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けいちゃん、「僕がただ何も考えずに戯れに日常の延長で作った作品たちを聴いてほしい」『聴十戯画』インタビュー

けいちゃん、「僕がただ何も考えずに戯れに日常の延長で作った作品たちを聴いてほしい」『聴十戯画』インタビュー

December 13, 2022 18:30

けいちゃん

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昨今、SNSから活動の場を広げるアーティストが多くなった。そういう中、フリースタイルピアニストとして注目されているのが、けいちゃん。チャンネル登録者数107万人を誇るYouTuberの顔を持つ彼を朝の情報番組『THE TIME,』火曜レギュラーとして知った人も多いだろう。人懐っこい笑顔とは裏腹に、類まれな才能を惜しげもなくピアノへ注ぎ込んだけいちゃんが12月14日に2ndアルバム『聴十戯画』をリリース。様々な色を感じる旋律は時にストイックに、時にユニークに響く。「鳥獣人物戯画」を模したアルバム・タイトルはけいちゃんが音と戯れ生み出した10曲。今回はけいちゃんの生い立ちに少し触れつつ、アルバムについて伺ってみた。


ー ポップシーンでインタビューさせていただくのは初めてですので、プロフィール的なところから伺いします。家にあったピアノを弾いていたところ、お母様の勧めできちんと習い始めたということですが。

勧めというか、いつの間にかやらされていたという感じですね(笑)。


ー あ、そうだったんですね(笑)。ではご自身の意志でピアニストを目指そうと思ったのはいつ頃から?

小学校3年生頃からですね。高いレベルの先生のレッスンを受けるようになり、小学校4年生からコンクールに沢山出るようになりました。でも高校生になって現実的に考え始めたんです。ピアニストという職業は本当に一握りの人間しか食べていけないし、自分は男だし稼いで家計を養っていかなきゃいけないって。ただそれでもピアノを活かした仕事には就きたかったので、音楽の先生を目指そうかなと思い、そこで一度ピアニストという夢をちょっと諦めかけたというか、現実的な考えにシフトしました。でも音楽大学に入ってみるとやっぱりピアノが楽しくて、改めて演奏家としてプロになって生活していきたい思いが強くなったんです。ただ最初は先生になろうと思っていたので音大でも音楽教育科にいましたが、大学1年の時に教職課程を取るのをやめてプロを目指すようになりました。


ー 大学時代から少し遡りますが、高校の修学旅行先のロンドンでストリートピアノに出会ったんですよね。その時はご自身もそこで何か弾かれたんですか?

弾きました、弾きました!駅にピアノがあって、周りの友達に「けいちゃん弾いてよ。」って言われたので「ラ・カンパネラ」を弾いたら観光客や現地の方がすごく集まってきて。僕自身そういう文化に出会ったことが初めてだったし、外でピアノを弾いて人がこんなに集まってくることも見たことのない光景だったので衝撃を受けました。ただその時のピアノのペダルがきかなくて、ペダルなしで弾かなきゃいけなかったから凄い大変でした(笑)。


ー それは大変でしたね……というか、私としては修学旅行がロンドンということも衝撃だったんですが(笑)。

僕が通っていた高校って変なところにお金を使う学校だったので、体育祭も西武ドームでやっていたんです(笑)。


ー え、なにそれ!

ですよね。体育祭は西武ドームで修学旅行がパリ、ロンドンという魅力的な学校でした(笑)。


ー なんとも羨ましい!ところで先程コンクールの話がありましたが、主にやっていたのはクラシックやジャズですか?

どちらかというとクラシックをガッツリやっていて、ジャズは大学に入ってからですね。授業で一応ジャズのコード進行の授業とかはあったのでそこで勉強は出来ましたが、やはりジャズはプロの演奏家を見て模倣するのが一番成長できる方法だと思うので、それを凄く沢山やっていました。色々な人の演奏やアドリブを耳コピして真似して耳コピして真似して……を繰り返して、自分の手癖にしていきました。だからジャズに関しては独学といえば独学ですね。でも練習というよりは楽しくてやっていた感じなので割とすぐに吸収は出来た気がします。


ー そういう基礎を活かして今のフリースタイルという形を確立しましたが、やはりしっかりした基礎は大切ですか?

大切です!フリースタイルと言っても自分の引き出しにある中から生み出すので、その引き出しの数が少ないと何も出来ません。だから基礎から増やす引き出しは一番大切だと思いますね。


ー そう考えるとピカソみたいですね。見事な基礎とデッサン力を持っている上で、そこを崩して独自の自由なスタイルで、見る人を魅了する点が共通しているなと。

あ、それいいじゃないですか!音楽界のピカソという見出しにしてください。


ー アハハ、良いですね(笑)。でも今はジャンルにとらわれない分、普段聴く音楽の幅も広いんですか?

