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長澤知之 15th Anniversary『LIVING PRAISE』インタビュー「自己葛藤ですね。神様を騙せっこないのに(笑)」

長澤知之 15th Anniversary『LIVING PRAISE』インタビュー「自己葛藤ですね。神様を騙せっこないのに(笑)」

August 4, 2021 19:00

長澤知之

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8月4日(水)に約8年ぶりとなるフルアルバム『LIVING PRAISE』をリリースする長澤知之。2006年8月2日に「僕らの輝き」でデビュー。今年デビュー15周年を迎える長澤が、人生賛美、人生賛歌を意味する『LIVING PRAISE』に込めた想いとは?


ー まずは15周年おめでとうございます!

ありがとうございます。でも15年ってちょっと微妙ですよね。


ー 10年とか20年という区切りとはまた違うしね。

そうなんですよ。勿論ここまでやってこれて、皆さんにおめでとうって言ってもらえるのは純粋に嬉しいんです。でもこの間、同期の秦(基博)くんとも「20年なら色々お祝いの企画も考えられるだろうけど15年ってねぇ……。」っていう話をしていて(笑)。


ー なるほどね(笑)。でもアルバム『LIVING PRAISE』最高でした!部屋にいるのに空が広がってるような気持ちになったというか。それはタイトルや歌詞だけでなく、ギターの音色やメロディの広がりっていうのかな。マスクをせず外を歩いてるような、ある種の開放感というか。

今作は結構内省的なアルバムになったと思うんですが、心象風景もひとつの内省なので、その中にイマジネーションで描いていた青空や雲、そういったものを音像化する為に、例えばギターやオルガンは後ろで鳴っていて、風景が観えるものを取り入れようという話をしていましたね。


ー なるほど!

何かね、そのまま観た風景というよりは、心の中で描いた風景を意識して書いた曲が多かった気がするので、もしかしたら心と心で認識しあえたのかなと思います。「羊雲」とかは実際観ていた風景を歌にした部分もありますが。

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“照和(長澤の地元:福岡のライブ喫茶)”が出てきますもんね。実は羊雲ってどういう雲だかすぐ出てこなくて(笑)。天気が悪くなる前兆なんですね。そう考えると良い時だけではなく悪い時もあると歌っているこの曲は綺麗事じゃなくて良いなと思えました。

ありがとうございます。まさにその通りで、良いこともあるけど悪いこともこれから起きるし、そういうことを頭に入れながら生きていこうとはいつも思っているんです。でも決して、“だから頑張ろう”と言っているわけではないんですよね。羊雲を指差して「明日雨かもしれないね。」って言って、友達に「田舎の爺ちゃんみたいなこと言うね。」って笑われたことを思い出しながら書きました。


ー そうなんですね(笑)。歌詞にも「展望を語り合ってそれ貶し合って 羊雲ただぼんやり見てた」とありますしね。

笑い合いながら、貶し合いながら、じゃれ合いながら…今でもとてもとても親友です。


ー 個人的に「朱夏色」がすごく好きで、特に“僕の恋は朱夏色 君は青空が好き だけど僕らはとうに太陽を背にしてる”という歌詞が胸にグッときました。それに細海魚さんのキーボードのキラキラした音が更に気持ちが湧き上がらせてくれます。

ありがとうございます。(タブレットを開きながら)当時、魚さんに送ったメールはまだあったかなぁ……風景や感性などを共有したくて、かなり長いメールを送らせてもらったんです。今言われた<キラキラ>というワードも僕、書きましたね。あと<風>とか。魚さんから戻ってきた音は僕の予想を遥かに上回る、自分が欲しかった以上のものが来ました。「宙ぶらの歌」でも魚さんにお願いしているんですが、その時はもう安心して何も言わず(笑)。まぁ元々魚さんには絶対的信頼を持っているんですが、魚さん自身もどういう方向のものが欲しいか知りたいようだったので、この「朱夏色」では結構明確にお伝えしました。


ー 朱夏は陰陽五行説で、人生真っ盛りの燃え盛る熱い時代を意味するということらしいけど。

何年か前、<青春>に対する別の言葉を探していたんです。青春は時代を表す言葉で、<春>だから、春が過ぎたことを表す言葉もあるのかなって調べていたら<青春>、<朱夏>、<白秋>、<玄冬>が出てきたので、<青春>の語源が陰陽五行説から来たことを理解しました。まぁ陰陽五行説についてめちゃくちゃ勉強したわけじゃないんだけど、それからずっと朱夏という言葉を使いたいなって思っていて。それは明確に伝えたいことがあったからだけど、最初は全然違う歌詞だったんですよ。


