ー ちっぽけさん自身の理解が追いついていないけど、直感的にそう思ったというのは面白いですね。
ええ。だから僕の理解が追いつかないことの面白さも含め、その時の心情を反映して結局直さずそのまま歌詞にしました。
ー そういえばちっぽけさんのInstagramを拝見しましたが、レコーディングでギターのコードを別の人に押さえてもらっている写真がありましたね。反則技って書いてあったけど(笑)。
ああ、あります(笑)。「ふみの日」のソロギターフレーズで、鳴っちゃいけない音がどうしても鳴っちゃって。それをどうミュートしようか考えていたらアレンジャーの岩崎さんが「そこの弦、音が鳴らないように押さえておくから。」って言ってくれて、あの状態でレコーディングしたんです(笑)。
ー そうだったんですね(笑)。
だから反則技(笑)。
ー「夢の中で」は洋楽テイストなポップサウンドが心地良くて、個人的にも大好きです。
ありがとうございます。
ー メロディ的にちょっと懐かしさを感じたのですが。
明確なルーツや年代、ジャンルなど具体的なことは意識していなかったんですが、自然と書いていました。ただ作っている最中、自分でも洋楽っぽさはすごく感じたんです。それに自分のリアルタイムよりも前の音ということは感じていたので、自分の中で納得出来る音を追求して、ノイズを入れたり曲の初めにカセットテープをスタートさせるような音を入れたりしました。
ー Maroon 5のようなサウンドのポップさが心地良いですよね。
ああ、自分でも作っている中でMaroon 5っぽさは感じていました。「Sunday Morning」とか。
ー そうそう!
制作中は意識していなかったですが、今聴いてみると声の抜け感もそれっぽいなって。実はこのヴォーカルとアコギは自宅で録ったデモ音源をそのまま使っているんです。だからきちんとレコーディングしたものとは違う音質だったり、家で録った独特の気の抜け方がすごく良い形に出て、レコーディングでも「これいいね!」となってそのまま使うことになりました。
ー 面白いですね。
でも採用されるなんて思っていなかったので、本当に気の抜けた感じが出まくっていて(笑)。ただ、その“どうせ世に出ないぞ”というリラックスした雰囲気が逆に良かったのかなと。
ー 先程も洋楽を聴き始めたと言われましたが、最近お気に入りの洋楽は?
The 1975というイギリスのバンドです。アルバムごとに、曲だけでなくビジュアル的な部分まで変化しているんです。彼らは特に80年代のサウンドに影響を受けていて、そのルーツになっている曲も聴いたりしています。そうやってThe 1975きっかけで色々音楽的な勉強になっている部分はあります。
ー コラムインタビューの時も、Galileo Galileiきっかけで色々な海外インディーを聴いているというお話がありましたよね。
ええ。好きなアーティストのルーツ・ミュージックを辿ることは結構ありますね。
ー「マツヤマ」はまさにちっぽけさんの出身地、愛媛県松山市のことですね。
はい。
ー すみません、松山のことを本当に何も知らなくて…。
松山は愛媛県の県庁所在地ですが、正直言って本当になにもなくて。
ー 歌詞にもありましたね。「この街はさ 何にもないから」って。
親から「この歌詞、愛媛の人から怒られるよ。」って言われたんですけどね(笑)。僕は中学高校の6年間、もっとも多感な時期を愛媛県で過ごしていて、その当時の僕は本当に何もない街だなと変な諦めがあったんです。そんな松山で過ごした時間の中で色々なことがありましたが、この曲は恋愛的な部分をピックアップしてみました。好きな子と二人で遊びに行っても別に行くところも全然なくて、公園やその近くの道をただ歩くぐらい。でも、だからこそ何気ない道や風景に記憶や思い出が詰まっていて、それって地元の何もなかった街ならではだなと思ったんです。都会で恋愛していたら遊ぶ場所も沢山あるし、絶対こんな感情にはならなかったと思うし。だからこの曲はそんな思い出を持ちながら、上京後に帰省した時、何もなかったけどそれが良かったのかなと感傷に浸っている曲です。
ー 歌詞に出てくる平和通りや銀天街なども、きっとちっぽけさんにとってリアルに懐かしい場所なんだろうなと。
そうですね。銀天街というのは商店街なんですが、大街道という同じような商店街があって、そこと繋がるように途中から銀天街になるんです。松山の人って、大街道や銀天街のことを<街>って呼んでいて、僕らも「街に行こう」って言っていました。それくらい他には目立ったものがないんですが、今となってはすごい愛おしいです。あぁ、そういうところで生きていたんだなぁって。
ー「マツヤマ」同様、「ふみの日」もすごくパーソナルな匂いがしました。ただ、コミュニケーションツールとして手紙よりSNSが主流な今、なぜあえて手紙をキーワードにしたのでしょうか。
この曲は結構ノンフィクションで。
ー 長いことポストを開けていないとか?
