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高橋優、ヒリヒリする感情の中にある愛と光。【黒橋優の日ライヴレポート】

高橋優、ヒリヒリする感情の中にある愛と光。【黒橋優の日ライヴレポート】

February 16, 2022 18:00

高橋優

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2020年にデビュー10周年を迎え、アルバム『PERSONALITY』を携えたツアーが今年1月にファイナルを迎えたばかりの高橋優が、10周年イヤーを締めくくるライヴ【高橋優 10th Anniversary Special 2Days「弾き語り武道館~黒橋優と白橋優」】を2月8日(火)・9日(水)に日本武道館にて開催した。公式コメントには、“1日目、「黒橋優」の日は、文字通りダークサイド高橋。未だぼくのなかに渦巻いているヒリヒリとした感情を剥き出しでお届けします。2日目、「白橋優」の日は、ほんわか高橋。路上時代から歌い続けてきた’笑顔’や'希望'へのメッセージ、光へのアプローチを全面にお届けします。”と書かれている。ヒリヒリした剥き出しの感情と光へのアプローチ……どういうステージになるのか楽しみにしつつ、筆者は会場入りした。


北エリアから伸びる花道とそれに続くセンターステージ。今回は自身の音楽活動の原点と言える弾き語りスタイル。ステージも至ってシンプルだ。
「まもなく開演です。」アナウンスが終わると高橋の登場を今か今かと待ち望むクラップが湧き上がった。会場の照明が消え、ステージ上に設置された四面の大型ビジョンには、高橋が生まれたころからの写真が数多く映し出された。それがいつしかギターを持ち、“アーティスト 高橋優”の顔に。最後の写真がステージ裏にいるリアルタイムな高橋に重なると、笑顔で登場。花道をゆっくり歩きながらセンターステージで深々とお辞儀をする。【黒橋優の日】 の1曲目は「こどものうた」。絶えず変化するライトに照らされる高橋の歌声は冒頭から圧倒的な存在感を見せつけてくれた。そう、セッティングはシンプルだが、今回は各所で映像や照明などが繊細かつ大胆に高橋の歌を演出した。

メジャーデビュー後、心の中でヒリヒリしている部分を楽曲として発表すると聞こえてくる「出た、黒橋!」「今回は黒橋来た!」という世間の声。そういう声がいつしか高橋まで伝わってきたらしいが、それをライヴのタイトルにしてしまうあたりが面白い。「最初叩かれてるのかと思いましたよ。悪口かと思いました(笑)。」わざと作り笑顔で言う高橋に、声を出さないよう気をつけているオーディエンスもつい笑ってしまう。
「黒いから感じられる愛。今日は真っ黒な部分から皆さんと光、希望、そういったものを感じられる一時に出来ればなと思っています。」と語り、360度回転するセンターステージから回りながら手を振り挨拶。マスク越しにオーディエンスも笑顔になっているのがわかる。

椅子の位置を直しながら首にかけたハーモニカホルダーが小さく金属音を鳴らす。ライヴで歓声を出せないのも聴けないのも淋しいが、静かだからこそそういうステージ上の音や息吹を聞き取れるのも事実かもしれない。黒いから感じられる愛や光。歌詞を丁寧に声に乗せ歌う「雑踏の片隅で」では先程の高橋の言葉をふと思い出した。少しの機械音を鳴らしながらステージがまた別の方向へ動くと「スペアキー」では赤いライトが怪しく高橋を照らし、大型ビジョンには首元に光る汗が映る。気だるげな歌声とは裏腹のクリアなギターカッティングが胸が締め付けられるほど切ないメロディを際立たせた。

「あ、はい。」ギターを用意したスタッフからの言葉にマイクを通して返事をしてしまう高橋。どうやら歌詞を観すぎていることを注意されたらしい。言わなければわからないものをそんなこともバラしてしまった上に「だって間違えたくないんだもん。」と本音をもらす。今の今まで「スペアキー」の世界観に引き込まれていたが、そんな人間らしい姿に会場も和やかなムード。「誰がために鐘は鳴る」のAメロは美しい。そして言葉の多いBメロ、高橋らしいダークでありながら光を感じるサビ。C、D、Bm、Em、Am、D、G、B……心の機微を表現するように変わる間奏のコード。どこをとってもこの曲は名作だと思う。

昨年10月から今年1月まで開催された【高橋優 LIVE TOUR 2021-2022「THIS IS MY PERSONALITY」】でスタッフへの差し入れをルーティーンにしていた高橋は、今回も同じく差し入れをすることに。ただ今回のスタッフ数は100人近いため、自宅近くで差し入れを買うも人数分には足らず、まさにこれから開店させるであろう九段下駅に出ていた移動店舗の和菓子屋で残りを購入。最近なかなか売れなくなっていたことを嘆いていたお店の人は高橋に「“あなたみたいな人が今日来てくれたってことは、絶対俺たち明日はきっといい日になる”って言ったんですよ!」と言ったらしく、この日一番乗りで50個もの商品を買ってくれた高橋に向けられたミラクルな言葉を驚嘆の表情で話す。会場からは笑いや驚き声の代わりに拍手が湧き上がった。しかし次曲は「明日はきっといい日になる」ではなく、そうやって差し入れを通じてでないとスタッフとなかなかコミュニケーションを取れない人見知り高橋ならではの「人見知りベイベー」。