そうですね。J-POPも結構聴きますし、僕ラップも大好きなのでラップバトルとか面白いですよね。R-指定さん大好きです!ラップにも演奏に通ずる部分があるんですよ。ラップって韻を踏むじゃないですか。


ー ええ。

アドリブにおいても韻を踏むようなことはすごく大切なんです。メロディーラインがあったとしたら、その形は保持したままちょっと上げた別の音域で弾いたりすると統一性が出て、アドリブではあるけれどきちんと曲になっているそれは作曲も同じなので、韻を踏みながら曲を作ることはよくやります。


ー なるほど!けいちゃんの楽曲の魅力の一端を感じ取れた気がしました。あとけいちゃんといえば、TBS系朝の情報番組『THE TIME,』の火曜日にレギュラー出演中ですが、いかがですか?

CM中とかもよく声をかけていただいて出演者の皆さんとお話させていただきますが、本当に和気あいあいとした現場ですね。勿論皆さんプロとして仕事にはストイックなので真剣なシーンもありますが、スタッフ、演者含めて本当にみんな仲間という感じで仕事がしやすい環境です。


ー けいちゃんの公式YouTubeも面白いですね。変装したのに秒でバレたのとか面白くて何度も観ちゃいました(笑)。

ありがとうございます(笑)。


ー 勿論面白いだけではなく、突然リクエストされた曲をスマホで聴きながらその場で耳コピして弾いたり、飛び入りの子どもと連弾したり。ピアノを通じたそういう人たちとのコミュニケーションが印象的でした。

それが音楽のモットーというか、まさに人と人を繋げるために音楽があると感じられる瞬間であり、存在意義を感じられる瞬間でもありますね。

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ー では作品についても教えてください。12月14日にリリースの2ndアルバム『聴十戯画』ですが、まずこのタイトルセンスに唸りましたよ!


ありがとうございます。今回のアルバムは本当に好きに、自由に作ったというか。日常的に頭の中で曲が思いつくことがよくあるので、それを順番に、ある意味出たもん勝ちで(笑)詰め込みました。その『聴十戯画』というタイトルも、僕がただ何も考えずに戯れに日常の延長で作った作品たちを聴いてほしいという意味を込めています。


ー 曲ごとに違うアプローチが本当に面白かったです。例えば9月にデジタルリリースされた「Zero Rhapsody」のエモーショナルさは中毒性があって何度も聴きました。

嬉しいです。この曲は先程の話でもあった韻を踏む方法を使っているんです。サビで同じ音型を繰り返して耳馴染みを良くし、あえてキャッチーさを狙いました。あと叫び声を、半音の下降で表現しています。


ー 先程「日常的に頭の中に曲が思いつくことがよくある」とおっしゃいましたが、ドラマのようにストーリーを考えて曲を作ることもあるんですか?

あぁ……でも大抵はピアノを弾きながらアイデアが出てくる方が多いです。ただ「人間失格」と「かげおくり」だけはイメージから曲を作っていきました。


ー 個人的には「人間失格」がとても好きです。あの曲はやはり太宰治の作品から?

そうです、そうです。ガッツリ太宰治!ただ、小説というより小栗旬さんが主演の映画を観て自然とイメージが湧いてきて、映画を観た直後に出てきたメロディーだったんです。普段はあまりそういう作り方はしませんが、この曲は悩まずすっと書けました。


ー それと「かげおくり」はミュージックビデオ(以下:MV)の世界も相まって映画のような読後感というか、聴後感がありました。

あのMVも素敵ですよね。ただ、MVはあくまでイメージの一部なので「かげおくり」を聴いた時に感じる各々の感情を大切にして欲しいですし、MVの世界で完結せず一人一人が自分の中で色々とストーリーを持っていってもらえれば嬉しいです。


ー なるほど。それと「Edo」のアプローチも面白いですよね。面白いというか不思議というか。トリッキーなことをしているわけではないのに、吸い込まれる感じで。

まさにそこが狙いです。輪廻というか。元々前作『殻落箱』(2021年)の中に「浄土」という曲があって、その対になる曲みたいな作品を書きたいと思って作り始めたのがきっかけでした。何か神様っぽい曲を書きたいと思ったんです。コード進行もあまり変えずに、サウンドとメロディーで勝負。音もずっと同じことを繰り返してる。精神的グルーヴというか、そういうのでハイになってもらいたいです。