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【編集長コラム】カヴァーソングの魅力

January 25, 2020 10:00

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【編集長コラム】カヴァーソングの魅力

以前ポップシーンで「名作カヴァー」プレイリストを作った。カヴァーには独特の魅力がある他、老若男女、あるいは音楽好きなら誰しもが知る曲であれば(あえて言葉を選ばず言えば)“メリット”がある。それだけに、カヴァー曲への向き合い方や価値観はアーティストによってかなり変わってくる。





先日インタビューさせて頂いた藤巻亮太さんは自身が主催する野外音楽フェス『Mt.FUJIMAKI』での経験により「カヴァーをすることの面白さに取り憑かれました。」とおっしゃっていた。実際、2月にはカヴァーをテーマにした5日間連続のライヴを開催。そんな藤巻さんが歌うサントリーウイスキー角瓶『妹』篇の「ウイスキーがお好きでしょ」は、オリジナルの石川さゆりさんが歌うしっとりした色気と違い、切なさと真率さが入り混じったようなほろ苦さを感じた。




先程、カヴァー曲への向き合い方や価値観はアーティストによってかなり変わってくると記したが、オリジナルで、ある意味の正解が出ている作品を歌うことへは、リスペクトを含め躊躇するアーティストもいる。まぁその価値観や捉え方は別としても、オリジナルとは違う歌声やアレンジで歌われるそれらには興味深いものも多い。例えば様々なアーティストによってカヴァーされた中島みゆきさんオリジナルの「糸」。
この曲は1998年に両A面シングル「命の別名/糸」としてリリースされ、ドラマ『聖者の行進』の主題歌をはじめ、様々なCMソングに起用された。そのひとつ、『トヨタホーム』CMではEXILEのATSUSHIさん、Aimerさん、いきものがかりの吉岡聖恵さん、スキマスイッチさんがカヴァーし、まさに歌の糸でCMを紡いで来た。




『LINEモバイル』のCMで話題になった、のんさんカヴァーの「エイリアンズ」(オリジナル:キリンジ)や、『キリン 午後の紅茶』のCMでCharaさんの「やさしい気持ち」をカヴァーした上白石萌歌さんの歌声は個人的にも好きだった。

テレビをつけたまま何か違うことをしていた時に流れてくる、とあるCMソング。耳馴染みある曲が違う声で、違うアレンジで聴こえてきたあなたは、きっとハッとし、お茶碗を洗う手を止め、スマホから目を離し、画面を観るだろう。そう、それこそがCMソングの役割として重要なのだ。たとえ自分はそのCMの商品に興味がなかったとしても、その類の商品を探している人に「ほら、○○さんがあの曲をカヴァーしてるCM。」という形で記憶し、購買や興味への連鎖が生まれる可能性もある。だとすればCMでカヴァーが起用されるのも十分理解出来る。

そろそろCMの話からは抜け出そう。音楽の力は強い。オリジナルに楽曲としてのパワーがあればあるほど、カヴァーへ対してリスナーの反応も厳しくなり、歌う側のハードルも上がるだろう。だが、たまにオリジナルよりカヴァーの方を好きになる場合もある。

筆者で言えば、先日レーベル移籍とニューアルバムリリースを発表したさかいゆうさんが歌ったRadioheadの「Creep」。オリジナル曲がリリースされたのが1992年。そこから数年経った頃、イラストレーターのキン・シオタニ氏にRadioheadを聴かせてもらったことがあったが、当時はシューゲイザーやエレキの轟音が苦手だった私は、その音が不安と恐怖でしかなかった。そんな記憶があるからだろうか。さかいゆうさんが歌った「Creep」は全く違う印象を醸しており、この曲が収録された『僕たちの不確かな前途』のインタビュー時に、さかいさん自身に「オリジナルよりさかいさんのヴァージョンが好き」と話したこともあった。





今年でデビュー30周年を迎える槇原敬之さんが1998年にリリースしたカバー・アルバム『Listen To The Music』で歌う大江千里さんの「Rain」はオリジナル、槇原敬之さんヴァージョン、更には秦 基博さんヴァージョンと、どれをとっても逸曲だ。





また、「リンゴ追分」や「青春時代」まで歌ってしまう吉井和哉さんの『ヨジー・カズボーン~裏切リノ街~』は吉井さんじゃなければ、あんなイカした<色>は出せない。




たまに「おいおい、なんじゃそりゃ」と言いたくなるカヴァーもあるが(あくまでも個人的見解)、やはりカヴァーには奥深い魅力が潜んでいる。

文:秋山雅美(@ps_masayan

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