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長澤知之、ニューアルバム「Chill In Hell」インタビュー

長澤知之、ニューアルバム「Chill In Hell」インタビュー

September 26, 2020 13:00

長澤知之

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「密なハコ」。そのアイロニックなタイトルの曲が発表されたのは今年の4月。突如SNS、YouTubeで発表され話題となった長澤知之。6月には音楽への初期衝動を歌った「青いギター」をリリース。9月9日には前作から3カ月ぶりとなる新曲「クライマックス」を配信。自身の有料配信ライヴを含め、コロナ禍でも着実に活動を続け、その文才に嫉妬すら覚えるブログも変わらずファンを癒やしている。そんな長澤知之が新たなアルバム『Chill In Hell』をリリース。The Rolling Stonesの『メイン・ストリートのならず者』を彷彿とさせるようなジャケットには懐かしい沢山の長澤がモノクロームで並んでいる。それもそのはず。今作は過去のアルバムやギタースコアの特典音源のコレクションに、新曲2曲を新たに追加した14曲入りのアルバムなのだ。そこで今回長澤に『Chill In Hell』について伺った。


まず、新曲「コルク」と「ちるあうと」について伺ってみた。

長澤:「コルク」「ちるあうと」は両者、シンプルな曲を、ミニマルなアレンジにまとめたものです。「コルク 」は、一つの部屋での二人の世界の話なので、装飾的な楽器はより不要だと思い、弾き語りにしました。表現も、僕らの命もそうですが、蓋を開けてしまえば、ただ乾くのを待つよりも、その瞬間を楽しめた方が僕にはより有意義に思えます。難しく考える癖がついている「僕」という人物に、「コルク」の女性は、「関係ない、思い出にしよう、楽しもう。」と言います。それは未来のために後悔しないように…とか、そういった不安から来る算段ですらなく、ただナチュラルに、幸福に対する本能的な勘が言わせている言葉です。レコーディング時に僕も難しく考えて何日かを無駄にしましたが、ある日ふっと肩の力を抜いてのぞんだ時、テイク1で録れて、それを収録しました。その経験も僕にとって大事な瞬間でした。一方、「ちるあうと」は少しおどけた内容ですが、個人的にはコルクとは別ベクトルの幸福を歌う曲です。自分ではなく、家庭を持つ友人のことを連想しました。直接的な名前や表現は個人的に抵抗感があるので、フィクションを入れることで少し事実から離しました。気怠いようで、気軽な、「二日酔い、三日目」みたいな曲ですが、録る時はこちらの方も何度かテイクを重ねました。

最初期の「僕のやけっぱち」は、ギタースコア『ギター弾き語り曲集「Archives #1」』のボーナストラックとして収録された楽曲。今回のアルバムでギター初心者へオススメしたい楽曲や、曲を弾く上でのポイントも併せてきいてみた。

長澤:わりと多くの曲がとても簡単なコードだと思います。この『Chil In Hell』に収録されている曲は、いくつかの曲を除いて音楽を自己表現の手段として見ている直情的な登場人物が多いからです。だから音楽性より、言葉が先立って、わかりやすいコードを手にしている曲が多いです。僕自身はもっと音楽を楽しんで凝ってみることも、精神を高めるアイテムにすることも好きですが、このアルバムの登場人物は割とそういう気はない感じなので、すごく簡単です。「老いパンク」とかそう思います。

また、今作で新曲以外に長澤が思い出に残っている曲を訊いてみると、ファン(筆者含め)に人気の「パーフェクトワールド」が挙がった。

長澤:ありがたいことに、「パーフェクトワールド」は、好きな曲だよあれと周りから言われる事が多かったです。もちろん自分も好きですが、正直思っていたより気に入ってもらえたことが意外でした。僕自身はあまり歌の中で多弁過ぎるスタイルは好みでないため、そこまで多用しないアプローチですが、この曲はわりと多弁です。それはその時のベストだと思った一つの表現方法だったのでそうしましたが、必要な時には使う程度のもので、そうでない他の曲も同等に好きだったりします。ただ今回のディレクターも、この曲を気に入ってる旨の話をしてくれたので、やはり人それぞれ、色んな世界があるんだなあと感じれました。分かりやすくエネルギーが漲っている曲なので、そういう意味ではキャッチャーだったのかなとも思います。でも僕は、静けさの中にエネルギーの漲りを感じる曲も好きです。


更に、長澤の友人でもあるシンガーソングライターの谷口貴洋氏がコーラスで参加した「空待ち」について、当時レコーディングでどういう話をしたか、またどういう話をすることが多いか訊いてみた。

