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Happy Mother's Day!~母に感謝のコンサート2024 in TOKYO~ オフィシャルレポート!

May 24, 2024 18:00

イベント

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Happy Mother's Day!~母に感謝のコンサート2024 in TOKYO~ オフィシャルレポート!

新しい場所で気持ちも新たに。東京公演は3年連続となる「Happy Mother’s Day!~母に感謝のコンサート2024 in TOKYO~」が、今年は5月9日にサントリーホールに会場を移して開催された。母の日にちなみ、「この世界の全ての母親に感謝の思いを込めて、音楽の花束を贈ろう」というテーマのもと、老若男女が楽しめるコンサートして定着しつつ、中身は毎年進化し続ける。クラシックホールの厳かなムードと、入り口とステージ上に飾られたたくさんの赤いカーネーションが観客を出迎える。素晴らしい雰囲気だ。

「今日はお母さんに思いをはせるひとときを、上質な音楽と共に感じていただけると思いますので、どうぞ楽しんでいらしてください」(内田也哉子)

司会進行を務める森山直太朗、ストーリーテラーの内田也哉子、オフィシャルピアニストの桑原あい、そして須原杏ストリングス。おなじみのメンバーが作り出す親密な空気感の中で、最初に登場するアーティストは坂本美雨。エレガントな深いブルーのワンピースに身を包み、にこやかな笑顔を振りまきながら、美しいハイトーンを響かせる。「story」「かぞくのうた」と、人と人との出会いの尊さを歌う歌詞が、ピアノと弦楽四重奏の柔らかな調べに乗って届く。

「私と母は、素直にありがとうと言い合える関係とは言えないのですが(笑)、いつでも元気に自分の好きなことを好きなようにやっている母を見て、すごく勇気をもらえます」(坂本美雨)

母親とはもちろん、シンガーソングライターの矢野顕子。そして父親は坂本龍一。言葉にはしなかったが、父親の作曲した「The Other Side of Love」を歌う、その声はきっと空のどこかに向けられていただろう。さらに内田也哉子と森山直太朗を交えたトークでは、互いの母親(矢野顕子と森山良子)が仲良しであることや、親子でありアーティスト同士であるという共通点について、ひとしきり盛り上がる。森山の楽曲でコーラスで坂本が参加した「さもありなん」は、そんな二人ならではの絶妙なハーモニーが聴ける曲で、SACRED(神聖な)と呼びたいほどの輝きを放つ素晴らしい出来栄え。コンサートは始まったばかりだが、感動はすでにクライマックスだ。

坂本美雨を送り出し、そのまま自身のステージに臨む森山直太朗。昨年末に父親をなくしたことをさらりと告げ、父との最期の日々を語り、父に捧げた「papa」を歌う。湿っぽさを感じさせない軽妙な語り口調が、かえってしみじみとした寂しさと、彼の人間性の深さと強さを伝える。運命的と言うべきか、同じく父親をなくしたばかりの坂本美雨の心とも、深い部分で響き合っている気がする。

ここでスペシャルゲストのAIが呼び込まれると、会場内の雰囲気がまた変わった。曲は「アルデバラン」。NHK朝ドラ主題歌としておなじみ、森山直太朗が作ってAIが歌った、ゴスペルやソウルの深みを感じさせる迫力あるバラード。森山のハーモニー、桑原あいのエモーション溢れるピアノ、そして大きなリズムの手拍子で一体感を作り上げる観客。この曲をライブ会場で二人で歌うのは初めてで、トークに加わる内田也哉子も「まさか生アルデバランを聴けるとは」と感激しきりだ。彼女の父、内田裕也はAI夫婦と深い付き合いがあったということで、旧知の仲ゆえに話ははずむ。

「母はもともとポジティブなタイプではなかったんですけど、ポジティブシンキングを身に付けて、そこから変わったんです」(AI)

AIの母親はアメリカ生まれ。初めての日本暮らしに悩んでストレスを抱えていた時に、自らポジティブ思考を学んで生活を変え、今では誰にでもパワーを分け与えるポジティブウーマンになったというエピソードに、関心しきりの内田也哉子。歌だけでなく、トークの中で明かされる母親のエピソードの面白さと奥深さも、「母に感謝のコンサート」ならではのお楽しみ。AIが歌い、森山がアコースティックギターとコーラスで参加した「ママへ」はまさに、パワフルでポジティブな姿の内側に繊細な優しさを持つ、AIの母によく似た女性たちに捧げる素敵な曲だ。

「この孤独感や安堵感を、母親も感じながら旅を続けていたんだということに気づきました。今回の自身のツアーを通じて、母親が感じていた感情、見ていた景色を見ることができました」(森山直太朗)

