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新山詩織、デビュー記念日ライブ大盛況にて終了!

December 23, 2023 13:00

新山詩織

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新山詩織、デビュー記念日ライブ大盛況にて終了!

恒例ともなったデビュー記念日ライブを大盛況にて終了!彼女のルーツとも言える敬愛するロックミュージシャンのカバー曲も披露!

シンガーソングライター新山詩織のライブ「新山詩織 Live 2023 『NEXT PAGE』」が、12月12日に東京・渋谷WWWで開催された。12月12日は新山のデビュー記念日であり、活動休止を経て2021年に活動を再開したのも、12月12日の渋谷WWWだった。「この場所はオーディションを受けた会場でもあり、デビューライブを行った思い出の場所です。その場所に、アーティストデビューの日に再び立たせてもらえて、本当に光栄です」と新山。思い入れのある日付と場所で行う、『NEXT PAGE』と題されたライブ。新たな一歩を踏み出すこのライブが、彼女にとっていかに特別なものであるかがうかがえた。

「懐かしい曲もたくさん詰め込んだので、皆さんに『あの曲がきた!』と思ってもらえる曲も、たくさんあると思います。ぜひ一緒に楽しくいい時間を作りましょう」

彼女の言葉の通りこの日のライブでは、今年約7年ぶりにリリースされたアルバム『何者 〜十年十色〜』からの楽曲や、昨年リリースしたミニアルバム『I'm Here』の収録曲を中心に、「今ここにいる」「あたしはあたしのままで」「分かってるよ」など、懐かしい楽曲も多数披露され、新山の過去・現在・未来が表現された。

最新作のリード曲「何者」で幕を開けたライブ。自分の内面と外からの言葉が、軋轢となって心を乱すようなソリッドなサウンド。途中でラップのように聴かせるリーディングが、まるで暗闇でアイデンティティを模索しているような印象。続く「Spotlight」では、R&B調のサウンドに乗せて自分のネガティブな部分をつぶやくように歌い、誰か自分に光を当ててくれと願う。そしてアコースティックギターへと持ち替え、切ないメロディが印象的な4thシングル「今ここにいる」(’14)、9thシングル「さよなら私の恋心」(’17)のカップリング曲で、爽やかな風が流れる青春ソング「らくがきちょう」へとつなぐ。

かつてまだ10代だった新山詩織は、人見知りでどちらかと言えば陰キャで、そんな自分に音楽という鎧を着せて大人たちと戦っていたように思う。自分が大人になった今、新山は鎧を剣に替え、多少の擦り傷は覚悟の上で迫ってくる。傷つくことを恐れていては、人と対話することもできないことを知ったのだろう。最新曲から10年前の曲まで一気に遡っても、決して違和感は無く、内面の傷つきやすさは変わっていない印象だ。ただ違うのは、人としての成長があったということだ。

「ちょっとチューニングするので待っててくださいね」と言って無言でアコギをいじり、はたと気づいて「さっきの曲はすごく久しぶりで、当時イベントでもよく歌っていたから、いろいろ思い出しました」と、チューニングしながらおしゃべりをした彼女。昔は、ただチューニング音だけが会場に響いていたが、今では観客とおしゃべりをする余裕も生まれた。観客もまた、彼女のチューニングタイムもライブの一部として楽しんでいた。

しっとりとしたピアノをメインにしたサウンドと共に歌った「ミルクティー」は、昨年リリースしたミニアルバム『I’m Here』に収録された楽曲。「12月に絶対やりたいと思って、密かに取っておいた曲です。この曲で温まってください」と紹介すると、透明感のあるファルセットと優しいメロディで、聴く者の心を浄化してくれた。〈だから大丈夫 巡り会えた幸せ感じて生きてゆきたいの〉という歌詞も印象的で、きっとこの場にいた誰もが今日この日この場所で巡り会えた幸せを感じたことだろう。

中盤のカバー曲コーナーでは、「せっかくの12月だし、原点に返って私らしく、まだやれていなかった曲をやっちゃおうと思って持ってきました」とコメントした新山。2016年にリリースしたアルバム『ファインダーの向こう』の通常盤Disc2に収録されたカバー曲、THE GROOVERSの「現在地」と、THEATRE BROOKの「ありったけの愛」を、爆音のバンドサウンドと熱い歌声で聴かせた彼女。そして「急遽もう1曲、私にとって大切な1曲になりました」と言って、The Birthdayの「ピアノ」を歌った。

