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スキマスイッチが目指した「漫画と音楽の融合」とは。【スキマスイッチ "Soundtrack"】ライヴレポート

スキマスイッチが目指した「漫画と音楽の融合」とは。【スキマスイッチ "Soundtrack"】ライヴレポート

January 6, 2022 18:30

スキマスイッチ

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漫画とスキマスイッチの音楽が紡ぐ【スキマスイッチ ”Soundtrack”】が12月22日(水)、日本武道館にて開催した。この企画のテーマは「漫画と音楽の融合」。原作には多数の著書を出版し、コメンテーターとしても活躍中の作家/エッセイストの岸田奈美氏を起用。作画にはこの作品がデビューとなる若手漫画家たちが起用された。このアイデアを知った時には、“この人たちの頭の中にはどれだけの発想が詰まっているのだろう”と驚いたが、驚きとワクワクが入り混じった感情を胸に、筆者は会場へと向かった。

クラシックが流れる開演前。ステージには球体の灯りが暖かく光っている。客電が落ちるとスキマスイッチの二人が登場。下手側で挨拶をした。

「今回はいつものライヴとはちょっと違った試みをしてみようと思います。先に言っておきますと音楽がメインではありません。」大橋の口調は穏やかだ。ミュージシャンである以上、自分たちの音楽をメインに考えるのは当たり前だし、その気持ちが人一倍強いであろうこの二人からそんな言葉が飛び出したのはやはり意外だったが「”Soundtrack”というタイトルどおり、音楽はBGMと思ってもらった方が良い」と大橋は続ける。ステージの背後には大型ビジョン。スキマスイッチのSNSでは今回のライヴになくてはならない4つのオムニバス漫画を先行で発信しており、大型ビジョンに映し出されるその漫画が今回のメインだ。

ことの発端は日本武道館が空いていたことから始まった。ちょうど年に一度、武道館で何か出来ないか考えていたスキマスイッチにはうってつけだった。クリスマスが近い時期の<特別感とお土産>という発想から今回のアイデアへ発展したらしいが、ディスカッションを重ねるも、最終打ち合わせは本番の前々日まで行われたという。

バンドメンバーの村石雅行(Dr)、種子田健(B)、浦清英(Key)、石成正人(G)、松本智也(Per)、本間将人(Sax)、田中充(Tr)を呼び入れると「新しい音楽体験、新しい漫画体験みたいなものを、もし味わっていただけたら嬉しいなと思っております。」改めて大橋はそう言うと、リスクを恐れず新たな世界を切り開く第一歩の幕が開いた。

常田のピアノがドの音を響かせ漫画の世界へ誘う。
「これはある街の物語」
オープニングの漫画はepisode1[瞳に映るのは過去]。歳を重ね、自分の娘のことも忘れてしまうくらい記憶が曖昧になってきたご主人と一緒にいられる時間に悩む妻。ゆったりとストーリーに寄り添う。大橋の言葉を借りるなら“BGM”は「未来花(ミライカ) 」。そして「1017小節のラブソング」へ。苦悩から、何故ご主人が決まった時間に出かけるのか分かった妻の涙。

ひとつの物語が終わり、余韻を残すように「ラストシーン」のイントロが流れ始めた。オーディエンスはこの瞬間、どんな気持ちでこの曲を聴いているのだろう。ビジョンの映像は消え、目線は通常通りステージの大橋や常田、バンドメンバーへ向けられているだろうが、筆者はこれが漫画の余韻や次の物語へ向かう為のインターバルにも聴こえていた。

鳥の声。村石のカウント。「月見ヶ丘」のイントロからepisode2[とっておきの場所]へ進む。ポップなメロディが屈託ない“麦”の笑顔と無防備な“菜穂”の寝顔に合う。凍えるような寒い日、行き場がなく意識を失いかけていた麦を見つけてくれたのが菜穂。そこから一緒に住み始め、何ということのない日常へと変わる。リズミカルに動く1コマ1コマ。なるほど、スキマスイッチのツアーならよくあるライヴアレンジも、今回は音楽を楽しむためのものではなく物語の起承転結のためにあるのだ。この心地よい大橋のファルセットもコーラスも……。BGMが新曲の「いろは」へと変わると、物語は菜穂が就職のために家を出て麦と離れ離れになる展開に。“ずっと一緒だと思っていたのに”。そう叫ぶ麦の本当の姿とは……?音楽は不思議だ。きっとこれがツアーなら全く別の色を見せるだろうが、演出でこんなにも感じ方が変わるなんて。麦と菜穂の互いを想う気持ちと大橋の瑞々しい歌声がエモーショナルにリンクする。

