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COIL 岡本定義『シンガーとソングライター 〜COIL 20th Anniversary〜』インタビュー

COIL 岡本定義『シンガーとソングライター 〜COIL 20th Anniversary〜』インタビュー

August 29, 2018 19:30

COIL

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1998年『天才ヴァガボンド』でデビューしたCOIL。90年代後半はインディーズ界でも宅録人気に火が付き始め、COILも完全アナログ自宅録音ユニットとして話題を呼んだ。その後、杏子や元ちとせ、bird、Leyonaなどへの楽曲提供や、Chappieのシングルプロデュースや映画『初恋』のサウンドトラックを担当など制作活動の幅を広げる。岡本定義一人となったCOILは今秋、20周年を迎える。山崎まさよし、スキマスイッチ、秦 基博などをヴォーカルに迎え、全曲岡本による書き下ろしアルバム『シンガーとソングライター 〜COIL 20th Anniversary〜』が8月22日にリリース。更に同じく20周年を迎える福耳の『ALL TIME BEST 〜福耳 20th Anniversary〜』では 岡本:作詞作曲、スキマスイッチ:サウンドプロデュースによる“八月の夢”も収録され、同日リリース。今回は『シンガーとソングライター 〜COIL 20th Anniversary〜』を中心に、“八月の夢”やそこから紐解くオーガスタキャンプへの想いを語っていただいた。


ー まだ少し早いですが、COILデビュー20周年おめでとうございます!

ありがとうございます。


ー なかなか一言では言い表わせないと思うんですが、この20年はどういう歳月でしたか?

いやー、 色々なことがあって楽しかったですね。COILが僕一人になったことで改めて足元を見直すことも出来たし。ミュージシャンとしては元々一人で活動するつもりもあったけど、デビューするにあたってエンジニア方面に明るかった(佐藤)洋介と一緒に活動を始めて、再び一人になったから当時のそういう気分に立ち返って、今は自分に出来ることをシンプルに、ストイックにやっていきたいと思っています。その時々の流れに抗わず居られれば良いかな。


ー 8月22日に『シンガーとソングライター 〜COIL 20th Anniversary〜』と『ALL TIME BEST 〜福耳 20th Anniversary〜』が同時リリースですが、『シンガーとソングライター 〜COIL 20th Anniversary〜』は岡本さんが全曲書き下ろし。

そうです。このアルバム、どうでしたか?


ー すごく良かったです!岡本さんらしいミニマルな作りはずっと聴いていられるし、シンプルなのに耳に残っていて、気がついたら口ずさんでいて。

良いこと言う!それ僕が言ったことにして。

<一同爆笑>

10年前、COILのトリビュートアルバム『10th Anniversary Songs〜Tribute to COIL〜』を福耳が出してくれて、そのお祝い返しではないけれど「今度は僕が曲を用意するから、歌いに来てください。」という感じでCOILのフィールドに来てもらいました。それにCOILの作品として聴けるものにしたいという想いも強かったですね。一年くらい前だったかな。福耳楽曲のアニバーサリーアルバムと、僕の書き下ろしアルバムの同時リリース企画をスタッフから聞いたのは。 福耳アルバムって密度の濃ゆい作品集だと思うんです。音も声もいっぱい入っているし、曲の尺もある。それに対して先程「ずっと聴いていられる。」と言ってくれたように、僕の作るアルバムは胃もたれならぬ耳もたれしないあっさり味。デミグラスソースをコトコト煮込んだのではなく、素材に包丁をどう入れてどう並べて出すかくらいのイメージで、あっさりしているけれど食べごたえがあって美味しいねと言ってもらえる料理にしたかったし、そういう対比を取りたいとずっと思っていたんです。 だから『シンガーとソングライター 〜COIL 20th Anniversary〜』は音数も少なめにして、シンプルでミニマルなものに仕上げたかった。それに各々がソロボーカルとして歌ってくれるから、それだけでひとつひとつ素材の味が強く出てくるし。


