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平井堅「悲しいのは君だけじゃない」に感じる昭和の名曲。

September 13, 2019 21:30

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平井堅「悲しいのは君だけじゃない」に感じる昭和の名曲。

大抵の友人は筆者が平井堅氏のファンだということを知っている。筆者程度をそう呼んでしまうのは本当のファンに対して失礼なのも分かっているが、ここではあえてファンと言わせてもらおう。

ここのところプライベートで色々あり(残念ながら色恋沙汰ではない)、少々疲れ気味の心を平井氏の歌声に癒してもらっている。気がついたら数年前もそうだった。イレギュラーでハードな日々を乗り越える為に、毎日『THE STILL LIFE』(2016)を聴いていた。

「あのアルバムが心の支えでした。」いつぞや、平井氏本人にそう伝えた時「あっ…」と軽く驚き、2秒もしないうちに「そうだったんですか。」と笑顔を見せてくれた。それは私の言葉が社交辞令でないことを感じ取ってくれたような笑顔にも思えた。

ここ最近は聴きたいものを兎に角ランダムに聴いている。特に1995年5月13日リリースのデビューシングル『Precious Junk』から、今あげた『THE STILL LIFE』(2016年7月6日リリース)までストリーミング配信されるようになり、どこでも気軽に聴くことが出来る。その中でも特に気に入っているのは、「悲しいのは君だけじゃない」。
この曲は1996年12月1日にリリースされた2ndアルバム『Stare At』の1曲目で、作詞作曲を平井堅、編曲をジョー・リノイエと鈴川真樹が担当。

stareat20190913.jpg“平井堅”と言えば、「瞳をとじて」(2004)のようなオーセンティックなバラードを思い出す人も多いはずだが、インド人に混ざり踊るMVで世間を驚かせた「ソレデモシタイ」(2014)や、昨年引退した安室奈美恵さんとのダンサブルナンバー「グロテスク feat. 安室奈美恵」(2014)、大切な友人の死を受け自身の苦悩を吐露するよう歌にぶつけた「ノンフィクション」(2017)など、シングルだけでも様々な顔を持っている。(故にアルバムであれば、もっとコアな面も見られる。)

ただその中でも「悲しいのは君だけじゃない」のサウンドは少し珍しい。

<Don’t Cry Baby 泣かないでよ もう 悲しいのは君だけじゃない>

イントロレスでサビのフレーズから始まる印象的な冒頭。コーラスやホーンなどサウンドは60’sをルーツに持つ90’sらしいポップさと華やかさに溢れる。それでいて力強くリズムを刻むBメロは懐かしさを感じる。ファルセットや高音をメインとした最近の声とは違い、キーの低さも含め、少し青臭さが残るまっすぐな歌い方は、歌詞に見え隠れする悲しみとは裏腹に清々しささえ感じられる。無論当時平井氏はまだ24歳なので現在とは声質や技術が違うのは当たり前だが、その高らかな歌声やメロディは…例えばそう、布施明氏の「君は薔薇より美しい」(1979)や尾崎紀世彦氏の「また逢う日まで」(1971)のような往年の、高らかに歌い上げる清々しい楽曲を彷彿とさせた。令和を迎えた現在、昭和のメロディを語れば懐古趣味と誤解されそうだが、シンプルでありながら耳にしっかり残り、口ずさみたくなる逸曲が多かったのも確かだ。

平井氏のフェイクやファルセットは彼にヒットをもたらした。そこにこそ感じられる繊細さや切なさがあるから。筆者自身、あの歌声は好きでたまらない。ただ、今とは違う歌声や、時代を感じさせるサウンドに触れるのも一興ではないだろうか。

Text:秋山雅美(@ps_masayan

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