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【コラム】オフィス オーガスタ特集 最終章 佐藤洋介篇 前編:エンジニアとは。

【コラム】オフィス オーガスタ特集 最終章 佐藤洋介篇 前編:エンジニアとは。

August 23, 2016 19:30

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ー なるほど。

そこで個性が出る。アーティストとの混じり方で巧くカッコいいところを引き出している感じというのは、やはり海外の方が大きいかな。日本人は逆に器用なので、きっと合わせるんだと思うんです、そのアーティストに。しかも日本人はEQの使い方が細かいって言われるんです。


ー すみません…EQって?

イコライザー(周波数特性を変更する音響機器)です。海外は放っておいても良い音で録れたらそのまま出すという感じなので、海外のエンジニアが日本に来ると困惑するみたいですよ。環境的にEQをいじらないと実は良い音にならないと言われているので(笑)。


ー 海外と日本ではかなり違いがあるんですね。

そうですね。


ー 洋介さんが一番最初に買った機材は何ですか?

TASCAM Porta2という機種で4トラックのカセットMTRです。


ー それが多重録音の一番最初ですか?

いや、よくありがちなラジカセを2台置いて、1台から音を流して弾きながらもう1台で録るという(笑)、それが最初ですね。でもバンド活動の中できちんと使い始めたのはTASCAM Porta2が最初です。


ー 以前、洋介さんのインタビューを読ませて頂いた時に、最初の頃は打ち込みではなく手ドラム?をしていたとありましたが。

あぁ、手ドラムね(笑)。今は結構DJなどで普通に使われていますが、リズムマシーンを指で叩くという行為。いわゆる打ち込みでリズムを機械に入れていけば良いだけなんですが、リズム感がスクエアになるのも違うなと思ったんです。あとはモタったり早くなったりするものを、意識的に一緒に演奏している部分と合わせたいと思って。でも打ち込むのにすごい時間がかかって(笑)。結局やっている最中に「あれ?僕は何をしたかったんだっけな?」って忘れちゃったり、曲を作っている過程で醒めていく感じが嫌だったので、「鉄は熱いうちに打て」ではないですが、思った瞬間にダーって入れていけるという理由で、ずっと手でリズムを打ち込んでいました。今思えば、ただ単に意地でやっていた気もしますが(笑)。


ー 今では考えられない面白さですね。

そうですね。今その音源を聴くと勿論味もありますし、個性もあるので、間違ってはいないし、良い作品として残せていると思います。


ー 今はちょっとした音でもサンプリングですぐに再現できますよね。

これはアレンジの話にもなるんですが、チョイスする力ですね。良いと思える音を選んでいかないと時間は本当に過ぎていきますし、曲の熱がどんどん醒めてしまって、途中で「もういいや、この曲なし!」ってなっちゃうから(笑)。


ー そうですよね(笑)。

サンプリングだけでなくソフトも、皆さんが家庭で持っているパソコンにインストール出来る、普通のアプリケーションと同じものを使っているので、土俵は同じなんです。僕たち作品を作っていく側のプロの立場からすると、どこで差をつけるか考えた時に、そこを選び出すセンスなんです、今は。昔は圧倒的に機材の差があって、プロとして作られたCDなどの音源は、何億とかするような機材で録られていたから、みんなそういう部分にも憧れて「ああ自分もプロになったら、そういうスタジオでレコーディングがしてみたい。」と思って音楽をやっていたんです。でも今では普通に家で録れるんですよね。


ー そこでかなり違いが。

そうそう。しかも90年代にはベッドルームレコーディングといって、自分の部屋で録音することがステイタスになってきたりして。それでもまだ当時プロの人たちはお金があったから、ベッドルームレコーディングでも豪華な機材を家に持ち運んだりしていたんです。それが今ではコンピューターの中に全部入っていくから、デスクトップひとつあれば同じ環境になってしまう。


ー そこでチョイスする力が必要になってくるわけですね。

そうなんです!鳴り音の感覚もそうですし、EQをどこで凹ますのか、どこが出っ張っているのかなど、それによって「何かカッコいいよね。やっぱり違うよね」と思わせる。でも塩加減と油加減くらいしかないんですよ、本当に。それで最終的に「やっぱり素人さんのオムレツとプロの作るオムレツとでは違うんだよな。」って思われるものを作る。フォーク入れたら中がトロトロ半熟で「うわ、美味い!」ってね(笑)。


ー なるほど(笑)。でもそれってプロにとって、厳しいことのように感じるのですが。

いや、それはそれでアリだと思います。誰でも出来て当たり前だし、元を正せばエレキギターだって誰でも手に入るものですから、土俵的には同じ。演奏の仕方でプロとアマチュアでは勿論変わるので、それはレコーディング機材でも変わらないと思うんです。 僕なんかは録って音を出すことが当たり前だけど、 そういう風になっていくことによって新しい音楽が生まれてくることもあるだろうし、全然訳が分からない処理をして「何、この音。今まで聴いたことない!」という音楽が出てくるかもしれない。逆に先祖返りするのかもしれないけど(笑)。


ー あー、それもありそうですね。

しかも、ただ先祖返りするんじゃなくてね。目からウロコのようなことをプロではない人たちが発見するパターンも多いんじゃないかな。プロじゃないからこそ思い切ったことも出来るだろうし。そういうことから自分たちプロも学んでいくのは、悪いことではないと考えています。


ー 音楽を聴く環境やツールもかなり多様化されていると思うんです。昔はステレオで聴くのが当たり前だったけど、今は携帯電話で音楽を聴く。更に言えば、ヘッドホンもレコーディングスタジオで使っているような高性能なものではなかったり。それこそコンビニでも売っている1000円前後のイヤホンを使っている人もいますし。

人それぞれになってくると思うんですが、例えばオリコン上位に入ってくるようなアーティストの作品は、色々な機材に寄せた音になっていると思います。ラジカセで聴くと、こういう音。ヘッドホンで聴くと、こういう音。カーステレオで聴くと、こういう音。ラジオで聴くと、こういう音楽。というように、出来るだけ何で聴いてもベストマッチングするように整合性を取ってミキシングされていますね。少し前ならラジオミックスとかあって、尺は勿論なんですが、ラジオで聴きやすい音で作られていたりもしましたし。

 

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