高橋優、ツアーや作品を通じて感じる大切なこととは?New Single「キセキ」インタビュー
March 24, 2024 20:00
高橋優
前作10月に配信シングル「雪月風花」(アニメ『ドッグシグナル』OP)をリリースし、現在、初の47都道府県弾き語りツアー 2023-2024「ONE STROKE SHOW~ 一顰一笑~」真っ只中の高橋優。今年9月21日(土)・22日(日)には秋田県能代市での「秋田CARAVAN MUSIC FES 2024」の開催も決定した他、ライブイベントや楽曲提供など精力的な活動をこなしている。そしてそんな中、3月6日(水)に配信シングル「キセキ」をリリース。TBS『news23』のエンディングテーマとして書き下ろされたこともあり、リリース前から耳にした人も多いはず。季節を織り込んだ優しいバラードは悲惨なニュースや疲弊した心をそっと包みこんでくれる。今回はこの「キセキ」をはじめ、前作「雪月風花」や、ツアー名にもなった<一顰一笑>の意味など、今の高橋優の考えを伺ってみた。
ー 現在ツアー中ですが、47都道府県弾き語りツアーは初めてなんですね。
そうなんですよ。今までのツアーをトータルすると47都道府県すべて回ってはいるんですが、バンドスタイルを含め一気に回ったことはなくて。
ー 公式Instagramで、回った土地のものを色々紹介するのが面白いですよね。個人的には栃木公演後のストーリーズで、オタマトーンを使って「蛍の光」を演奏している映像が好きで。あの音と優さんの表情が絶妙で、疲れた時は癒やされています(笑)。
いやぁ、あんなユルい動画で癒やされているって言ってもらえるのは嬉しいです。せっかく47都道府県回るから、ご当地の食べ物を食べたり郷土品を紹介したり、その土地その土地で自分が面白いと思う部分にフォーカスを当てているんですよ。
ー ああいうのは、観ているこちらも旅をしている気分になってすごく楽しいです!
なります?それは嬉しい!僕自身はステージの上が一番楽しみなので、それ以外は割と修行というか……。
ー 修行?
日頃だらしない生活をしていたら全部出ちゃうんですよね。弾き語りって誤魔化しがきかないじゃないですか。体一つでライブを成立させるので。
ー それは確かに。
だからメンタル的な部分でも余計な絵の具を出来るだけ塗らないというか、それを結構心がけていると面白いんですよね。勿論大変な部分もありますが、極力弾き語りを楽しんでいるモードでステージに立つということに、今は集中しています。
ー 今回のツアー名にもなっている“一顰一笑”とは、顔をしかめたり笑ったりという意味ですよね。
そうです。“一顰”は顔を歪めるとか顔をしかめることで、“一笑”は笑う。人の顔色を伺ううという言葉の代わりに、一顰一笑を伺うなんて言ったりしますが、例えば朝起きた時、自分の中には無色透明な液体があるとします。
ー 無色透明な液体?
それは心なのか脳なのか分からないですが、とにかく無色透明なんですよ。目を開けて一番最初に窓の外の空を見る。雨かもしれないし青空かもしれないその空の情報が、無色透明な液体の中にちょっと入ってくるんです。で、起き上がって洗面台にいったら歯磨き粉が切れているという、自分にとって若干のネガティブ情報がまたその無色透明の液体にぽちょんと落ちる。そうやって一日の始まりから終わりまでの間、自分の中に入ってくる情報と自分が抱いた感情で、皆さんの中にある無色透明の液体が夜には何色になってますかという話なんです。でね、今は生活周りのことで話しましたが、大抵の人はスマホを見るでしょ。
ー ええ。
誰が誰と不倫したとか、殺人事件だ、戦争だって、自分にとって良い情報なのかどうかも分からず雪崩のように淀んだものがドバーっと無色透明の液体に入り続けながら一日生活して、夜にはもう下水みたいなものが溜まっていると僕は勝手に思っているんです。勿論、スマホを上手に活用している人もいるけれど、ひと言で感情と言っても人それぞれ色が違うし濁り方も違う。そういう中で、多分純粋な水を持ってる人ほどキツイと思うんすよ、今の時代って。自分の価値観を押し付けてくる人っているんですよね。自分も無意識にそういうことをしているかもしれないけど、出来るだけ自分の価値観は押し付けたくないんです。でもドバドバと色々な色を相手の心の中に注ぎ込んで「こういうもんじゃん!」の前提で取り上げたり渡してきたり。でもそれってお前の人生に不要なものや必要なものでしょって思っちゃうんですよね。これは勝手な想像ですが、高橋優の歌を聴いてくれている人たちって今の時代を快適と思ってないと人が多いと思うんですよ。いや、これは価値観の押し付けじゃなく勝手なイメージね!(笑)
ー いや、でも何となく私も勝手なイメージだけどそう感じていますよ。
類は友を呼ぶじゃないけど(笑)。本当は、今流行っているスイーツ屋とかにみんなで並んで、インスタにあげてハッピーみたいなことだけで100%の幸せを感じられるような人間に生まれていたら、どれほど楽だったろうって考えている人たちが、高橋優の「ボーリング」や「こどものうた」を聴いて、“あぁ面倒臭ぇ!”とか“キレろよ女子高生”とかカラオケで歌ってくれている気がするんですよ(笑)。
