堂珍嘉邦 インタビュー<パート1> ミュージカル『アナスタシア』での「俳優」としての姿とは。
October 16, 2023 18:00
堂珍嘉邦
CHEMISTRYとしては勿論、ソロとして、そして役者として活躍中の堂珍嘉邦。9月から開催されたミュージカル『アナスタシア』の東京公演が無事に千秋楽を迎え、10月19日(木)から梅田芸術劇場メインホールにて大阪公演に突入。アーティストとしては、ソロ活動10周年記念公演作品『堂珍嘉邦 LIVE 2022 ”Now What Can I see ? ~Drunk Garden~”at Nihonbashi Mitsui Hall』が11月17日(金)に発売。今年も同名のライブが11月18日(土) ・19日(日)が開催。更にCHEMISTRYとして約2年ぶりとなるホールでの全国ツアー開催の発表もファンを喜ばせた。そんな堂珍嘉邦の、“俳優”と“アーティスト”の顔を作品と共に、2回にわたり掘り下げてみたい。パート1の今回は、グレブ役を演じているミュージカル『アナスタシア』について。今作品は2020年に日本初公演。しかしコロナ禍ということもあり、東京公演の初日を延期しつつも最終的に東京公演途中にて全公演中止という苦渋の決断を強いられた。そして今回再びの日本公演。“俳優”として堂珍が大切にしていることや価値観などを伺ってみた。
ー 先日、ミュージカル『アナスタシア』を拝見しました。
ありがとうございます。いかがでしたか?
ー 興奮しっぱなしでした(笑)。ネタバレになるので細かい内容は書きませんが、第一部でグレブがアーニャの名前を叫ぶ声の響きには鳥肌が立ちましたし、第二部でアーニャと対峙するシーンは、私を含め会場の緊張感がすごかったです。
嬉しいですね。『アナスタシア』は3年半ぶりくらいの再演でもあるんです。
ー そうでしたね。
2020年の初公演は新型コロナウイルス感染症の第二波もあり、舞台がパタパタと中止になっている真っ最中だったので、やり残した感がすごくあったんですよ。他のキャストの方もそうでしょうが、特に若い役者の方たちはあの舞台に向けてそれぞれ頑張っていたし……。今回は再演という形ですが、実際には走り切っていない作品なので、みんなも色々な想いがあったと思うんです。ただ悪いことだけでもなくて。前回は残念ながら開いた幕が前半で止まってしまいましたが、役どころは体に入っていたので稽古も順調に進みました。演出家は前回とは違う方でしたが、演出家のさじ加減で印象がどんどん変わっていくものなので、前回『アナスタシア』を観た方にも是非観てもらいたいですね。
ー 演出家の方から“グレブ”に対して、堂珍さんが演じる上でのオーダーなどは何かありましたか?
今回はあまりなくて、わりと自由に演じさせていただきました。前回はもっと厳しくて怖い、まさに敵寄りな感情を強く要求された気がします。でもグレブって結構特殊な役なんですよね。軍人の父親を尊敬しつつも、結局アーニャに恋心を抱いてしまう役どころだから。台本上のグレブの行動を見ていると、葛藤がありつつとても変な人というか(笑)…… 何て言うのかなぁ… 演技的には2重人格ぐらいじゃないと成立しないんじゃないの?という感じのところもあったので難しかったです。
撮影:阿部章仁
ー 私は最初、堂珍さんのグレブを観た時に、グレブめー!(握りこぶしで憎さを表現)と思っていましたが(笑)最終的に、この人には幸せになって欲しいと感じました。
それはめちゃめちゃありがたいですね。与えられたグレブ役の葛藤、苦悩の末、観劇して頂いたお客様に、色んな感想を持っていただくことは、僕も興味深いです。
僕の場合は毎回同じ演技をしたくない衝動がどうしてもあるんですよね。勿論好き勝手に演り出すとキャラクターが崩壊してしまうし、印象が変わってくるので、基本的に守らなければいけない部分もあります。それが役者同士の暗黙の了解というか。ただ僕は音楽畑から来ているので、モチベーションを保つためにはキャラクターのイメージを崩さない範囲で、今日はこんな感じだったから次はこういう感じでトライしようと変えながら自分の中で楽しんでいます。その方が僕を観に来てくれている人も楽しいだろうし、ステージって生ものだから常にフレッシュな感覚を心がけるようにしています。
ー 役者同士の暗黙の了解ということは、同じくグレブを演じる、田代万里生さんや海宝直人さんとイメージのすり合わせなどはされないのでしょうか。
しないですね。同じキャストの相手を見て学ぶというか、決まり事以外はその人の人となりで考えたグレブを演じているんです。役者の知り合いにも相談したりもしましたが、やっぱり公演を重ねていく中で流れ作業にならないようにすることが難しいんですよね。だから色々なことを気にかけながら演っている最中です。
ー ちなみに海宝直人さんと田代万里生さんのグレブを客席から観たりは?
