近石涼、「ラベンダー」インタビュー。アレンジャー平畑徹也氏と作り上げた曲とは?
July 8, 2022 20:00
近石涼
神戸出身のシンガーソングライター、近石涼。アーティスト一家に生まれ、幼少期に習っていたピアノをきっかけに音楽と出会う。歌うことが好きだった子どもは中学生の頃にギターを弾きはじめ、高校生の頃からアップし始めたYouTubeでのカヴァー動画で注目を集める。2014年に<閃光ライオット>のコピバン部門に出演し、2016年の<COMIN’KOBE16>にて自作曲「シンガー」がグランプリを獲得。その他アカペラ・グループで「全国ハモネプリーグ」にも出演した近石は、2020年には関西最大級の音楽コンテスト「eo Music Try 19/20」にて準グランプリ受賞。2021年6月には自主盤『ハオルシアの窓』を発表し、2021年ラジオ局「FM802」と「グランフロント大阪」が支援するプロジェクト「MUSIC BUSKER IN UMEKITA」ライセンスを取得する。昨年12月にリリースしたアルバム『Chameleon』を引っさげ、2022年1月 神戸VARIT.での自身初のワンマンをソールドアウトで飾ると3月からは<Chameleon Tour 2022>を開催。そして4月に配信シングル「自分らしさなんて捨てられれば」をリリースし、6月29日には新曲「ラベンダー」を配信リリース。勢力的な活動を続ける近石の今作「ラベンダー」は別れをテーマに、ラベンダーの花言葉が歌詞に散りばめらている。今回は楽曲についてや近石の魅力である“声”について伺ってみた。
ー 4月に初のツアー【近石涼 Chameleon Tour 2022】を開催されましたが、振り返ってみていかがでしたか?
僕がコロナに感染してしまい広島公演を中止せざるを得なかったので、それに関しては楽しみにしていたファンの方たちやスタッフなどに対して本当に申し訳ないと思っています。ツアーに関しては初めての場所ばっかりやったので、スタート前は聴いてもらえるか、そもそもお客さんが来てくれるのかなど色々な不安がありました。でも今までは不安を理由にやってこなかったことも多かったんですよ。<Chameleon Tour 2022>の前のワンマンライブもそうやったんですが、でも実際に動いてみると何か掴めるんですよね。そこでのお客さんとの出会いもそうですし、色々な場所で同じ歌を歌っていても聴かれ方が違ったりすると、こちらも気持ちも変わってくることに気づけたので、どれだけアウェイなところでも歌えることが大切やと思うし、そういうことも含めて成長できた1ヶ月やったなと思います。
ー 6月29日に配信シングル「ラベンダー 」をリリースされましたが、別れがキーワードになりつつ、ストーリーが進むにつれて希望や苦悩や未来を感じられて、ショートムービーのような曲だなと思いました。
ありがとうございます!6月にリリースしたいという話になった時に、そういえば季節の歌をあまり作ってこなかったことに気づいて、6月の花を調べてみたんです。そしたらラベンダーがあって花言葉も調べてみました。
ー どんな花言葉があったんですか?
「あなたを待ってます」という意味や「沈黙」、「期待」とかいくつか出てきて。
ー いうことはキーポイントが季節で、そこから花に行き着いたわけですね。
そうですね。この時期にリリースすることを決めていなかったらこういう曲は出来ていなかったかもしれません。花言葉を中心に物語を作りあげて、ラベンダーが象徴的に曲に出てくることで曲のストーリーというか世界観を表現出来たらなと思いました。
ー ミュージックビデオ(以下:MV)を拝見しました。学生時代の近石さんを投影するような作り方で、学生時代の甘酸っぱさを感じました。近石さんからもアイデアは出したんですか?
いえ、制作の方にお任せしました。というのもMVは男女のストーリーになっていますが、僕は元々それを意図していなかったんです。ラブソングのつもりではなかったけど、色々な捉え方が出来る歌詞って、聴いてくれた人や誰かに寄り添えるし、その分余白があるじゃないですか。
ー ええ。
説明し過ぎない方が自分のシチュエーションに照らし合わせやすいと思うし。ただ説明しすぎないのもまたモヤっとしちゃうので(笑)その塩梅が難しいんですよね。だからMVのストーリーは一つの解釈を提示してるみたいな感じだと僕は捉えたので「いや、これはラブソングじゃないので却下!」ということはなかったです(笑)。
ー 確かに想像力の余白は大切ですよね。MVでは学生時代の近石さんがモデルになってるといういうか。ちょっと雰囲気も似ていますよね。
え、本当ですか!?横濵翔希さんという20歳の俳優の方なんですが、もう男前過ぎて。
ー だって近石さんだって男前じゃないですか。
いやいや。どう観てもらえるかが心配です。まぁ髪型が似ていたことが一つの救いですかね(笑)。
ー 女の子と片方ずつのイヤホンで音楽を聴いたり、内緒で放送室入っていったりするあの感じはかなり甘酸っぱかったですが、近石さん自身もそういう経験はありましたか?
えー。学校であんな甘酸っぱいことは……僕、部活をしてたから誰もいない教室に二人だけで残るとか経験がないし、周りにそういう人おったんかな(笑)。
ー 部活ってサッカーでしたっけ?