森山の母・森山良子は、彼が幼い頃はあまり家におらず、仕事を優先して常にツアーに出ていたことに彼は寂しさを感じていた。しかし自身がデビュー20周年を記念して開催した、107公演に及ぶアルバムツアー「素晴らしい世界」を回ることで、同じ立場に立ち、初めて母親の気持ちがわかった気がする。――そんな率直な言葉を前置きに歌った「素晴らしい世界」と「さくら」は、歌詞の意味を超えてひときわ胸に沁みる。母と肩を並べ、母を超えてゆくこと。同じ職業を選んだ親子ならではの、静かな決意を込めた歌声の力強さに背筋が伸びる。

「私たちはみんなお母さんの子供たち」――内田也哉子が朗読する、自作のエッセイを聞くのはこれが3度目だが、聴くたびに感動を新たにするのは、その言葉と思いが普遍の力を持つから。ストーリーテラーの肩書にふさわしい、読み聞かせるような説得力ある口調が心地よい。そしてコンサートのオフィシャルピアニスト、桑原あいが弾くソロピアノもまた、鍵盤で語る心のエッセイなのだろう。曲はチャップリン作曲の「スマイル」。清冽な水の流れを思わせる、澄み通った響きが素晴らしい。

しっとり奏でるピアノの響きが、いつのまにかメロディに変わる。金色に輝くアルトサックスを手に、ミニスカートにロングトレーンの優雅なドレスをまとった平原綾香が登場する。曲はポピュラーミュージックのスタンダード「Georgia On My Mind」。ピアノと弦楽四重奏と呼吸を合わせながら、たっぷりと間を取って歌う、豊かな声量と自由な表現力に観客はあっという間に引き込まれる。情緒たっぷりのサックスソロも素晴らしい。1曲目から観客の目と耳を奪う、圧巻のパフォーマンス。

「何もできない世間知らずの私を、いつも母が正してくれました。今日は会場にいますけれども、“私のことを絶対にほめないでね”と言われましたが、お母さんというのは本当にすごいと思います」(平原綾香)

母親は家庭の太陽で、母が暗くなると全部が暗くなる。ずっと笑っていてほしいと思います。――2年前になくした父親のことに触れながら、母への思いを語る姿が一人の娘の顔に見える。メロディアスなバラード「明日」は情感込めてしっとりと、そしてアップテンポでトリッキーな「アランフェス協奏曲~Spain」は、桑原あいとアイコンタクトを交わしながら、得意の高速スキャットでぐいぐい盛り上げる。「誕生日おめでとう!」という突然の掛け声に、「誕生日は母に感謝する日なので、今日は私のためのコンサートだと思っています!」と明るく応える。そう、この日は彼女の誕生日。今日のコンサートでの太陽の役割は、平原綾香で決まりだろう。そしてラストはもちろんこの曲「Jupiter」。ピアノと弦楽四重奏と歌だけのアンサンブルが、フルオーケストラにも負けない壮大な感動を巻き起こす。盛大な拍手と歓声が湧く。ブラボーと思わず叫びたくなる、それはそれは素晴らしいフィナーレ。

そしてアンコールには、新しい趣向が用意されていた。過去2回はフォークソングと童謡の合唱で締めくくったが、この日選ばれたのは森山直太朗の新曲「ロマンティーク」。「母に感謝のコンサート」での出会いをきっかけに生まれた、作詞・内田也哉子、作曲・森山直太朗による軽やかなポップスを、平原綾香、坂本美雨、森山直太朗、AIが歌い繋ぎ、内田也哉子が素敵なボイスを添える。自然に沸き上がった手拍子が、会場全体をあたたかく包み込む。360度を客席に囲まれた、サントリーホールならではの一体感がとても心地よい。

「また来年お会いしましょう!」(森山直太朗)

森山に促されずとも、この日のコンサートを楽しんだ観客は来年も来たいと思うだろう。全員に出口で配られた、2000本のカーネーションが約束の印だ。これまでトリをとってきた森山が中盤に回り、ゲストのパートを設けたり、締めくくりの曲を新曲に変えたり、昨年までとは異なる構成も新鮮に感じられた、今年の「Happy Mother’s Day!~母に感謝のコンサート2024 in TOKYO~」に大きな拍手を。そして来年も、きっとまた来よう。

取材・文:宮本英夫
写真:福岡諒祠



Happy Mother’s Day!~母に感謝のコンサート2024 in TOKYO~
【ストーリーテラー】内田也哉子
【出演】森山直太朗、平原綾香、坂本美雨
【スペシャルゲスト】AI
【オフィシャルピアニスト】桑原あい
【公演日時】2024年5月9日(木) 開場17:30 / 開演 18:30
【会場】サントリーホール 大ホール
【チケット料金】S席 11,000円 / A席 9,500円 / B席 6,000円(全席指定 / 税込) ※未就学児入場不可
【公式HP】https://happymothersday.srptokyo.com/
【主催・企画・制作】サンライズプロモーション東京
【お問い合わせ】サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日12:00~15:00)