POPSCENE - ポップシーン
POPSCENE - ポップシーン

ムーンライダーズ、EBISU JAM 2023最終日に登場!90年代のファンハウス在籍時代のレア楽曲を披露!

October 17, 2023 18:00

moonriders

0
シェア LINE
ムーンライダーズ、EBISU JAM 2023最終日に登場!90年代のファンハウス在籍時代のレア楽曲を披露!

2020年の活動再開以降、ムーンライダーズのライブは2つのパターンがある。サブタイトルにアルバム名を冠したものと、そうでないもの。アルバム名が入ればそのアルバムの再現だったり、レコ発記念だったりとセットリストは想像が付く。

ファン泣かせは後者の「そうでないもの」の方。今回はイベント参加の一環なので、後者に該当する。そうなると何を演るのか?公演前からファンは気もそぞろ。もっとも、事前にあれこれ想像を逞しくするのもムーンライダーズのライブの愉しみ方のひとつでもある。そんな事を考えている内に開演のベルが鳴り、各メンバーが所定のポジションに付き始めた。ここでファンはちょっとした異変を感じる。ライブではセンターに立つことが多い鈴木慶一が、この夜は下手後方で構える。

センターに立っているのはギタリストの白井良明だ。これだけでも、今日は何か違ったことを演るんじゃないか?と期待が高まる。ライブは鈴木慶一の『ムーンライダーズです!みんな一緒に歌ってください!』のMCのもと、アルバム「Bizarre Music For You(1996)」収録の「BEATITUDE」で幕を開けた。メンバー全員のコーラスがファンファーレのように鳴り響く、華やかなオープニングだ。この後演奏されたM02の「果実味を残せ!Vieilles Vignesってど~よ!」からM04の「窓からの景色」までは90年代に発表されたアルバム収録曲だ。今日のテーマは90年代か?と思っているところに慶一から『50年前に、初めて大勢の人の前で歌った曲やりますね』と演奏されたのは日本のフォーク&ロックの名曲中の名曲「大寒町」。歌い始められるや、客席から『待ってました!』とばかりに歓声が上がる。作詞作曲は鈴木博文だが、あがた森魚の歌唱(1974)で知られ、その後、ムーンライダーズでも度々演奏された曲だ。90年代から70年代に逆行かと思わせて、続く楽曲は「Bizarre Music For You(1996)」収録曲の3連発。M08の「ニットキャップマン外伝」では、鈴木博文がブルースハープを吹きながら、客席に降りる。そこからステージ上の鈴木慶一を招きいれ、客席内でギターとブルースハープの掛け合いを披露。期せずして実現した鈴木慶一・博文兄弟の共演にオーディエンスも大喜び。場内の盛り上がりもヒートアップ。

そして続くMCで鈴木慶一から、この日の"種明かし"。8月に1994年から1997年まで在籍したファンハウストラスト・レーベル時代の音源を集めたBOXがリリースされたこともあって、この夜はファンハウス時代の楽曲を中心に選曲したことを明かす。バンドも近年はこの時代の楽曲は最近のコンサートで演奏する機会がなかったが、これは鈴木慶一にとっては『私の場合、全て忘れてしまってて。今日は全く新曲のような気持ちでやってます』と話し客席の笑いを誘った。

続いて武川雅寛から突然のクイズ出題。1940年生まれ。イギリス・南ウェールズ出身のシンガーは?の問いに客席はぽか〜ん。答えはトム・ジョーンズ。あまりにも正解率の低さに残念がりながら、演奏したのはトム・ジョーンズが1969年に放ったヒット曲「LOVE ME TONIGHT」。カバー曲を集めた1995年リリースの「B.Y.G.」に収められた。ここでは鈴木慶一が書いた日本語詞を慶一と武川でツインボーカルを披露。カンツォーネばりの歌声を慶一が響かせる。