1回ずつを観ました。
ー そういう時はどんなことを考えているんですか?
技術的なタイミングも含めて、自分がもしそこに立っていたらどうしただろうって考えます。例えばお客さんが何を求めてここにいるのか、誰を観たいのか、何に感動して、逆にどこをあまり観ていないかなど。
それって、面白いもんです。
― なるほどです。今現在までの手応えはどうでしょうか?
前回は初めてだったこともあり、先ずは軍人としてのグレブの立ち振舞いや強さを稽古の中でずっと求められる事が多かったと思います。
多分それが出来て初めてグレブの弱さや葛藤が生きてくるんじゃないかな。だからこそ稽古の段階ではまずは軍人として見えることを大切に考えました。役作りって自分の中でイメージを膨らませて辻褄を合わせていかないと、その役の持つストーリーに矛盾が生まれちゃうんですよね。そうするとお客さんがその役に入り込めなくなってしまう。
今作のメインはアーニャとディミトリが先ず大切なので、僕は対になる存在。もっと言えば、背負った風呂敷を自分で広げて自分で収める孤独な立ち位置でもあるんです。
そういう意味での精神的な疲れは正直ありますね。
そういう難しさをスムーズに出来てしまう役者さんもいると思いますし、僕自身は、お芝居の技術はそんなにないと思っているので、舞台に立っている存在として、気持ちをのせて立っていることに、強いこだわりみたいなものがあるかもしれません。日々格闘中です。
ー でも何ならスピンオフというか、グレブがメインの物語を観たいとまで思ってしまいました。
そういう意見は嬉しいですね。
ー それと今作はブロードウェイと同じセットを使用する他、衣装やLEDスクリーンを使用した映像など、豪華かつ考え抜かれた演出は圧巻でした。その分、ステージ上や舞台裏ではどういう感じなのかなと気になりました。
みんな早着替えが大変ですね。僕の場合は一番最後、スーツから元の軍服に戻って物語を締めるまでに1分あるかないかぐらいで、その中での着替えを手伝ってくださるスタッフがお二人付いてくれているんです。だから他の人より大変ではないかもしれません。パリまでアーニャを追いかけに行きバレエのショーを見た後に、拳銃のホルスターを一度脱いで拳銃仕込んで上着を着なおして、そこから10分〜15分くらいの余裕があるので気持ちを作って袖にスタンバっています。
ー 衣装はブロードウェイ公演のデザインに基いて、アメリカやヨーロッパから取り寄せた生地で作られているそうですが、着心地はいかがですか?
軍服は着心地良いですよ。でもグレーのスーツは今風のオーバーサイズではなく、ピタピタのクラシカルなデザインなのでめちゃくちゃ肩が凝るんです(笑)。多分、女性キャストの方が何度も着替えるんで大変だと思うんですけどね。