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半﨑美子、アルバム『うた弁3』インタビュー。デビュー5周年、インディーズ時代からずっと走り続け立ち止まった先に見えたものとは。

半﨑美子、アルバム『うた弁3』インタビュー。デビュー5周年、インディーズ時代からずっと走り続け立ち止まった先に見えたものとは。

August 30, 2022 18:00

半崎美子

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半﨑美子『うた弁』シリーズ第3弾『うた弁3』が8月17日にリリースされた。テーマは<立ち止まる>。半﨑の想いを可愛いお弁当に詰めた今作は「蜉蝣のうた」「布石」「地球へ」などの既発曲に加え、今作のために書き上げた「足並み」や「タンチョウの夢」など6曲の新曲も収録。今回は『うた弁3』とテーマである<立ち止まる>について想いを伺った。


ー 3rdアルバム『うた弁3』を、この取材の前日8月17日にリリースされましたね。半﨑さんのSNSを見ると色々とレコード店巡りをされていたようですが、結構大きく展開されているところが多かったですね。

ありがたいですよね。リリース日の昨日まで北海道でのキャンペーンだったんですが、やはり北海道はすごく熱い応援をしていただいています。


ー 勿論それは半﨑さんが北海道出身ということや、楽曲や半﨑さん自身の魅力があるからこそですが、以前ある歌番組で平井堅さんがまだ全然売れない頃から北海道のレコード店の方がすごく力を入れてくれて、北海道の人はとにかく優しいと言っていたんですよ。

あぁ、北海道から人気の火が付くって結構聞きますし、確かに道民の皆さんは優しいですね。


ー やっぱり!私の周りには北海道出身の方ってそう多くはないんですが、半﨑さんはじめ優しいですもん。半﨑さんはその中でも優しいの代表格ですが。

ありがとうございます!!


ー 『うた弁3』のジャケットは今回も可愛いですね。特に5周年をイメージして5匹のタコさんウィンナーが旗を持っていて。

そうそう(笑)。


ー それとCD購入者特典の各店舗&ECサイトのポストカードもそれぞれ素敵でした。半﨑さんが草原にいたり、観葉植物が沢山置いてあるおしゃれな部屋にいたり、ジャケットのお弁当を食べていたり。あと大きなタコさんと一緒にいたり(笑)。

あれ可愛いですよね(笑)。今回もアートワークを担当してくださった半崎信朗さん、珠美ご夫婦と私で話し合いながらデザインを決めたんです。アートワークに関しては『うた弁』(メジャー 1st ミニアルバム/2017)からずっと半崎さんご夫婦とタッグを組んでいるので、お互いに求めるものや表現したいポイントが分かっていてとてもスムーズに出来ました。今作は<立ち止まる>をテーマにしたこともあって、『うた弁』は私が一生懸命お弁当を作っている側でしたが、今作は私自身がゆっくり木陰で休みながらお弁当を食べる側のメージにしたんです。


ー 実は私、まだ完成したアルバムを生で見ていないんですが歌詞カードにも半﨑さんの想いが色濃く出ているようですね。

そうなんです!ミニ半﨑美子がタコさんと並んでいたり、ほうれん草の上に乗っていたり(笑)、大樹の下で私がゆっくりお弁当を食べている写真があったり。やはり歩みを緩めるというか、ゆったりとした時間が歌詞カードの中にも流れている印象が強いと思います。


ー 今もお話にあったように今作は<立ち止まる>がテーマ。改めてそのテーマに至る想いを教えていただけますか。

デビューしたこの5年間って本当に振り幅が大きかったんです。最初の約3年間は脇目もふらず走り続けてきましたが、その後の約2年間はコロナ渦で歩みをストップする期間になり……。でも考えてみれば17年間のインディーズ時代も含めて本当に走り続けるというか、止まってはいけないと自分自身思っていましたし、特にインディーズの頃なんて私が動かない限り何も進まない不安や焦りから、今日より明日、明日より1週間後、何かしら進化していなければいけない、成長しなければいけないと自分に課していたような気がするんです。


ー それが元で結構無理しちゃってたこともあったんじゃないですか。

自分自身ではあまり感じてなかったんですが、振り返ってみるとかなり暴走していたとは思いますね(笑)。


ー 暴走(笑)。

そうやって暴走しながら(笑)、デビューして沢山の方と関わることが出来て更にスピードを加速させる感じにはなりましたが、コロナ渦で初めて自分自身も立ち止まることを経験して。でも見えていなかった景色や聞こえていなかった声を感じられて、自分にとって立ち止まることを肯定出来たんです。そうやって立ち止まって色々なことを振り返ると、私は前へ前へと進んでいる人より、立ち止まっている人にこそ学びや気づきを得ていたんだなと分かって。例えばサイン会で出会った方達の中には今、悲しみの中にいてそこから一歩も前に進めない、そういう方達も沢山いらっしゃいました。そういう方達と出会う中で自分自身も生きる力をもらっていました。立ち止まることって、前に進むよりも深く潜れるというか、前に進むことのみ注力していると深く潜るのが難しいけど、その場で留まることによって深く潜れるんだと感じながら新曲を書き、今作に収録しました。だから今回の新曲はコロナ渦の2年間で書いた曲ばかりなんです。


ー 半﨑さんの実際の立ち止まった時間や想いが入っているんですね。

そうなんです。自分自身の作品や活動そのものも実は立ち止まってたんじゃないかって思うんです。例えば今はショッピングモールのライブで本当に沢山の方が観に来てくださいますが、インディーズの頃はなかなか足を止めてもらうのが難しい状態でしたし、人が行き交う中でどうやったら足を止めてもらえるんだろうということばかり考えていました。でもその中でたった一人でも、立ち止まってくれる方がいて……。立ち止まるって自分の意志なのですごく能動的な振る舞いだと思うんですよ。私の歌声なのか、歌詞なのか、何かにたまたま共鳴して足を止めてくれて、私自身もそこで立ち止まって歌っている。お互いに立ち止まった場所で出会っているんだなと感じたんです。


ー あぁ、なるほど。確かにそうですよね!

