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【レビュー】米津玄師『月を見ていた』

July 4, 2023 00:00

米津玄師

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【レビュー】米津玄師『月を見ていた』

「やるからには是非スタッフの一人としてお願いしたい」

『FINAL FANTASY XVI』(以下:FF16)プロデューサーの吉田直樹氏はFF16テーマソングを担当することになった、米津玄師へそう伝えた。これは米津のYouTubeチャンネルで公開された特別番組『米津玄師×吉田直樹 - 月を見ていた 対談 / 前編』で語られたエピソードだが、FF16テーマソング「月を見ていた」は制作に向け、なんと約3年に渡るやりとりがなされたらしい。

FF16は、終焉を迎えつつある世界のなかで過酷な運命を背負った主人公クライヴが、世界の真相を知りマザークリスタルの破壊を目指していく世界観を踏襲。そのことから最初、“救いようのない曲”を作らなければいけないと思い込んでいた米津だが、映像が仕上がっていくごとに“クライヴには幸せになって欲しい”という想いが強まってきたと言う。その想いが宿る「月を見ていた」は、絶望を感じさせる低い声と重いピアノから幕を開け、失望、願い、心の叫び……と表情を変えながら壮大なメロディと緩急あるトラック、エモーショナルな歌声でFF16の世界へ羽ばたいた。

米津と共にアレンジを担当したのは「パプリカ」や「M八七」その他、米津作品に携わることも多い、坂東祐大。クラシックや現代音楽が基軸の彼のアレンジ、特にストリングスは楽曲の魅力を引き上げる。そして米津らしいヴォーカルテクニックや歌詞における言葉選びの妙など、どこをとっても最高傑作と言えよう。

米津がジャケットに描いたトルガルも話題となったが、FF16に挑んだ人たちからの楽曲への絶賛の声をSNSなどで目にするたびに思う。この曲はお金の匂いしかしない単なる大型タイアップではない。FFチームのクリエイティビティに触発されたもう一人のスタッフ、米津玄師によるもうひとつのFF16だと。

Illustration by 米津玄師

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