ファンもこの日の選曲意図を聞かされ一安堵していたら、11曲目冒頭にインプロビゼーションが繰り広げられるの見て『今度は何を演るのか?』と再び見構える。これは3月にリリースされた即興演奏で構成された「Happenings Nine Months Time Ago in June 2022」の流れだ!と気がついた頃には、メンバー全員のコーラスで始まる「smile」になだれ込む。90年代特集か!と思っていたら最新アルバムに収められた楽曲だ。1990年代から、いきなりの2022年の音への流れだが、これが地続きしているようで違和感がない。ライダーズのメロディがいかに普遍的かを改めて思い知らされる。

メンバーにすら新鮮に感じさせたこの夜のセットリスト、選曲したのはギタリストの澤部渡とキーボードの佐藤優介のふたり。ファンハウス(1995)以降の楽曲縛りで選曲したそうで、演奏曲全18曲中、13曲がファンハウス時代の曲で占められた。今やすっかり準メンバーではあるが、サポート・メンバーのふたりが外から客観的に選んだというのが面白い。90年代と2000年代曲が自然に並んでいるのも納得できる。ムーンライダーズの魅力のひとつにダブル/トリプル・ヴォーカルがあるが、ここでも澤部渡は大活躍。鈴木慶一や白井良明らと共にパワフルな歌声を響かせ、コーラスワークの一員をしっかりと担っている。

ここで慶一から嬉しいお知らせが。12月27日に東京・EX THEATER ROPPONGIにて「80年代のムーンライダーズvol.1」を開催するというもの。これは本文冒頭に記した"前者"パターンでライブ内容の想像がつく。そんな期待に応えるように『マニア・マニエラからドントラ(DON'T TRUST OVER THIRTY)まで、80年代の曲を演ります!』と宣言し、客席を沸かせた。さらに昨年12月の「マニア・マニエラ+青空百景」LIVEの映像作品をライブ当日に発売することも発表された。

moonriders2023101702.jpeg後半も新旧楽曲を取り混ぜて演奏。『岡田君の曲です』とラストに演奏されたのは「ぼくはタンポポを愛す」。1995年発表のシングル「HAPPY/BLUE'95」のカップリング曲だ。今夜のコンサートは全員の晴れやかなコーラス「BEATITUDE」で幕を開け、最後も全員の力強いコーラス曲で締めた。

アンコール1曲目は意表を突くカバー曲。60年代に日本で放送された米TVドラマ「名犬ロンドン物語」の日本版の主題歌だ。ムーンライダーズ版は1995年リリースのカバー集「B.Y.G.」に収められた。そしてアンコール2曲目は慶一から『ホントに最後の曲です。岡田くんの曲をやります」と演奏されたのは今年2月になくなった岡田徹が曲を書いた「黒いシェパード
」。リードヴォーカルは慶一。澤部渡が担うイントロと中間部のシェパードの咆哮のような声は、岡田への哀惜が感じられた。最後の曲の演奏が終わると慶一が『We are moonriders!』と叫び、メンバーがステージから客席へ降りる。オーディエンスに揉みくちゃにされながら、ゆっくりと左右の扉から出て、2時間超に及ぶライブを終えた。振り返れば「スカーレットの誓い」や「くれない埠頭」といった定番曲の演奏はなく、最近のコンサートでは殆ど演奏機会がなかった90年代の曲を中心に構成されたコンサートだった。少々耳馴染みが薄い曲ではあったが改めて聴くと、この時代の楽曲の素晴らしさを思い知らされた。選曲した澤部渡と佐藤優介のグッジョブ!

次回のライブ「80年代のムーンライダーズvol.1」は12月27日(水)に東京・EX THEATER ROPPONGIで開催。また同日には2022年12月に行われた「マニア・マニエラ+青空百景LIVE」の映像のリリースが予定されている。

TEXT:石角隆行


■ ムーンライダーズ OFFICIAL WEB
http://www.moonriders.net/