グラウンドに響く声。続いてはepisode3[未来が引く糸]。中学最後の野球の試合中に大怪我をおった七瀬。手術やリハビリを余儀なくされ、推薦が決まっていた高校への進路も絶たれた。そこへお見舞いに来る瑠璃。青春の甘酢っぱさと苦悩を描いた物語に見事な色彩を足すのは「アイスクリーム シンドローム」。試合後、瑠璃に告白するつもりだった七瀬が聞いた、瑠璃の推薦入学話に七瀬は素直におめでとうを言えず追い出してしまう。「アイスクリーム シンドローム」は途中で場面転換を表現する音になり、曲は「ミスターカイト」へ移った。後悔顔で河原にいる車椅子の七瀬。そこへ一人の男性が…。実はこの4つのオムニバスはどこかで繋がっていて、それは伏線というより人生の糸のようなものに感じた。例えるなら「奏(かなで)」に、「雨は止まない」というアンサーソングがあるように、音楽を糸のように繋ぐスキマスイッチらしい発想でもあった。この男性の言葉と突然現れた“犬”によって、出発する瑠璃の元へ向かう七瀬。「ミスターカイト」のサビの疾走感と七瀬の感情が重なる。曲が終わっても拍手がない。オーディエンスは完全に漫画の世界へと誘われていた。

今更ながらに楽曲と漫画のコマを合わせる見事な演出にため息が溢れる。スキマスイッチ、バンドメンバー、映像を操るスタッフ、それぞれの呼吸と集中力は並大抵ではないはずだ。「青春」はサビからイントロ、Aメロと順番を変えたアレンジだ。最後のepisode4[大切なもの]のBGMは「藍」と「全力少年」。色々なものを背負い、全力になることから逃げた翔平。彼女のヒトミとの約束も忘れ二人の関係が壊れそうになった時、翔平は河原へ……。いつもなら恒例となっている「全力少年」のコール&レスポンス(今はコロナ禍で出来ないが)も、オーディエンスへの煽りも当然ない。大橋は時折ビジョンを見ながら呼吸を合わせる。

4つの物語は終わり、ハモンドの音が会場に響く。バックライトが大橋、常田、バンドメンバーの輪郭を溶かしながら「サウンドオブ」のAメロ、大橋の印象的な優しい歌声。4つの“愛”を描いた漫画とスキマスイッチの音楽によって作られた世界にオーディエンスは浸っているようだ。(勿論筆者も)大橋のフェイクとドラムソロのアウトロで一気に感情が溢れ出し、大きな拍手が巻き起こった。

エネルギッシュなバンドのプレイの「ユリーカ」ではダイジェストのように漫画の様々なシーンが映し出され、少しずつ脳内に入った音楽と漫画のバランスが変わる。続く「パラボラヴァ」では、もういつもと変わらないスキマスイッチのライヴの雰囲気でオーディエンスも振り付けやクラップで曲を楽しみ、爽快なホーンの響きにテンションを上げる。

そのテンションを変えたのは常田のピアノ。ゆったりと「奏(かなで)」のイントロが流れ、SNSには公開されていなかったepisode5[改札の前]がビジョンに映し出された。今までの登場人物を見守ってきた改札が主人公という面白い目線で描かれた登場人物たちのアナザーストーリー。「ほんの一瞬の出会いは誰かの人生に幸福をもたらす」そんなセリフと「奏(かなで)」のメロディは温かくオーディエンスを包み込んだ。

エンドロールに流れるのは「未来花(ミライカ) for Anniversary」。無論ライブレポートを書くにあたり、事前に漫画は読んでいたし楽曲も今まで何度となく聴いてきた。しかし何かが違う。これが大橋の言っていた新しい音楽体験、新しい漫画体験なのか……。感動の拍手が降り注ぐ。二人はお礼を述べながら「本当に本当に沢山の人の力をお借りしました。」と大橋。一度きりの挑戦。無事やりきることが出来たことに大橋も常田も安堵の表情を浮かべている。更にこの日会場に来ていた蒼井アオ氏と歩氏の名前を呼び、二人にも大きな拍手が贈られた。ビジョンには登場人物全てが映し出され、スキマスイッチとバンドメンバーがお辞儀をするとイラストもお辞儀をし、手を振る。こうして【スキマスイッチ ”Soundtrack”】は大団円にて幕を閉じた。

この日会場に来ていた人たちにはお土産としてセットリストとスキマスイッチのインタビューが掲載された今回の漫画本が配られた。そしてその中にはまだ誰も知らなかったepisode6も。きっとこうやってスキマスイッチの二人はまた新たな挑戦を更新し続けるのだろう。だがまずは、アルバム『Hot Milk』『Bitter Coffee』を引っさげた全国ツアー【スキマスイッチ TOUR 2022 "café au lait”】が2月10日(木)、栃木県・宇都宮市文化会館大ホールを皮切りに開催されるので、来年も彼らの音楽物語を楽しみにしたい。

photo by 岩佐篤樹
text by 秋山雅美(@ps_masayan


□ セットリスト
M1. 未来花(ミライカ)
M2. 1017小節のラブソング
M3. ラストシーン
M4. 月見ヶ丘
M5. いろは ※新曲
M6. アイスクリーム シンドローム
M7. ミスターカイト
M8. 青春
M9. 藍
M10. 全力少年
M11. サウンドオブ
M12. ユリーカ
M13. パラボラヴァ
M14. 奏(かなで)
M15. 未来花(ミライカ) for Anniversary

イラスト:蒼井アオ、歩、コルク
作:岸田奈美


■ スキマスイッチ HP
https://www.office-augusta.com/sukimaswitch/

■ 書き下ろし漫画まとめ(全4話)
https://twitter.com/sukima_official/status/1473436601347096576?s=21

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