【レビュー】村上佳佑『なんのために』
June 18, 2022 20:30
Murakami Keisuke
今年6月14日でメジャーデビュー5周年を迎えた村上佳佑が、翌6月15日に配信シングル「なんのために」をリリースした。不安や焦燥感に苛まれ、眠れぬ夜を過ごした経験をした人は少なからずいるだろう。特に今のような時世では……。この「なんのために」のインタビューで村上は「リアルを歌いたかった」と語っている。実際、ステイホーム中に書かれたこの曲では村上自身のリアルな不安感が刻まれていた。しかしイントロの優しいギターリフのせいだろうか、それとも懐の深い村上の歌声のせいだろうか、生まれた意味や生きる意味を、時にセンシティブな言葉で綴りながらも、包み込まれるような温かさを持っている。無論、先に述べたギターリフや歌声も要因だと思うが、“君だけでないじゃない、僕も一緒だよ、だから大丈夫”というメッセージが込められていることは大きいかもしれない。辛い状況下でのシンパシーはポジティブな時のそれよりも絆を感じる。そしてそのメッセージをサウンドでより明確にしたのは、村上の盟友でシンガーソングライターの松室政哉によるアレンジ。いたずらに心の闇に触れたり、闇雲に背中を押したりしない憂いとポップさは、村上のオーセンティックな歌声を別の角度から際立たせている。前作「Alright」同様、見事なタッグと言えよう。過去、彼が在籍したアカペラグループ「A-Z(アズ)」がフジテレビ「ハモネプリーグ」でハモネプ史上最高の99点で優勝するなど、言わずもがなの歌唱力を持つ村上だがデビュー5周年を迎え、様々な経験を経て歌声の幅も広がった。例えば1番。苛立ちを感じるAメロ、ふと立ち止まり考えるBメロ、自分はなんのために生きているんだろうと自問自答するサビ。まるで村上の心の中を覗き込むような細かい声の表情は、生まれ持った才能だけでなく経験値によるものが大きいように思える。自分に寄り添ってくれるこのメロディに、この歌声に、是非癒やされて欲しい。
※「なんのために」インタビュー近日掲載予定。