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【レビュー】藤田麻衣子『シンプル』

August 4, 2022 18:00

藤田麻衣子

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【レビュー】藤田麻衣子『シンプル』

両思いになって付き合ったり結婚したり……それはまさに奇跡だと思う。しかし世の中にあるいくつかの<奇跡>を人はつい当たり前だと勘違いしてしまう。藤田麻衣子の「シンプル」はまさにそんな<奇跡>を振り返った愛の歌だ。楽曲は藤田がインディーズ時代から交流のあったSUNNY BOYが作曲。SUNNY BOYといえば、安室奈美恵の「Hero」の作詞作曲(今井了介氏と共作)や、三浦大知、ゆず、milet、ジャニーズWEST、川畑 要、その他様々なアーティストへの楽曲提供やプロデュースなどに携わってきた。藤田麻衣子ファンであればすでにお気づきだろうが、彼女が今まで発表した作品はすべて藤田自身の作詞作曲。つまりデビュー16年目にして初めて提供曲へ歌詞をつけるチャンレジに挑んだのだ。これは今後大きな意味を持つ一歩といえよう。ピアノの弾き語りやバンド、カルテットなど藤田らしいサウンド作りも人気のひとつだし、今までも電子音を使った楽曲はいくつかある。だが今作は、SUNNY BOYという新たな息吹によって今までとは違う藤田の魅力も引き出された気がする。時代を捉えた生音と電子音のバランスで、<奇跡>の持つ壮大さ、愛する人と寄り添える温かさ、そういったものが表現されているだけでなく、藤田の歌声と想いが際立っているように感じた。

次は歌詞に注目してみよう。例えば、“切なさと苦しさに いつも泣いてた それが人を好きに なることだと思ってた”という歌詞。 きっとこの主人公は過去の恋愛経験や自信のなさから恋愛に対して臆病になっていたのだろう。パートナーが寝ぼけながら自分の手を握ってくれた時、“「ここにいていいよ」と言ってるみたい”と感じている。“「ここにいて欲しい」と言ってるみたい”ではなく。更に、“幸せになってもいいんだって 思わせてくれた人”とも言っている。“幸せを感じさせてくれる人”ではなく。この2つの歌詞から、自分の存在意義があることに安心している主人公の心情が伺える。そして最後は、“こんな私のこと 好きになってくれてありがとう”という歌詞で締めくくられている。“こんな私のこと”、“好きになってくれて”。恋愛はちょっと特別で、いつも以上に臆病になったり自己肯定感が低くなったりする。今まで藤田が書いてきたラブソングの中にも同じような想いを抱える主人公も多く、それは同時に聴く人への共感性にも繋がる。そんな藤田麻衣子らしい、しかし新しさも感じるこの「シンプル」。是非あなたの大切な人を想いながら聴いてもらいたい。

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