それはコンサートホールでのコンサートも同じで、その時間は一緒に立ち止まる時間であり、その時間の中で自分の想いを深めたり大切な人に想いを馳せたり……。そしてライブが終わって会場を出たらみんながそれぞれのリズムで歩き始める。だからコンサートやイベント、楽曲、そのすべてが<立ち止まる>ことなんじゃないかなと思い始めたんです。


ー 深いですね。そう考えるとこういうインタビューの時間だって、ある意味立ち止まってお互いに相手の話を聞いてディスカッションしていますもんね。

そう、そう、そうなんです!インタビューの時って作品だけでなく、これまでの自分を振り返って思いを深めることや、改めて気付かされることが結構あるんですよ。前に進んでいる時はなかなか気付けないんですけどね。


ー 今回の『うた弁3』ですが、おかわり(特別な日常 -piano ver.-)まで美味しかったです(笑)。

それは嬉しい(笑)。


ー どの曲も半崎さんらしい大好きな味付けだけれど、新しい味付けもありつつ。新曲についても色々伺いたいのですが、「色彩」はメロディも半﨑さんの歌い方も淡々としていますが、大切な人がいなくなりどこにも心が動かない感じや人生の色を失った時の心理状態ってまさにこの感じだと思ったんです。泣かせるための変にエモーショナルな演出がないこの曲の感じ。

すごく分かります!なんか無機質というか。


ー そうそう!

でもその感想は貴重です。確かに淡々とした歌い方や歌詞など、この曲ではエモーショナルとは反対の表現をしています。悲しみが極まった時って涙すら出ないですよね。サイン会などに来てくださった方からもそういうお話をよく耳にしますし、私の歌を聴いて「ずっと泣けなかったんだけど、やっと泣けました。」と言ってくださる方もいらっしゃいます。心自体が全く動かなくなることって本当にあるので、そういう心理状態がそのまま歌になっている気がします。


ー アレンジを務めた五十嵐宏治さんの鍵盤だけが入る本当にシンプルな作りですが、歌い方も含め、半﨑さんの中では最初からこういうサウンドイメージがあったんですか。

はい、ありました。最初のデモの段階ではいくつかの楽器が入っていたり、もう少し抑揚があったんですが、シンプルに淡々と聴かせたいということを五十嵐さんに相談してこういう形になりました。


ー 歌詞も印象的でした。“型落ちの自転車”、“欠け落ちた半分に”、“張り付いた約束”など、決して派手ではないのに心に染み入る詩的なワードが多いなと感じました。

確かにあまりこういう形の楽曲って自分の作品の中でも少ないですね。自分自身と町の風景を重ねる心情。


ー それがすごく新鮮でしたし、新しい形の寄り添う曲な気がして。

直接的に“あなたの傍にいます”と言っているわけではないけれど、自分と同じく心が動かなくなってしまった人がいる、自分だけじゃないんだと思えるところですかね。


ー そうなんです!だから今作はどの曲が一番好きと決められないくらいにそれぞれ色の違う魅力溢れる曲が多いんですが、この「色彩」はその中でもかなり好きです。

あー、本当ですか!?嬉しい!


ー と、いいつつやはりリード曲の「足並み」も良いんですけどね(笑)。

ありがとうございます!


ー それぞれの曲に<立ち止まる>というテーマが当てはまると感じましたが、やはり「足並み」を聴いた時は今回のテーマ性を改めて感じました。

今作はまず<立ち止まる>というアルバムテーマから始まっているんです。特にテーマに寄り添った曲を作りたいという想いでこの曲は出来ました。世の中のペースに足並みを揃えなければいけないのかというと、私は決してそうではないと思っているんです。立ち止まることを自分自身も経験しましたし、例えば今立ち止まっている方がいたり、立ち止まらざるを得ない状況の方がいらっしゃる時に、私はその方たちをはぐれないように歌い続けたいんですよね。だからこの曲は“立ち止まって良いんだよ”ということを言っているのではなく、あくまでも自分の意思表明みたいなものかもしれません。


ー だからすごく力強いですね。

そうなんですよ!


ー 例えば「私に託して」や「時の葉」のような力強さともまた違うし……。

そうそう。寄り添うという意味でも「地球へ」とはまた違う“意志”みたいなもの。


ー 何かのリスクがあったとしても甘んじて受けようというぐらいの覚悟にも似ていて、半﨑さんの歌声からも強い意思を感じました。特に一番最後の「時が進んでも 巡っても」の力強さは今まであるようでなかった気もしますし。

その部分はお腹の底から声を出したというか、本当に叫んでいるわけじゃないけど、魂の叫びくらいの感じで歌いました。多分この曲は半﨑美子そのものというか、それまでの活動や想いがそのまま出ている気がしますね。