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植田真梨恵、2019.6.30 恵比寿 ザ・ガーデンホール ライヴレポート

植田真梨恵、2019.6.30 恵比寿 ザ・ガーデンホール ライヴレポート

July 4, 2019 18:00

植田真梨恵

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2枚のコンセプトミニ・アルバム『F.A.R.』と『W.A.H.』を引っ提げたツアー「植田真梨恵 LIVE TOUR 2019 [F.A.R. / W.A.H.]」が5月5日(日)宮城 darwinを皮切りにスタート。全国9都市を巡り、6月30日(日)東京・恵比寿 ザ・ガーデンホールでファイナルを迎えた。

客電が落ち、JBのソウルナンバーは「(EXIT)」(『F.A.R.』ラストのインスト曲)へ変わる。そこから「(entrance)」(『W.A.H.』のM1)に乗せてバンドメンバーの車谷啓介(Dr)、麻井寛史(Ba)、廣瀬武雄(Key)、渡邊剣太(Gt)が登場すると、「Bloomin'」のイントロで植田も登場。ツアーファイナルの幕開けだ。手の平を広げ高く掲げた細い腕は、開放的なサビのメロディで力強く揺れる。オーディエンスの歌声も圧巻なロックナンバー「FRIDAY」はやはり会場を熱くする。可愛らしいのにエキセントリック。繊細なのに骨太。楽曲によって変わる植田の歌の表現はインディーズ時代から凄かった。“あぁ、そうだった…。”植田のライヴが久しぶりの筆者は、ライヴ序盤からその実力を思い出すこととなる。

「 [F.A.R. / W.A.H.]ツアー、いよいよファイナルです!皆さんこんばんはーーーーー!」

ロングトーンばりの挨拶で再びフロアを沸かせると、アコギを構え「さなぎから蝶へ」。この曲は、2017年に急逝した真友ジーン.へ宛てた楽曲。だが90年代のネオアコを彷彿とさせるメロディは植田の柔らかい歌声と実にマッチし、一種の煌めきさえ感じる。「ロマンティカ」のイントロで細かく刻まれるクラップと反比例するような伸びやかな歌声。オーディエンスのワイパーを先導する堂々とした佇まいは『F.A.R.』と『W.A.H.』、そしてこのツアーが特別だということを感じずにはいられなかった。

「大人の方が多く見えます。」MCで『F.A.R.』のコンセプト「大人の成長」を語りながら、絶妙な間と坦々とした口調でそう言うと、思わずオーディエンスは笑い出す。『W.A.H.』のコンセプトは「和」。植田は最近、日本に生まれて良かったと思う瞬間が少しずつ見つかってきたと言う。「日本の、昔からずぅっと受け継がれていくもの。何か大切にすること。丁寧に、丁寧に、人に伝えていくこと。職人さんのそんな“技”みたいなものがとっても素敵だなぁと、こういう国に生まれて良かったなぁと思ったりしました。」と話すと、そう思えるきっかけ、更に『W.A.H.』を作るきっかけになったという「勿忘にくちづけ」へ。この曲は、植田の故郷 福岡・久留米の伝統工芸である久留米絣(くるめがすり)のPR動画主題歌として作られた楽曲。植田は情景描写が巧い。ポンっとアコギのボディを叩き、叙情的な歌詞とメロディを歌えば、オーディエンスは耳を澄ます。ゆっくりとした時間が「花鬘」へ繋がると、フットライトは夕暮れのように柔らかく、藍色のサスペンションライトはやがて来る夜のようなコントラストを描き出した。「プライベートタイム」の憂いも心地よい。息を吸い込み突然曲が終わるエンディングは、例えば香りのように音とは別の五感までも刺激する。