そうです。ずっとサッカー部でした。
ー サッカー部だし高身長だしイケメンだからめちゃくちゃモテたんじゃないですか?
いやぁ……高校時代に告白されたことなんてないし、さっぱりでしたね(笑)。
ー それは意外ですね。曲の話に戻りますが、実は私自身もこの歌詞をラブソングとは思っていなくて、どちらかというと「ハンドクラフトラジオ」や「とんぼ玉」の世界観に近いのかなと感じていました。
ああ、でも「とんぼ玉」はかなり近い気がします。ただこの曲を聴かせた友人からは「ラブソング良いですね。」という感想をもらって、“あ、この子にはラブソングに聴こえてるんや”という発見があって面白かったし、それはある意味正しいんです。僕が意図していない発想や捉え方が出てくることが意図してたことなので、曲が聴かれて違う表情……違う表情というか聴く人の分だけ歌がある。そう感じられる曲が作りたかったので、色々な方に聴いてもらってそれぞれが思うストーリーでその人の生活にフィットした大切な曲になってもらえたら嬉しいです。
ー 歌詞で気になったのは、“優しい風が吹き荒れたら”という部分です。優しい風に対して吹き荒れるという表現はある意味相反するというか。でもそこが面白いと思いました。
これもまた説明過ぎると解釈の余白がなくなりそうではありますが、それこそ相反することは個人的に狙っていました。逆説というか一見矛盾してるようで理にかなっているというか。例えば誰かと一緒にいる時に早めに帰らへん人っているじゃないですか。
ー いますね。
僕、そのタイプなんですよ。解散しても絶対最後まで残るタイプで(笑)、でもいつまでも残ってはいけないことも分かっていて。卒業式でも笑顔で「ありがとう!楽しかったな」ってワイワイしながら別れを惜しむ光景ってよく観ると思うんですが、もし別れがなかったらそんな言葉、絶対言わんかったやろうみたいな言葉が沢山出てくるわけですよ。
ー ああ、確かに!
そういうことに僕は優しい風が吹き荒れるという表現をしたかったんです。
ー 面白いですね。サウンドは疾走感とポップさのバランスが良く、音をきっちり入れているところと抜いているところのメリハリが、曲の世界観に引き込んでくれました。アレンジャーの平畑徹也さんとはどういうやり取りを?
基本的に僕がデモを作ってそれを平畑さんにお願いするんですが、この曲は今までの中で一番デモの段階できちんと打ち込んで作りました。というのも僕なりの明確な完成形があったからなんです。僕、最近テレキャスターの音が好きで。テレキャスってエレキギターの中ではちゃきちゃきしたような音が鳴って、それがすごく爽やかに感じるんですよ。だからデモの段階ではテレキャスを使ってもっとカントリーっぽいギターフレーズを入れていました。だから音的には少し変わりましたが、曲のイメージというか全体像はあまり変わっていません。
ー 特に変わった点は?
そうですねぇ……一番変わったところは間奏かな。間奏のギターにディストーションをかけて歪ませているんですが、その部分は平畑さんのアイデアです。僕は落ちサビみたいな感じで“ごめんねいつも通りなら”の部分をチャララって優しく静かに歌うつもりだったんですが、最終的にそのままディストーションを残しました。僕は自分のデモを聴きなれていたので最初は正直違和感もあったんが、曲全体の感じや歌詞のイメージなどをトータルで考えた時にそのアレンジが光っていたので、やはり平畑さんってすごいなと思いました。毎回アレンジして頂いていますが、平畑さんは僕一人では辿り着けないところにいつも連れていってくれるんです。それとコード進行の話はめちゃくちゃやり取りしました。この曲で一番やりとりしたんじゃないかな。僕が考えていたコードを平畑さんが違うコードに置き換えて、でも「僕はあのコードが良かったんです!」って言うとそのニュアンスを汲んで修正してくれる。そういうやりとりでしたね。でも元々出したイメージで曲は出来上がりましたしベースにはこだわりました。サビのベースってずっと同じ音なんですが、同じ音で上のコードだけ変わっていく。その部分が結構長くて、あのコード進行は僕なりにすごくこだわったし気に入っている部分です。最近の曲でサビのベースがずっと動かない進行ってあまりない気がするんです。あの進行が卒業式とか、何らかの別れの切なさと清々しい寂しさみたいなものを表現できるコードだと思っているので、僕の中でしっくりきています。ただサビ感は少ないからサビがどこか分からないかも(笑)。
ー 正直、それはありました(笑)。
ですよね。なんならAメロの方がキャッチーだったりして。
ー でも曲としてはすごく耳に残るし、例えばノイタミナの主題歌にありそうと思うくらいキャッチーでした。
ありがとうございます。サビ以外のメロディーはなるべく耳馴染みが良くキャッチーにしたかったんです。ただリフレインみたいなキャッチーさというよりは、コードに対してメロディーの流れでの耳馴染みの良さを目指しました。普段は歌詞と曲をほぼ同じタイミングで作ることが多いんですが、この曲はワンコーラスはメロディーの打ち込みを先にしてそこから歌詞を乗せる作業をしたので、そういう面でも今までになかった作り方でした。