長澤:この曲を録りながら、ふと、自分以外の声が欲しいと思いました。よく思うジレンマですが、僕の声はわりと便利で、出したい時に出したい声がわりと出る方なのですが、出場所がいつも同じなので、他の声も聞いてみたいと思うことがあるんです。自分の気持ちを表現するために、他の人の声の持つ風景を借りるってのは、どこか妙な話でもありますが、絵でいえば、筆を変えて描きたくなるようなもので、たまにそうします。だから一度スタジオのドアを半開きにし、そこから行き交う事務所スタッフの様子を覗いてましたが、みんな忙しそうな顔してるし、歌を生業にしているわけでもないのに、突然ハモリを伝えて「じゃあ、本番よろしく!」ってのは、少し配慮に欠けると思えたので、しっかりしたシンガーソングライターが良いと思い、彼に連絡をしました。そしたら快く引き受けてもらえて。「1時間後に来れそう?助かるよ!」って感じでした。スタジオに来るなり、歌ってくれたと思います。「いきなりやから 笑」と谷口貴洋は笑ってました。嬉しかったです。彼と普段話すのは、やっぱり基本、音楽の話です。結局のところ何を話しても音楽の話に帰結するんで、最終的に音楽以外の話ってあんまりないです。

今作には収録されていないが、やはり新曲「クライマックス」のことは訊いてみたかった。長澤のサウンドに新たな面白さを感じ、メールでも「とてもおもしろかったです!」と伝えた。

長澤:ありがとうございます。この曲の始まりは、「こういう音楽あんまり聴かないや」っていう着目からで、茶化しながら遊んでたトラックが始まりでした。それはビートルズでいうところの「Back in the U.S.S.R.」のビーチボーイズっぽい、wooコーラスみたいな事です。僕の場合は特定の誰かとかはなく、なんとなく頭にあった「ああいう感じ」ってのを音像化して遊んでたら、楽しくなり、愛着が湧き、完成させました。遊びがいつのまにかマジになってたパターンです。

更にこの曲のミュージックビデオ(以下:MV)も興味深い。監督は長澤の「ムー」のMVも手掛けた高橋健人氏。ミステリアスな雰囲気を漂わせたMVを長澤自身はどう観ているのだろうか。

長澤:健人監督は同世代の監督の中で、僕がとても信頼している監督です。素晴らしいのは打ち合わせの時にいつも「楽しみにしています」って言うんです。これから作りに取り掛かるのは監督なわけで、いくらか苦労もあるだろうに、「俺楽しみ宣言」って、こちらへの配慮だとしても心強いし、すごく爽やかな気持ちになります。ですから出来上がったものを見る時は僕も楽しみです。このMVの闇深い山道を車が行く最中も、終始、スクリーンにうっすら笑顔の男が映っていて、そういう意味では大変怖い経験をしたMVでした。


最後に、最初期の「僕のやけっぱち」から新曲まで収録した今作は、長澤にとってどういうアルバムになったのか訊いてみた。

長澤:はい。一つの感想になってしまいますが…
アルバムは時系列的に、最新→初期のリリースタイミングへと向かっていく内容です。でも単純に、今と昔というよりは、それぞれの持つ時間軸の中で、出くわす事象に向き合う人格たちを一つの空間に同居させたような、そういうアルバムだと思います。例えば学級崩壊を起こしかねないようなクラスの中に、幾人かバッドモードな奴、能天気にふざける奴とかいて、その中にポツン、ポツンと、他を気にせず自分達の世界に没頭してる人間が点在してる感じ。それぞれ気が合う奴と、合わない奴もバラバラで、同じように聴かれる方も気が合う曲、合わない曲あるだろうなと思います。でも暴れてる奴にも理由があって、ある瞬間、その理由に共感してくれる事もあるかもなという期待もあります。共通点としてはどれもそれなりに正直者ってことぐらいかと思いますから、気が合ったら、多分、いい感じに遊べるんじゃないかなと思います。僕の曲の中の登場人物は、あんまり一本線の同じ道の上に立ってなくて、点在してるんです。全然違う席で、全然違う姿勢で、全然違うことを考えています。きっと多くの人にいい時、悪い時あります。でも気持ちの浮き沈みがあるのは人間として当然で、機械的に心を殺していくより健康的だと僕は思っています。それでも辛い時は辛いし、そういう時僕は音楽に救われてきたので、たとえそれが怒りでも悲しみでも、もちろん喜びでも、誰かの心に寄り添えるものになれば本望です。


Text:秋山雅美(@ps_masayan


■ 長澤知之 オフィシャルサイト
http://www.office-augusta.com/nagasawa/

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