2017年に自身も女優として出演した映画『トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡』の主題歌「灯」を聴くと、猫を抱く“キミエ”を思い出し、また映画を観たくなった。

ueda20190704_0172.jpg「6月30日、日曜日です。5月5日から始まったツアー [F.A.R. / W.A.H.]。週末になると各地に出かけていくといった感じでした。バンドでのツアー、久しぶりで。また2枚のCDを持ってコンセプティブに曲をお届けしていくっていうツアーもね、久しぶりで。毎回どこに行っても違う雰囲気になって、私はよく泣いたり笑ったりしたツアーでした。そんなこの2ヶ月。あっという間に梅雨になって。しっかり梅雨入りしたので次の曲を心から感じてください。」ツアーを思い出しながらぽつりぽつりと喋る植田の声は最後、今にも泣き出しそうになっていた。だが、植田が「心から感じてください」と言った「悪い夢」の透き通るような、それでいて力強い歌声にオーディエンスは大きな歓声を上げた。更に、アッパーな「ふれたら消えてしまう」では、植田の煽りで会場のボルテージは一瞬にして上がる。

「この9箇所のツアーのうちに、私は立派に“大人の成長”をする予定だったんですけど、イマイチです。」淡々と言う植田に会場から笑いが溢れる。しかしなおも変わらない口調で「皆さんは頑張っているから、私も明日からも頑張りたいと思っています。悩んだり、自信をなくしたりすることもあるかもしれないですけど、私の歌を聴いてくれているなら、私も頑張って(曲を)書くんで、明日からも頑張って下さい。」と続ける。決意表明のような言葉は、同じ想いを込めた「FAR」へ。ピュアな心を感じさせるピアノの音色、心の奥底にある軸を思わせるバスドラのリズム、不安を突くようなベースライン、その全てが「大きくなって大切なものが増え、弱虫になった」と言っていた植田の心情を映し出している。繊細な「softly」に続き、本編の終わりは『W.A.H.』のラスト曲「ひねもす」。「なんだっていいのさ」と繰り返される歌詞は、楽観的とも違う、強い希望に満ちていた。

止むこともダラけることもなくアンコールを求めるクラップが響き、再びバンドメンバーと植田がステージに上がった。「苺の実」は独特なコード展開が魅力だ。リズミカルな2番は音源より更にリズムを増し、歌声高らかに伸び上がる。

「アンコール、どうもありがとうございます。」お礼を言った植田は土下座スタイルで頭を付けてしっかりお辞儀。ここでそれぞれ「日本に生まれて良かったと思う瞬間」という質問を加えてメンバー紹介。麻井は「美味しいお米を食べている時」。渡邊は「美味しいお酒を呑んでる時」。車谷は「四季がきっちり感じられること」。そして「浴衣を着ている人を見るのも好きだし着るのも好き。」と答えた廣瀬の風貌を観て「文豪さんみたいになるわけですね。……“火花”を書かれた方ではない?」と、さすが関西が長いせいか、絶妙なツッコミでオーディエンスを笑わせる。更にこの日はゲストアーティストを迎えて、メジャーデビュー5周年をお祝いする【植田真梨恵 presents Five FLOWERS anniversary】と、メジャーデビュー5周年を締めくくる、一夜限りのスペシャルライブ【植田真梨恵 SPECIAL LIVE "PALPABLE! MARBLE! LIVE! -ANNIVERSARY 2019-"】の開催を発表。会場を大いに沸かせた。

「 [F.A.R. / W.A.H.]ツアー、本当に大切なツアーになりました。皆さんどうもありがとうございました!今年メジャー5周年ですけど、関係なくずっと死ぬまで歌い続けられたら良いなと思います。約束をしたいと思います。どうもありがとうございました。」最後にそう挨拶すると「彼に守ってほしい10のこと」で「植田真梨恵 LIVE TOUR 2019 [F.A.R. / W.A.H.]」は幕を閉じた。デビュー5周年の今年は、このツアーが終わってもまだまだ植田の活躍から目が離せない年になりそうだ。

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Photo:竹谷さくら、小村まき
Text:秋山雅美(@ps_masayan



□ セットリスト
M1. Bloomin'
M2. 夢のパレード
M3. FRIDAY
M4. さなぎから蝶へ
M5. ザクロの実
M6. hanamoge
M7. ロマンティカ
M8. 勿忘にくちづけ
M9. 花鬘
M10. プライベートタイム
M11. 灯
M12. 悪い夢
M13. 支配者
M14. ふれたら消えてしまう
M15. カルカテレパシー
M16. FAR
M17. softly
M18. ひねもす

Encore
En1. 苺の実
En2. 彼に守ってほしい10のこと


■ 植田真梨恵オフィシャルサイト
http://uedamarie.com/

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