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サウンドクリエイター特集 Vol.3『真藤敬利 転機と繋がり』

サウンドクリエイター特集 Vol.3『真藤敬利 転機と繋がり』

December 24, 2015 13:00

真藤敬利

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「ご無沙汰しています!」この取材のオファーをした時、電話から聞こえてきたのは真藤敬利の太陽のような明るい声だった。十数年前、シンガーソングライターを活動のメインとしていた真藤と仕事を通じて出会い、その後暫く会うことはなかったが、最近共通の友人から彼の近況を聞いた。キーボーディスト、コーラスプレーヤー、アレンジャーとして、家入レオ、K、JONTE、手嶌葵、NOKKO、渡辺美里など数々のアーティストのライブ、レコーディングに参加。筆者も取材をした家入レオやK、その他ライヴ現場などで実は知らないうちに会っていたとはと、その偶然に笑い合いながら真藤の近況や、バンドではバンマスも務めたKのアルバムについてなど伺った。


ー ご無沙汰しています!

ほんと、ご無沙汰しています!何年前でしたっけ。もう十数年?


ー そうそう、そのくらい経ちます(笑)。最近共通の友だちを通じて、真藤さんが渡辺美里さんを筆頭に家入レオさんやKさん、手嶌葵さん、その他数多くのサポートミュージシャンとして活躍されていることを知って。でもソロとしての活動も続けているんですよね。

続けています。ご存知のように活動の基本がシンガーソングライターだったので、30歳頃まではサポートミュージシャンという道は考えていなかったんです。でも正直、その位の年齢になると考えることも多くて。


ー というと?

自分がシンガーソングライターとして活動する中で、やりたいことがやれているかというと、全然そんなこともない。勿論インディーズでそれなりにリリースもしたし、全国でプロモーションもしたけど、これ以上やってどうなるんだろうという時期があったんです。それで当時所属していた事務所も辞めてフリーで活動を始めました。転機は色々あったんですが、自分は歌を歌うだけでなく、コーラスやキーボードなど出来ることは色々あるじゃないかと考えた時に、もし自分に才能があるとしたら、垣根抜きにどのジャンルでも自分がやれることをやりたい。そう思ったんです。サポートもその頃からですね。ちょうど色々な出会いや、サポートとして誘っていただくことも増えてきて。

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ー やはり私の中では鍵盤を弾きながら歌う、シンガーソングライターとしての真藤さんが印象深いので、サポートミュージシャンとしての活躍ぶりには驚いています(笑)。

あの頃はまだそうですよね(笑)。


ー かなり話は遡りますが、ピアノは子どもの頃から?

小学校二年生から習っていましたが、習い始めたらすぐに「もう嫌。」って感じになっちゃったので(笑)、殆ど独学です。だから基本的には初めてのことからスタートしている感じで。しかも30歳前位からだから、キーボーディストとしてはまだまだキャリアも浅いです(笑)。


ー 20代はどういうことを?

大学卒業後に自分で歌おうと思ってポップスへ転向したんだけど、大学まではクラシックをやっていて、在学中も引き続きクラシックを専攻して、指揮者を目指していました。でもクラシックは上下関係が厳しいんですよね。まぁ僕のいた環境が特にそうだったのかもしれないけど(笑)。それにクラシックは好きだけど、この世界で飯を食っていくのは大変だろうなと思っていて。


ー なるほど。そこからポップスへ転向するきっかけは?

元々ポップミュージックは大好きだったから、J-POPも聴いていたんです。そういう時期にスティーヴィー・ワンダーの音楽と出会って、スティーヴィーのように自分で全てをクリエイトする世界が自分には合っていると思ったんです。それで大学三年の時に曲を作り始めてオーディションに応募するようになりました。


ー だから真藤さんの楽曲って、メロディアスなだけでなくファンキーなグルーヴもあるんですね。

やっぱりスティーヴィーからの影響は大きいです!


ー 真藤さんの“Simple”(「君に捧ぐ」収録)とか、カッコいいですよね!