ー 多分私もその一人だな(笑)。
アハハ!でもそこに<一顰一笑>という言葉がすごくハマったんです。一粒一粒絵の具を垂らして純粋な水を美しい色に染めている人もいる。でもある人は、自分でも知らないうちに、人から注がれた色や自分の嫌なものを自ら入れて、その汚いものが言葉になって外に出るんです、きっと。人から出てくる言葉はその人の中身の破片が出てくるだけだと僕は思ってるので、どれだけ綺麗に着飾っていても言葉の節々にその人の汚い水の言葉が出てくる気がしているんですよね。でもそれこそが<一顰一笑>。逆に言うと笑いだけの人生が本当に良いのかも分からないし。色々な色に濁ったり染められてしまったけれども、それでも寝て起きたらちょっとだけ澄んだ色になったかもしれない。それで今日はどんな一日にしようか考えながら僕らは一顰一笑しているんです。そこにこそ面白さもあると思うし、僕はこの14年間そこにずっとフォーカスを当てて歌ってきた気がするんです。
ー 優さんの楽曲それぞれの中に一顰一笑がありますしね。
世間に持たれているポジティブなイメージも光栄なんですが、意外と僕は笑わないんですよ(笑)。インディーズ時代とかデビュー当時からライブを観たことがある人なら多分ご存知だと思うんですが、笑っていても目は笑っていないなんて言われたりもするし。
ー 言われてましたね(笑)。
僕の中にも間違いなくそういう濁ったものもあるし、澱んでしまっている時もある。でもそこを表現し続けてきた自分だから出来るライブであり、共鳴できる時間なんじゃないかなと思っているんです。あとは語感として「ONE STROKE SHOW」に対して韻を踏んだところもありますが。
ー めちゃくちゃ納得ができました。そして今作「キセキ」ですが、TBS『news23』のエンディングテーマ。とても優さんらしい歌詞で溢れていますが、改めて想いを教えていただけますか。
春夏秋冬がはっきりしているのが僕らの暮らしてる日本の良いところじゃないですか。春になったねとか、夏が近づいて暑くなってきたねとか。
ー ええ。
そういう景色を誰かと一緒に見られることって一見普通に感じるけど、そういう当たり前の日常こそがとても貴重なんじゃないかなと思い、それを歌にしたかったんです。今って当たり前のものが全部揺らいでいる気がするんですよね。僕も原因を作っている一人なんだろうけど、僕ら自身の手でその当たり前を引き裂いているような不気味さを感じていて。四季がはっきりしなくて冬なのに暑かったり、春なのに大雪が降ったり。それは気候だけに限らず、人同士の傷つけあいとか。例えば未来ではなく過去を見て人を批判し合うこともすごく多いし、何よりそういうことが段々当たり前になっているのがすごく気持ち悪いんですよね。同じように気持ち悪いと感じている人がどれくらいいるのか分からないし、もしかしたらそういう方が心地良いと感じている人たちが多いから、こんなにみんな喜んでギスギスしているのかもしれないけど、もしそうなら悲しいですよね。
ー そういう状態の方が心地良いと思っている人が多くないことを願いたい。
僕は怒ったり、ギスギスしたり、人の過去を指差してあれをやっただろう、これをやらなかっただろうって責めるのがすごく嫌なんです。だからこそ、この「キセキ」は今と明日くらいを見つめられるような曲にしたかったんです。それに『news23』のエンディングテーマという部分を考えると、一日の終わりに聴いてもらえる機会が多いのかなと思って。
ー 実際、ニュースでは目を覆いたくなる事件や胸が痛くなることも多いですし、そういうニュースの後にあの曲が流れると気持ちが安らぐというか。視点は少し違いますが、前作「雪月風花」でも、四季を通じて同じ時代を生きる大切な相手へのメッセージを感じました。
「雪月風花」は『ドッグシグナル』のオープニングということもあり、ペットを飼うことや動物と一緒にいることもコンセプトのひとつにはありましたが、視点はちょっとずつ違えども確かに僕らが目にしているもの、すぐ近くにあるもの、大切なことを歌いたいと意識はしていました。僕、震災や防災に携わっている人たちとお話をする「HEART TO HEART」(J-WAVE 81.3 FM)という番組のパーソナリティーを一年間担当させていただいたんですが、例えば家で今、大きな地震があったらやっぱりまずは自分が一番大切と思うものに目がいくと思うんです。例えば家族とか飼っている犬とか。
ー ええ。
今って情報過多だから、いらない物も欲しい物もごちゃまぜで全部手に入るけど、被災した人やボランティアに行っている人たちのお話を聞くと、一番大切なものや手に入れたいものは水や電気などのライフラインなんですよね。あとは大切な人の写真や思い出の品。それが火災で焼けたり津波に流されたり戦争で爆発したりして、全部失ってしまうわけです。