そうです、そうです(笑)。まだ一人暮らしも全然慣れていなくて、結構だらしない生活を送っているんですけど(笑)、忘れられない、ある人のことを書きました。その人とは色々あったけど、忘れられないでいるには理由があったことに気付いて、その勢いで歌詞を綴ったんです。だからいつもは曲から先に書くのに、この曲は歌詞から先に出来て。曲として作り始めたのは昨年冬からですが、実際8月23日の消印で手紙が来ていたんです。でも本当にポストを開けていなくて(笑)。久しぶりに開けたらその人から来ていた手紙に「23日は“ふみの日”なんだよ」って書いてあったんです。僕は<ふみの日>なんて知らなかったけど、そこからしばらくは毎月23日にその人から手紙が届くようになって…でも僕は返事を書けずにいるんですけど、こういう曲を作ったことだけは知らせたので、この曲が無事届いたら良いかなと思っています。
ー 本当に、かなりノンフィクションですね。
そうですね。
ー アルバム最後のナンバー「楽園」は7分28秒。かなりの大作ですね。
色々構成を考えて作ったデモを一度自分で聴いてみたら、約7分半あって「ながーっ!」って(笑)。でも自分が聴いた時にあまり長ったらしさみたいなものを感じなくて、自分で言うのも変ですが、しっかり聴かせて取り込める7分半になっているんじゃないかなと思ったので、スタッフにも「ちょっと長いですが、このままいきたいです。」とお願いしました。
ー 歌詞自体はどちらかというと短いくらいですし、実際ちっぽけさんが言われたように長さは一切感じなかったです。
ありがとうございます。意識的に長い曲を作ろうと思ったわけでなく、ただ作りたいように作った結果が7分半(笑)。
ー「テイクイットイージー」とは違うんですが、まるで“大丈夫だから”と言ってくれているような、気持ちを開放してくれる歌詞と曲でした。
この曲にはテーマがあるんですが…それを言うのが今は怖い気がしていて。
ー じゃあ曲が7分半ということだけ言っておきましょうか(笑)。
いえいえ(笑)。テーマというか……(少しの沈黙)若くして自殺してしまう人っているじゃないですか。
ー ええ。
色々なことを諦めてしまい、命まで捨ててしまう人。それにはその人その人で理由があってのことだと思うから一概には言えないんですが、中にはすごく小さな世界にとらわれている人もいる気がして…。ひとつの失敗に苛まれて命を絶つ人もいるけど、それってすごく勿体無いことだし、そういうニュースを見る度に胸が苦しくなっちゃって、それならいっその事、逃げ出そうよって思うんです。大事なものだけ持って。「大事なものをポケットにしまおう」って歌詞にもしましたが、その大事なもの…些細な感情の動きというか気持ち。そういうものだけちゃんと持っていれば大丈夫。それがテーマです。
ー コラムインタビューでも書かせていただきましたが「ルビー」を初めて聴いた時、『僕と青』の頃と比べて、歌の表現力が格段に上がっていると感じ、今アルバム全曲聴いて更に強く感じました。楽曲のバリエーションが富んでいるせいもあると思うけど。
ありがとうございます。僕はその成長というか変化を全然感じていなかったんですが、レコーディングでも言われました。このアルバムで最初にレコーディングした「ルビー」はデモを録ってから3ヶ月後くらいに本番のレコーディングだったんです。その3ヶ月の間でデモと声の出し方や表現力が全然違うと言われて。
ー でもご自身はそういう自覚はなかったと。
ええ。特別意識してもいなかったです。ただやはりジャンルが富んだことで自然とそういう歌い方になったのかもしれません。
ー リリース後は発売記念のインストアライヴが各地で開催されますね。
(取材時)まだどういうライヴにするか、どういうスタイルにするかなどは決定していないんですが、曲としてしっかり良いと思ってもらえるようなライヴをしたいですし、それによってCDが届けば良いと思っています。ありがたいことに特に声の良さ…というか特徴に触れてもらうことがある中で、そこから更にその先にある音楽的なこだわりを持って作った今作なので、そこまできっちり届けられるように頑張ります。
ー ありがとうございました!
取材 / 文:秋山雅美(@ps_masayan)
■ 大橋ちっぽけ オフィシャルHP
https://chippoke.themedia.jp/
1. ルビー
2. テイクイットイージー
3. アージ
4. ダイバー
5. 夢の中で
6. マツヤマ
7. ふみの日
8. Life
9. アイラブユーにはアイラブユー
10. 楽園
□ 全収録楽曲をスマホで簡単再生できる「プレイパス」コード封入
CD購入者特典決定
詳細
https://columbia.jp/artist-info/chippoke/info/63985.html
■ インストアライブ
・東京
3月16日(土)14:00 代官山蔦屋書店
4月6日(土)13:00 アリオ橋本店
・大阪
3月31日(日)12:00 イオンモール鶴見緑地店
3月31日(日)15:00 ヴィレッジヴァンガードアメリカ村店
3月31日(日)17:30 タワーレコードなん難波店
・愛媛
3月21日(木・祝)デュークショップ松山店
□ 詳細
https://columbia.jp/artist-info/chippoke/live/
■ ライブ
SANUKI ROCK COLOSSEUM 2019-MONSTER baSH×I♥RADIO 786
3月23日(土)
会場:SUMUS café
出演時間:17:30-18:00
□ チケット
・2日通し券¥8,000(税込み)*先行販売のみ
・23日、24日一日券¥4,500(税込み)
□ オフィシャルHP
http://www.duke.co.jp/src/