなこの日をどれだけ待っていたことか。小さい頃、大人というのは若者の背中を押す存在だと思っていたが、未だ大人になりきれない自分がいるという平井。「情けない話ですが、53歳にもなって未だに誰かに褒められたくて。褒められないと不安で、よく頑張ったねと頭を撫でてもらいたいところがあって(笑)」と、ユニークな自虐ネタを交えながら会場を笑いに包んだ。だが、「よく頑張ってここまで生きてきた。みんな偉い!」と、この会場に集まったオーディエンスと映画館で観ているファンに、普段自分が言ってもらいたいと思っている言葉を伝えた。大人になると褒めてもらえることは少なくなる。だが綺麗ごとではないこの平井の言葉は深かった。自身をスペックの低い人間と言いながら、再び笑いを交えたエピソードで会場を和ませつつ「無理に繕わず、無理に媚びず、逆に大きくみせようとしたりせず、あなたはそのままが1番素敵だと思いますので、そのままでいてください。今日は来てくれて、いてくれて、今まで生きてくれて、本当にありがとうございました!」とやはり深い言葉で感謝を述べた。モニターにはキラキラと星空が瞬く。このMCからの「LIFE is...」はある意味ズルい!あちこちから涙を拭う姿に、“そうだよね!”と勝手に心の中で共感した。平井の高く繊細な歌声は頭を撫でてくれるような、そんな優しさがあった。
鳴り止まぬ拍手はアンコールへのクラップへ変わった。ステージにはストリングス。平井は花束を手にゆっくり登場。アカペラとストリングスで構成された「ノンフィクション」は、音楽でありながら平井の心からの問いや願いに聴こえた。特に約10秒の沈黙のあとで歌った最後の“会いたいだけ”は、演出ではあるが、演出ではない。この曲の根幹そのものの沈黙だったとさえ感じさせた。曲が終わり、笑顔が戻った平井はステージの端々へ走り、手を振り、最後はオフマイクで「今日は本当に、どうもありがとうございましたー!」と叫んだ。約5年ぶりの有観客での『Ken’s Bar』は、横浜アリーナと全国の映画館のライブを楽しんだ2万4千人を魅了し、幕を閉じた。
Photo:柴田恵理
Text:秋山雅美
□ セットリスト
【ACT1】
1.even if
2.楽園
3.告白
4.いつも何度でも 「千と千尋の神隠し」より
5.One Love Wonderful World
6.瞳をとじて
7.思いがかさなるその前に…
【ACT2】
1.POP STAR
2.太陽
3.君の好きなとこ
4.哀歌(エレジー)
5.メリー・ゴー・ラウンド・ハイウェイ
6.Love Love Love
7.LIFE is...
<Encore>
ノンフィクション
■ 平井堅 30th記念スペシャルサイト
https://kh30th.net
■ M-ON! LIVE 平井堅 「Ken Hirai 30th Anniversary Ken's Bar - One Night Special !! -」放送決定!
<放送日時>
2025年7月12日(土)21:00~22:00
※放送内容はライブ内容と異なる場合がございます