ー そうだったんですか。

ええ。本当に言いたいことはサビに詰まっているんでそこは変わりないんですが、そこに行き着くまでのドラマみたいなものは全く変えました。例えば「懐古的に歌う十代の永遠なんてしんどくって」とか。変な若さにしがみつく捉え方に対して僕は否定的だし、今の良さや美しさを肯定した歌を書きたい。そこに「色」という文字を加えると「何色なんだろう?」って想像を膨らましやすいかなと思ったんです。これは想像を膨らますためのインフォメーション的な曲というか(笑)。


ー なるほど!あと「ラブソング2」は当然『EXISTAR』(2009年)に収録の「ラブソング」に繋がる曲かと思ったら、そうではなかったんですね(笑)。

最初は仮タイトルだったんだけど、ディレクターに「そのままで良いんじゃない?」って言われたからそのままで良いかなと思って(笑)。


ー でもこの曲、めちゃくちゃ好きです。歌詞は哲学的なのに音はそれを考える間を与えないほど疾走感あるロックで。ベースがキタダマキさんで、ドラムがTRICERATOPSの吉田佳史さんなんですね。

はい。最初、ドラムもベースも僕が打ち込みで入れたデモをお二人にお渡ししたんですが、打ち込みって人力じゃないから人知を超えたものが出来上がるんですよ(笑)。だからキタダさんとか、ちょっと参ってらっしゃっいましたけど。


ー アハハ!

でもやっぱり、キタダさんも吉田さんも素晴らしいアーティストです。めちゃくちゃ手数の多い曲だけど、本当に素晴らしいパフォーマンスで自分が作ったデータよりも生々しいライヴ感のあるリズム隊に仕上げてくださいました。僕ね、楽しそうに音楽をしている人が一番好きなんですよ。レコーディングもそうだけど、勤労的な顔でやっているライブは観たくないし。だから「すげー、楽しかったよ!」って言ってくれて本当に楽しそうに叩いてくれた吉田さんはリスペクトしかないです。技術は勿論ですが、何より最高なのはそういうところです。それはキタダさんも同じですが。


ー 良いですね、そう言うの。あとやっぱり気になったのが「シケ」。前曲の「広い海の真ん中で」をちょっと否定してるようにも感じつつ、「羊雲」同様、良い時だけじゃない部分を別曲で出してるのが面白かったです。しかも1分53秒の短い曲なのに44秒間イントロって!

この曲は、(佐藤)洋介さんのスタジオで録ったんです。歌詞やアコギのリフは家で考えたんですが、エレキはどうしようかなと思って洋介さんのギターを借りて、その場で弾きながら感覚的に出来た曲です。だから別に驚かせてやろうという意図はなくて(笑)。


ー そっか(笑)。でも「もう終わっちゃった!」ってずっと余韻の中にいる感じが心地よい曲でした。あと「宙ぶらの歌」のミュージックビデオ(以下:MV)がすごく好きで何度も観ちゃいました。

あ、本当ですか?ありがとうございます!高橋健人監督に感謝ですね。


ー 実はみんなが持っているであろう「なんでもないかなしみ」や、楽曲の持つ心情にぴったりだなって。

そうですね。最初に僕も健人監督にMVの叩き台を観せてもらって、チームで色々考えながらやりとりを結構繰り返しました。「羊雲」も健人監督ですよ。


ー 「羊雲」のMVも懐かしい感じがするし面白いですよね。あの水飲み鳥、久しぶりに見たなぁ。昔の喫茶店とかにあったよね。

この間僕もどこかで見たな。どこだっけなぁ…「あ、アレだ!」と思って。でも僕、あのMVで初めてあの鳥を見たんですけど。


ー うっ!ジェネレーションギャップが……。

アハハ!あ、でもバランスアートは好きですよ!あの金属で出来たやつ。家にもあるんですよ。ミュージアムショップで見つけて懐かしくて買っちゃいました。


ー ありがとう……フォローしてくれて(笑)。あれも確かに懐かしいね。

ええ(笑)。


ー <祈り>って、長澤くんの音楽の軸な気もするけど、<人生賛美、人生賛歌>を意味するアルバム名も「My Living Praise」も、そういう長澤くん自身が色濃く出ている気がしました。