ありがとうございます!あの曲はスティーヴィーやビリー・ジョエル、ベン・フォールズ・ファイヴなどのピアノマンスタイルを真似して作った感じなんです。


ー サポートミュージシャンとしてのお話ですが、家入レオさんのサポートもしていたんですよね。彼女のインタビューで少しそういう話もして。

そうですか!レオちゃんは去年あたりからサポートさせていただいてます。2014年の学園祭ツアーとライヴハウスツアーもやらせていただきましたね。


ー 渡辺美里さんやKくんのサポートも長いんですよね。

美里さんは2012年からずっとサポートをさせて頂いていますし、Kは2年半くらい前。兵役から帰ってきた時のツアーからですね。色々な縁のお陰だと思います、本当に。

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ー Kくんのアルバム『Ear Food』で今年インタビューをした時に、オルガン担当の話になって。でもその時は名前が出なかったので、まさかそれが真藤さんだったとは(笑)。

僕です(笑)。あのアルバムはプロデュースもアレンジも二人でやったんです。サウンドも基本的にKと「もっとこうやったらいいんじゃない?」って話し合いながら作りましたし。あのアルバムは、パーカッションとギターとKと僕の四人だけで作ったから、他には何も入っていないんですよ。


ー インタビューでそのお話をKくんから伺った時も驚いたけど、ライヴ感はかなり魅力的でしたし、あのグルーヴでベースレスなことにも驚いた!“夏の夕暮れに詠うバラッド”はアルバム内で唯一ピアノレスなんですよね。

そうです。


ー オルガンの足鍵盤でしたっけ?

そうそう、オルガンの左足でベース音を弾くんですけど、今年初挑戦!


ー エレクトーンは足鍵盤が付いているけど、まったく初挑戦だったんですか?

そうです。エレクトーンは経験ないし。だから大変でしたよ(笑)。40歳になって自分で新しいことに挑戦するとは思っていなかったし。自分は普通のピアノやローズ(ローズ・ピアノ)を弾くことを主としてやってきたし、オルガンも昔から弾いていたわけじゃないので。だからここ何年かで色々な研究をするという意味では、常に勉強することが沢山あるし、今でも発見が多いです。


ー ベースレスということやプレイヤーの数が少ないことへの不安は無かったですか?

それはあまりなかったかな。プレイヤーの人数もそうだけど、特に今だとオーバーダヴィングも沢山出来るじゃないですか。


ー ええ。

基本的に僕は音数が少ない音楽が好きだし、多分Kもそうだと思うんです。


ー あ、それは感じます。

少ない人数でプレイするメリットって、ヴォーカルが絶対的に聴こえるということ。僕はKの歌が大好きだし、彼のヴォーカル力って凄まじいと思っているので、少ない音でプレイすることへの不安はなかったんです。ただこの時は、リズムは全てパーカッションで表現するのでベースレスでも成り立つ音楽だけど、それがアルバムとなると飽きるんじゃないかという心配は少しありました。でもそれはオルガンの足鍵盤で補えたし、逆にみんなで作りながら足りない部分を補おうとする要素。オーバーダヴィングするのではなくて、全員で出来ることを考えて音作りをするところからスタート出来たのも、良かったと思いますし発見も沢山ありました。


ー いいですね。『Ear Food』は名盤だと思います。

アレンジも重要だけど、すべては声や楽曲が持っている力なんですよね。それが引っ張っていってくれるから、多分今回はみんな、アレンジありきで考えていなかったと思います。「歌が聴こえればいいよ。」という部分があるから安心なんです、きっと。


ー 色々なアーティストのサポートや楽曲提供、アレンジなどをする中で、それぞれ違う魅力があると思うんです。その反面、真藤さんが補わなければいけない役割もあるのかなと。

例えばKは、ヴォーカル力も凄い上に、技術的な面で言うと楽器も弾けるしコードも分かる。そういうエネルギーもあれば、渡辺美里さんのように、楽器は演奏しないけどスタンディングで歌うスタイルもある。歌力もそうだけど、ライヴで後ろから美里さんの歌っている姿を見ていると、そこから発するエネルギーって本当に凄いんです。アーティストそれぞれにそういうエネルギーがあると思うんです。色というか。美里さんはパワフルな声の持ち主だけど、手嶌葵ちゃんはウィスパーだし、声が大きいタイプではないから真逆なんです。でも発するエネルギーは凄い。声が小さいからヴォーカル力がないというわけではないし、歌う瞬間のエネルギー…つまり色は変わっても、それぞれに凄まじいものがあるんですよね。それは各現場で感じます。レオちゃんもそうだし。それぞれに合ったプレイやスタイルをその都度瞬時に見つけられて、それさえ掴めればそんなに不安はないですね。

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ー 逆に言えば、その現場力というか瞬間を掴む力は必要になってくるということですよね。

やっぱり必要ですね。それはミュージシャン全員だと思うけど、僕の場合はキーボードの他にコーラスも多くて、コーラスだけでライヴに出ることもあるんです。2014年、羽毛田丈史さんがミュージックディレクターを務めて、Kや、清水翔太さん、JUJUさん、槇原敬之さん、三浦大知さんが出演した【DENKA presents J-WAVE LIVE〜AUTUMN】も僕、コーラスで出ていたし。


ー そうだったんですか!