ー そうですよね。

だから逆に、音を足したい欲求を我慢しました(笑)。 音数の少ない音楽やアンビエントミュージックは元々大好きなんだけど、「ここは普通コーラスが入るよな」「ここはもっと楽器の音が聴こえているよな」って色々考えて。でもそういうことを始めちゃうと、最初に考えていた『ALL TIME BEST 〜福耳 20th Anniversary〜』との対比が出なくなっちゃうから、詞と曲と声。あとはちょっとしたアレンジのみ。


ー 曲に関しては各アーティストの方をイメージして作られたのですか?

作っている間は考えていなくて、出来た曲を並べてみて誰にどの曲を歌ってもらうかスタッフ含めて話し合ったんです。「この曲はあの人にピッタリだけど、逆にこっちの曲でコラボした方が面白いかな」という感じで。チョイスした曲をそのまま歌ってもらう場合もあるし、何曲かの中から選んでもらう場合もあるし。


ー そうだったんですね。どの曲も、そのアーティストの方が歌いそうなテイストだったから…。

多分逆なんじゃないの?


ー 逆?

歌っている人が、僕の曲を自分の曲らしく歌ってくれたんじゃないのかな。


ー であれば、まさにコラボですね。

そうだね。それと曲自身に濃ゆい味付けをしてないせいもあると思う。あとそれぞれのアーティストのレンジより余裕を持って、ちょっと低めにするとか、あまり歌い上げないようにしてもらうようディレクションはしたかな。


ー なるほど。だから“エーゲ海でお茶を”も山崎まさよしさんは抑えて歌っているんですね。

そう。あの曲はまさにこの部屋で、そこにあるピアノでキー合わせをしたの。その時山ちゃんは、もうふたつ(1音)上げるところがしっくりくると言っていたんだけど、低いキーで歌ってもらった。ちょっと落とし気味というか余裕を天井に持たせると、今までの山ちゃんの世界とも表現がまた違って面白いかなと思って。今回は山ちゃんだけじゃなく、全曲落ち着いたトーンにしたかったから、チューニングも下げ気味にしました。スラッキーギターと言ってハワイアンではよく使われるんだけど、変速チューニングで全部下げ気味にするの。そうするとリラックス効果が生まれるっていうか。


ー 勿論エレキを効かせた曲もありますが、リラックス効果というのはすごく納得できます。あと「エーゲ海」というワードがJ-POPでは新鮮でした。

珍しいよね。これは僕の大好きなジュディ・オングですよ!


ー “魅せられて”ですね!

そう!あの曲は作曲が筒美京平さんで、作詞が…松本隆さんだっけ?


ー うーん…そうだったような違ったような…。(※作詞は阿木燿子さん)

あの曲は、池田満寿夫さん原作の映画「エーゲ海に捧ぐ」でも使われていたし、CM含め、当時ちょっとした南太平洋ブーム、エーゲ海ブームがあったんだよね。それと僕は高中正義さん的なリゾートフュージョンミュージックが好きで、一時「日焼けはしたくないけど南の島、良いなぁ。」とか(笑)、「エーゲ海ってどんなところだろう。」とか、イメージを膨らませていた時期があって。その印象や「エーゲ海」という言葉の強さが残っていたから今回タイトルにしてみました。この曲の内容自体は、エーゲ海じゃなくどこでも良いんだけどね。


ー 歌詞には一言も「エーゲ海」って出てきませんもんね。

出てこない。最初、タイトルは“ミルクティー(仮)”だったんだけど、それだとイメージが広がらなくて。「エーゲ海」というワードをタイトルに入れることとサウンドや歌の雰囲気で、聴く人がイメージを広げてくれるかなって考えたの。カーテンが揺れる先には海が見えて、例えば山ちゃんがミルクティーを飲んだりギターを爪弾いている…みたいな風景が見えれば良いなと思ってね。