この曲はアルバムの中でもかなり内省的な曲だけど、それと同時にこういう考え方って宗教観から離れても自問自答という形でみんながしていることなのかなとも思うんです。難しく考えていることをシンプルに考えれば良いという曲でもあるし、視野が狭くなっている時、「実は世界は広いよ」と思考の転換を自分自身に促している曲でもあるんです。サビに出てくる「No one you can save that can’t be saved」は、The Beatlesの「All You Need Is Love」の一節ですが、ネイティブに寄せれば寄せるほど矛盾性というか二重否定でよく分からない歌詞なんですね(笑)。“お前が救おうとした人はすべて救えたよ”という意味なのか、“救いようのないやつは救おうとしたって無駄さ”という意味なのか……。多分ジョンレノンはそういうダブル・ミーニングで作ったと思うんです。あれだけ有名な時のThe Beatlesですから喧々諤々、色々な論議が巻き怒ることも予想して、“It’s easy.All You Need Is Love”。ぐだぐだ言ってんじゃねぇよ。結局は愛なんだよって言ってるんじゃないかなと僕は解釈しました。それならこれで良いだろうと思って、こういう解釈を踏まえた歌詞にしました。


ー 特に今みたいな状況化だとうまくいかないことも多いから、つい人生を悪く考えがちだとけど、この曲を聴いていると光の中には闇もあるし、それで良いんだと肯定感を感じられました。

この曲は「ついつい言葉を選んでる祈りを捧げる時も」という歌詞から始まりますが、お祈りをする時だけじゃなく歌詞を書く時もそうで、心の中にパッと出た瞬間の気持ちってすごくピュアな100%のジュースなんです。でもそれを声に出して、あるいは思考に頼って言葉を選んでいる時点で、すでに自分という汚いフィルターを通して100%のものが80%くらいになっちゃう。心象風景を言葉にして人に伝えるというのは、自分の余計な知識や穿った根性を通しちゃうというか。「これは格好つけすぎ」って修正している自分も格好つけてて(笑)。だからどんなに頑張ったって100%そのままは出ないんだなって思うんですよ。祈りを捧げる時も「あぁ、こういう風に言ったら神様に格好つけすぎか。あまりにも媚び売りすぎかな。」みたいな(笑)。「僕は純粋無垢です」みたいなことを言ったってそんなのバレてるし、自己葛藤ですね。神様を騙せっこないのに(笑)、くだらないことで悩んでいるなんてバカバカしいよな。簡単だよ。愛せばいいんだという曲であり、そういう自分の未完成さを認めようという曲なんです。色々なことで今も沢山の論議が巻き起こるけど、僕が未熟で未完成なように、世の中の人だって少なからず未熟で未完成な部分を持ち合わせていると思うから、そういう人たちが集まった集団が<社会>であるならば、社会は未熟で未完成でも仕方ないし、そこで導き出された答えは良くも悪くも妥協でしかないと思うんです。作品づくりも然りで、ここで終わろうというポイントも一種の妥協。ただそれをいかに自分で納得出来るスイートスポットに変えられるか。それがまさやんの言った肯定感につながっていると思います。無論、生きていく上でちゃんと直さなきゃいけない部分はありますけどね。例えば僕なら呑み過ぎとかね(笑)。だから少しお酒は控えています。


ー あ、偉いね。じゃあ私は甘いものを控えるよ。

いいですね。みんなでそうやって頑張っていきましょう(笑)。


ー そうだね(笑)。ありがとうございました!


インタビュアー:秋山雅美(@ps_masayan


■ 長澤知之 オフィシャルサイト
https://www.office-augusta.com/nagasawa/

Information

Release

長澤知之 3rdアルバム
「LIVING PRAISE」

2021年8月4日発売

-収録曲-

M1. 羊雲 *配信リリース済み
M2. 朱夏色 *3ヶ月連続配信第三弾シングル 7月28日(水)配信
M3. 青いギター *配信リリース済み
M4. ポンスケ
M5. ラブソング2
M6. 宙ぶらの歌 *3ヶ月連続配信第二弾シングル 6月30日(水)配信
M7. 広い海の真ん中で *配信リリース済み
M8. シケ
M9. クライマックス *配信リリース済み
M10. とあるパーティーの終わり
M11. My Living Praise
M12. 三月の風 *配信リリース済み

LIVING PRAISE

CD

POCS-23014 / ¥3,000(本体 ¥2,727)

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