あのライヴに呼ばれたのはKと僕の二人ライヴを、J-WAVEの方が観に来てくれて、そこで「真藤さんをコーラスで呼べないかな?」ってお声を掛けて頂いたんです。こういうことも経験ですよね。僕、槇原敬之さんと同じオーディションで同じ賞をもらってるんですよ。


ー それもある意味凄い経験なんですが(笑)。

そうは言っても槙原さんはすごい憧れだったので、その槙原さんの後ろでコーラスとしてハモるって本当に嬉しかったです。


ー 槙原さんの楽曲って、とても耳馴染の良いポップスだけど、実はサウンド作りが高度で譜割りも独特ですよね。

そうそう、すごい難しい!自分の中ではフェイバリットシンガーであり、高校生の頃からずっと聴いていたので、楽譜なんて書かなくても全部ハモれる!


ー アハハ、凄い!

でしょ(笑)。あの時、槙原さんとKがコラボした曲があったんだけど、その時三声でハモって、すごく楽しかった!勿論キーボードとコーラスをセットで依頼されることも多いので、人と声を合わせることも含めて、そこで感じることも現場力の要素としては大きいです。


ー なるほど。いやぁ、聞けば聞く程凄い!しかもKくんのバンドではバンマスも務めたんですよね。

はい。バンマスって色々な立場があると思うんです。サウンドプロデュース的な立場もあるし、現場の雰囲気をまとめることも大切だし。バンマスの雰囲気ひとつで現場って変わるので、ピシッとしている人だと現場も緊張感があるし。


ー 真藤さんは?

僕は楽しくやりたい派(笑)。ちょっと面白いことを言ってみたり、みんなでワイワイ出来るような雰囲気をオフステージの時も考えています。それもバンマスの役割かなと思うし。


ー Kくんとは、めちゃくちゃ仲が良いですよね(笑)。

仲、良い(笑)。


ー 福岡での楽屋トークを動画サイトで聴きましたよ。

ラジオの?


ー そうそう(笑)。

アハハハ!みんなあんな感じ(笑)。バンマスって一応責任者のような役割もあるけど、雰囲気はみんなで作っていくものだと思うんです。僕が率先して何かを言うのではなく、思うことがあればKも発言してくれるし、ギターのタラちゃん(設楽博臣)やパーカッションのnotchも、みんな思うことはちゃんと言って、音に出してくれるから全然ストレスもない。一応、あの3人の中では一番お兄さんだけど(笑)。


ー 現場によっては、年齢やキャリアが他のメンバーより下になることってありますか?

大分少なくはなってきましたけど、あります。でも現場で一番下の時は楽。


ー 楽なんだ(笑)。

楽、楽(笑)。サポートミュージシャンを始める時に、色々な方に引っ張ってもらってここまできたので、自分の力だなんて全然思っていないんですよ。その中でもギタリストの古川昌義さんや坂本サトルさんと一緒に「STANDARD PROTOTYPE」というバンドをやっているんですが、古川さんと出会ったのが2009年。その翌年の2010年に、とあるアーティストのサポートとして古川さんに呼んで頂いたんです。僕からすれば大先輩だし、ずっと古川さんのギターを聴いてきたので、そういう方から呼んでいただいたことが色々な縁となって違う現場に誘って頂いたり。そういう風に繋がっていったんです。


ー 縁が更に新しい縁を繋ぐって素晴らしいですよね。

そう。だから本当に一人の力でここまで来たなんて思えないんですよ。しかもそういう先輩方がもの凄く練習されていて。だから恩を返すということではないですが、ある種そういう気持ちも自分の中にはあって。自分が努力して巧くなってもっと前に進むことによって現場も増えるかと思っています。

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ー ありがとうございました。次回もよろしくお願いします!


Text:秋山昌未
 

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