“あぁ面倒臭ぇ!”この印象的なフレーズは「ボーリング」。かなり都合良い歌詞だが、人間のリアリティと愛が詰まったこの曲にオーディエンスは聴き入っている。Radioheadを彷彿とさせるような歪むエレキがエモーショナルに会場に響いた。

1月、東京ではかなり雪が降った。雪国生まれの高橋はTwitterで雪道の歩き方のアドバイスを呟いたが、後日改めてチェックすると「#北から目線」や「#北国マウント」のハッシュタグ付きツイートが万単位であったそうだ。普段雪に慣れていない東京へここぞとばかり北国の人が偉そうな助言をするという反応だが(無論、冗談めかしたものもある)「そんなつもりないよ!オレはさ、良かれと思ってさ、転ばないようにして歩いてねって。」と、武道館で愚痴をこぼす高橋に思わず笑いがもれる。「なかなか難しいなという思いで次の曲をやりたいと思います。聴いてください。“いいひと”。」この流れはうますぎるし笑ってしまう。わざとサイコパスな笑顔を振りまくと「お下劣な言葉は使っちゃいけません。」とたっぷり前フリしながら「オナニー」へ。


「あんまりやらない試みをしてみたいと思います。」そう言うと「room」ではループステージョンを用いてギターのボディを叩いたり爪で弾いたりしながらリズムや音を重ねた。ループステージョンは次曲「CANDY」でも用いられた。カバサを振りギターを爪弾く。この曲はいじめにあった高橋の実話。ステージを炎が囲む。それはまるでいじめている奴らといじめられている高橋を傍観する奴ら。もしかしたら高橋の心の中かもしれない。ビジョンに映る高橋を滲む色彩が覆い尽くし、辛いこの物語を際立たせた。デビュー10年を過ぎ、色々な曲を書いてきた高橋。「人と離れるのってすごく悲しいんだけど儚さみたいなものがまた光になるのかな。思い出したりすることも自分の中で光に変えられるのかなと最近考えます。」別れの歌が色褪せないことへの気持ちをポツリと告げると「誰もいない台所」へ。“君に会いたい 会いたい あの日に戻りたい”。切ない気持ちを吐き出すように歌う声、ビジョンに映る今にも泣き出しそうな表情。そのどちらとも裏腹に優しいギターの音色が会場を包み込んだ。


「ふぅ…」小さく息を吐くと、ギターのボディを叩き再びループステーションの出番。「さぁ武道館、しばらくしんみりとした曲が続いたんですけど、ここから僕とアツい感じになりませんか?」クラップと共にオーディエンスは立ち上がり後半戦へ。「(Where’s)THE SILENT MAJORITY?」、「象」で一気に武道館を熱気に包むと、続く「ルポルタージュ」の途中「タオルを振り回す仕草ってさ、壁を叩く仕草に似てると思うんだ。あなた方が思ってる嫌なこと良いこと全部、高橋優にぶん殴るつもりでタオル回してくれませんか?」そう言い、オーディエンスもタオルを回し更にヒートアップ。

「その手拍子の一回一回が僕にとっての宝物です。本当にありがとう。」その言葉に鳴り止まない拍手。「脇役なんてひとりもいないし、必要ない人間なんてひとりもいないと思っています。だから僕にとっても大事な日々。あなたにとっても大事な日々。そういう想いを込めて書いた曲を歌わせて頂きたいと思います。僕にとっての一番最初の、始まりの曲です。」そう言うとデビュー曲「素晴らしき日常」で本編を締めくくった。

「アンコールありがとうございます、武道館!歌っていいの?アンコール。」笑顔で再び登場すると、インディーズ時代から大切に歌ってきた「駱駝」に温かいクラップが響く。高橋からは何度となく嬉しそうな、楽しそうな笑顔がこぼれた。

「言葉、歌詞、そういったものを僕は死にものぐるいで、死ぬ直前まで皆さんに絶対届けるっていう決意を持って書いた曲です。」ブルースハープの音色、胸と目頭を熱くする歌詞を、歌声を、2階席の最後列まで届け、曲が終わると丁寧にお辞儀をした。生声で「ありがとう!」と叫び「また会いましょうね。何があってもまた会いましょう!負けないで頑張ろう。」そう挨拶し、【高橋優 10th Anniversary Special 2Days「弾き語り武道館~黒橋優と白橋優」】の初日【黒橋優の日】は幕を閉じた。
そしてこのライヴレポートは翌日の【白橋優の日】へ続く。


□ 2月8日(火)【黒橋優の日】 セットリスト

M1.こどものうた
M2.陽はまた昇る
M3.風前の灯
M4.雑踏の片隅で
M5.スペアキー
M6.誰がために鐘は鳴る
M7.人見知りベイベー
M8.ボーリング
M9.いいひと
M10.オナニー
M11.ほんとのきもち
M12.room
M13.CANDY
M14.旅人
M15.誰もいない台所
M16.(Where’s)THE SILENT MAJORITY?
M17. 象
M18.ルポルタージュ
M19.太陽と花
M20.素晴らしき日常

アンコール
En1.駱駝
En2.プライド

Photo:新保勇樹
Text:秋山雅美(@ps_masayan



■ 高橋 優 オフィシャルサイト
https://www.takahashiyu.com/

■ 高橋優 10周年初の弾き語りツアー「ONE STROKE SHOW 2021~NICE TO MEET U~」特設サイト
https://fc.takahashiyu.com/feature/tour2021_nicetomeetu

■ ワーナーミュージック・ジャパン HP
https://wmg.jp/artist/takahashiyu/

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