新山は兼ねてからThe Birthdayのチバユウスケを、敬愛する憧れのミュージシャンの1人として挙げており、「ピアノ」のカバーをシングル「今 ここにいる」のカップリングに収録していた経緯がある。11月にチバが急逝した際もXで「私にとって世界一格好いい方です」と言葉を添えて、追悼の意を表明していた。思えば開演前と終演後のBGMはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTやThe Birthdayなどの楽曲ばかりが流れていた。ステージに上がる勇気を、チバからもらっていたのだろう。新山の衣装が真っ黒のワンピースだったことも、喪に服す思いがあったのかもしれない。

新山の歌声は、ハスキーなチバユウスケの声とは正反対ではあるが、その奥にあるピュアさは同じに感じた。灰色の曇り空が思い浮かぶサウンド、新山はまるでチバがいる空に向けるようなイメージで淡々と、しかし思いを込めて歌う。選曲と新山の思いに触れ、胸が苦しくなった人も多かっただろう。

アコースティックコーナーでは、夏に開催した「新山詩織 アコースティックLive 2023 ~夏の終わり Vol.02~」を一緒に回った和久井沙良(key)と「Free」を披露。新山自身もマイクを手に歌声を響かせ、楽器から解き放たれたことでメロディや歌声の美しさが一層際立っていた。またバンドでしか披露したことがないという「Keep me by your side」も、ピアノとイシイトモキのアコースティックギターでしっとりと披露された。

終盤、新曲「Believe in us」が披露された。同曲について「ライブのタイトルには、来年に向けてどんどん前に進んでいる気持ちを込めました。新曲も気持ちの強いものがいいと思って、この曲を持ってきました。みんなで一緒に、信じ合いながら前に進んで行けたらいいなという気持ちで書きました」と新山。シンプルで少し明るいムードのある優しさの感じられる楽曲で、ジャズのニュアンスがニューヨークの地下鉄構内で路上ライブをやっているような雰囲気。どこかデビュー当時に戻ったようなメロディが心地良いが、タイトルに“us”という言葉が付いているのが、今の彼女の思いだろう。新山詩織の見据える未来は、みんなが信じ合える未来。そこには、きっとみんなの顔もあるはずだ。

「今年はいろんなことがめまぐるしくありました。出会いもあれば別れもあって、生きることと死ぬことは隣り合わせだということも改めて実感した1年でした。だからこそ1日1日を大切に生きて、次に次にと、何がどうあれ私は前に進んでいかなきゃいけない。とにかく来年は、改めて自分らしく走っていきたい」と、心境を語った新山。アンコールの最後には、初めて自分で書いた曲だという「Looking to the sky」(1stアルバム『しおり』に収録)を歌って、ライブを締めくくった。

「Looking to the sky」は、切なさと明るさが絶妙に配合され、1970年代のウェストコースト・ロックを思わせるサウンドとメロディの楽曲。明日の空をまぶたの裏で想像するように、目を閉じて〈ダメそうな時もあるけど 明日の空に 負けないように〉と歌った彼女。観客もまた、熱くほてった気持ち冷ますようにゆっくり体を揺らしながら、彼女の歌声に耳を傾けた。外に出ると、冷たい雨は止んでいた。明日の朝は、どんな空が待っているのか。新山詩織がこの日めくった新しいページは、どんな空が描かれるのか。楽しみにしていたい。

文:榑林史章
撮影:達川範一(B ZONE)


■ 2023.12.12(火)@渋谷WWW
新山詩織Live 2023『NEXT PAGE』
サポートメンバー:和久井沙良(key&mp) / イシイトモキ(gt) / まきやまはる菜(Ba) / 山近拓音(dr)
01. 何者
02. Spotlight
03. 今 ここにいる
04. らくがきちょう
05. 帰り道
06. ミルクティー
07. あたしはあたしのままで
08. 現在地(THE GROOVERS/カバー)
09. ありったけの愛(シアターブルック/カバー)
10. ピアノ(The Birthday/カバー)
11. Free
12. Keep me by your side
13. Believe in us(新曲)
14. わかってるよ
15. New
EN.1 約束
EN.2 Looking to the sky

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