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入江悠監督 × 北條誠人(ユーロスペース)対談「初めてミニシアターに来たよ!という人を増やしたい」

August 7, 2021 12:00

映画

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入江悠監督 × 北條誠人(ユーロスペース)対談「初めてミニシアターに来たよ!という人を増やしたい」

ミニシアター、映画好きのためのオンライン・コミュニティ「ミニシアタークラブ」では毎回様々なゲストを迎えて映画、映画館にまつわるトークイベントを行っている。今回のゲストは、入江悠監督。昨年のコロナ発生初期から精力的に活動され、今回は仕事を失ったスタッフ、俳優と、商業映画では製作しえない映画作りを目標に、そして苦境にあえぐ全国各地のミニシアターを支援するために10年ぶりの自主製作映画『シュシュシュの娘(こ)』がついに完成、今月21日に全国のミニシアターで一斉に公開される。入江監督と北條支配人、ユーロスペースとの関係から始まり今回の取り組みについて話された。


― コロナ禍、「面白い映画を作るしかない」、製作までの経緯

北條誠人(ユーロスペース)「今回の作品は、いつからスタートさせたんですか?」

入江悠「昨年5月の終わり頃に、制作現場も映画館も全てが止まってから、この状況は長引くなと思いました。そこで映画製作者として何ができるか?を考えた時に面白い映画を作るしかないと思って始めました。6月から準備を始めました。脚本は4日くらい徹夜して一気に書いて、昨年の10月に撮影しました。」

北條「元々構想はあったんですか?」

入江「そうですね。ほぼ10年間くらいミニシアター作品を作ってなかったんで作りたいなという気持ちがずっとありました。あと、主人公の設定が企画としては通らない設定なので(笑)。それと、年齢の問題もあって、いま41歳なんですが、この状況で動き出せなかったらこの先ずっと動けないだろうなということもあってスタートさせました。」


― ミニシアター、映画館は去年よりも更に厳しい状況

北條「公開に向けて全国のミニシアターと連絡をとっていると思うんですが現在のミニシアターはどのように感じてますか?」

入江「去年よりも厳しいんじゃないですかね?去年は、みんなで乗り越えよう!という勢いがあったんですが、今年はそれぞれの劇場の問題、大変さが明確化してきていると思います。分断、個別化が進んでいると思いますが、北條さんの方はどうですか?」

北條「ならしていくと、コロナがない年の半分くらいの収益じゃないでしょうか。映画館に行きにくい状況なので、映画館で映画を見ないスタイルが習慣化していて確実にいろんな映画に影響を与えていますね。映画に限ったことではないですが、度重なる緊急事態宣言で社会全体が疲弊してきている。」

入江「地方で映画を撮影したりテーマにすることが多いんですが、地方の方が日本の問題が先鋭化していますね。特に映画館に頻繁にいらしていただいていたシニア層がもう戻ってこないだろうとある地方のミニシアターの方はおっしゃってました。」

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― ミニシアターは公園のような存在

入江「北條さんとお会いしたのは、2009年に『SRサイタマノラッパー』を上映していただいた時ですね。ものすごくニコニコされていたのが忘れられません!」

北條「お客さんも入ってたからじゃない?(笑)」

入江「当時の上映の記憶はミニシアター体験として強く残ってます。支配人の方、受付の方も含めてアプローチして反応が返ってくる「人」がいるところがいいですね。大学の時にPFFに作品を送ってきちんと感想が返ってきたのは感動しました。落ちましたけど(笑)若い映画作家にとっては、自分の作品を持ち込める「回路」があるところが大切ですね。あとは、ミニシアターという場所は、今あるコミュニティからちょっと抜け出して、1時間くらい何もせずにボーとしていられる公園のような場所。ロビーでチラシを見て過ごしてもいい。今、お金を払わずにウロウロしたり佇んでいられる居場所ってなかなかないですよね。上田映劇がやっている不登校の子どもたちのための居場所作りとかもそうですけど。」


― 若い人たちから勇気をもらった。映画製作現場の改善チャレンジ

北條「今回の作品ですが、10年ぶりに自主製作でやってみていかがでしたか?」

入江「昨年、商業作品の仕事が全部飛んでしまいました。先ほども言いましたが働き盛りの41歳の今、ここで立ち上がれなかったら今後も立ち上がれないと。昔、瀬々敬久監督から「監督は新人の次はベテランだぞ」と言われたことが頭に残っていて。本当は中堅なんでしょうけど(笑)瀬々監督や鈴木卓爾監督たちが自主映画を撮ってるのを見ていいなと思ってましてやってみようと動き始めました。」

北條「現場のスタッフさんも学生さんや若い方も多かったとか?みなさん映画を学んでる方なんですか?」

入江「半々くらいですかね。大学はリモートの授業になっているので撮影の合間に、授業が入ったら裏で授業受けてていいよ、といった新しいスタイルを取り入れたり。家から出られずに孤立してしまってる子に、もし興味があったら来ませんか、という感じで現場に来てもらったんですが、彼らから逆にものすごい勇気をもらいました。このコロナ禍に現場に飛び込んできてくれて未来は明るいなと感じました。若い人たちは、プロの映画の現場にはなかなか集まらなくて。労働環境が貧しいので。この作品の撮影の前に韓国で1本撮ったんですが、スタッフは若い人が多かったですね。それはギャランティーも含め待遇が全然違うことに驚きました。本当に衝撃を受けました。日本も変えていかないとまずいなと思ってます。」

北條「現場での食事の環境が良かったとお聞きしました。」

入江「映画の現場は商業になっても結構、食事が改善されてないこともあって、今回クラウドファンディングのおかげでケータリングを充実させることができました。韓国もインドネシアもすごい食事が豪華だったんで。」

北條「キャスティングも全員オーディションされたんですよね?何名くらい応募があったんでしょうか?」

入江「2500名くらいですかね。自分自身仕事がなくなって落ち込んでいた時期だったので俳優さんに間口を広げるためにも広く募集しました。」


― ミニシアターに足を運んでもらうために

入江「自主映画作ってて、悲壮感がでるのが嫌で、笑いながら上映していきたいなと思ってるんですが、<ミニシアターの扉を開いたことのない人>に来てもらうにはどうしたらいいですかね?今回ポスターやパンフレットもできるだけポップにしたりして工夫はしているんですが。」

北條「敷居を低くすることとダサさをなくすことでしょうか。おそらくミニシアターでかかる作品が自分たち若い年代のニーズと離れていっていることを感じているのかと。「難しい映画」「良い映画」だけを上映している劇場ではなく、「楽しくワクワクする映画」も上映しているよ、と玉石混合でプログラミングは意識してやっています。」

入江「ほんとにユーロスペースはいろんな映画を上映してますね。あと、タルコフスキー特集やビクトル・エリセ特集も毎回満席になりますよね。あれはなんでなんでしょう?」

北條「毎回、満員になりますね。世代交代してるのかもしれません。若いお客さんも多いですし。噂では聞いているけど上映を機にスクリーンで、というクチコミなんですかね。最後に公開に向けて一言お願いします。」

入江「映画も映画館も楽しいものなんで笑いながら楽しくやっていきたいですね。そして初めてミニシアター来たよ!て方が一人でも多く来てくれたら最高です!」

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