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サウンドクリエイター特集 Vol.2『飛内将大がクリエイトする音楽』

サウンドクリエイター特集 Vol.2『飛内将大がクリエイトする音楽』

December 16, 2015 12:00

飛内将大

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YUKI、木村カエラ、元気ロケッツ、Aimerなど多岐に渡るアーティストへの楽曲提供・アレンジや、TV-CM、広告キャンペーン、映画などの映像コンテンツ作品にも音楽で参加している飛内将大。 第一弾では飛内氏の音楽遍歴について語ってもらった。今回の第二弾では、飛内氏が楽曲制作で大切にしていることや、プライベートに関すること、agehaspringsに加入したきっかけなどについて訊いてみた。サウンドクリエイターを目指す人は必見!

飛内将大 Masahiro Tobinai
Produce / Sound Produce / Remix / Compose / Arrangement


ー 2007年にagehaspringsへ加入されますが、どういうきっかけだったんですか?

2002年に上京して、その一年後だから…19歳。その頃所属はなかったんですが、Remixや、トラック作りや、レコーディングでギターを弾いたりするお話をいただいていた時期があったんです。それから少し経って新しいことをしたいと思って、改めてきちんと事務所を探し始めたんです。その頃にYUKIさんの『JOY』がリリースされて。「歌モノとエレクトロニカの要素を持つ音を、こんなに素晴らしくミックス出来るなんて!こういうものを作れる人がこの世にいたのか!?これはすごい!」って、本当に衝撃が走りました。


ー 分かります!

でも当時は詳しいことは分からず、記憶だけが残っていたんです。その後、元気ロケッツの「Heavenly Star」を動画サイトで観て、再び衝撃を受けました。それが一番のきっかけだったと思います。あの当時での音の処理具合とかトラックのカッコ良さ、シンプルにスパッと盛り上がる。全てが最高で、その時にあれこれ調べました。それでagehaspringsのホームページに辿り着いて。しかも随時デモテープの募集をしていたので、音源を送り、そこからです。


ー 元気ロケッツ、YUKIさん、最近ではShiggy Jr.「GHOST PARTY」堂珍嘉邦さんの「You&I」の他、様々な作品で作編曲やサウンドプロデュースなどを手がけていますが、作曲や編曲はどの楽器で行うんですか?

作曲は曲にもよるんですが、鼻歌がメインです。何も楽器を鳴らさずに頭の中だけで考えるんです。ふとしたタイミングで思いついたものを全部ヴォイスメモに録って、そこからイメージを膨らませていくことが多いです。あと喫茶店に籠って紙とペンだけで書くという古典的な方法を使っています。それも五線譜ではなくカタカナのドレミで、音符が長い時は伸ばし棒で休譜は点。


ー 飛内楽譜ですね!

そう。多分僕しか読めないような楽譜(笑)。


ー 鼻歌もそうですが、楽器が違うと作曲やアレンジの仕方が変わってくるから、表現方法が多用になってきますよね。

そうなんです。だからメロディを作る時には本当にそれだけを考えて、頭の中だけで鳴らした方がすごく良いメロディになるというか。楽器から作るとやはり歌を楽器として考えてしまうんです。


ー そうなんですか?

ええ。後からメロディが乗るじゃないですか。だから楽器の一部になってしまって。勿論、あくまで僕の場合は、ですけど。逆に楽器っぽいメロディが良い場合もあるんです。ノリを重視している曲の時は先にドラムを打ち込んで、ベースやギターは打ち込んだり実際に弾いたりして重ねたものに、最後メロディを付けるというやり方の時もあります。

20151215_0538.jpgー ソフトは何を使用していますか?

Ableton Liveです。今はヴァージョンが9ですが、1の時から使っています。最初はPro ToolsとLogic Proを学校で習うので僕もPro Toolsを買って勉強していたんです。


ー そこから何故Ableton Liveに?

当時の友人が使っていて、少し借りて試してみたらすごく直感型というか。録って重ねていくことに重点を置いていて、画面も二つしかない。思いついたものを形にする速度が他にはないもので、そういうシンプルさがとにかく良かった。そういう意味では幼少期のカセット録音に近い感覚ですかね。特に初期はMIDIもなく打ち込みをするというより、録った素材を並べて作るサンプリングがメインのソフトでした。でもヴァージョンアップ毎に、シンプルさはそのまま、色んなジャンルも録り易いシステムになっていったと思います。今でもAbleton Liveを中心に、様々なソフトシンセなどを組み合わせて作っています。曲やアレンジによってですが全部自分で実際に弾いてるものもあります。中にはリコーダーを吹いているような曲もありますね。横にして吹くと息の音がちょっと入って、フルートっぽくなるんです。 少しチープなフルート(笑)。


ー 実際のフルートや打ち込みでそういう音を出すのではなく、アナログな手法を取り入れるのが面白いですね。

打ち込みの質もどんどん向上していて、生か打ち込みか分からないような音源も沢山出ていますが、アナログな要素を入れることで一気に生き物感が出るんです。そういうことを自分なりに組み合わせています。


ー 作曲の場合、ミュージシャンを問わず重要視する点はどういう部分でしょうか?

自分の中の大きなテーマとして、聴く人の日常がミュージックビデオ(以下:MV)のように見えること。例えば散歩している普通の街並や、料理している時、目の前にある野菜。それこそ目をつぶっていたら、その暗闇でも良いんです。それらが全部MVに見えてくるように視界を彩ることをイメージしてます。


ー すごく分かります。良いと思える楽曲を聴いた時は、今言われたように目の前の風景がMVに見えてきます。音が景色を支配するというか。

それが出来たら良いと思っています。

20151215_0614_fin.jpgー Shiggy Jr.さんのシングル『GHOST PARTY』では、タイトル曲の「GHOST PARTY」とc/wの「lovin' you」をサウンドプロデュースと編曲を担当。

はい。楽しかったです。最初、ギターの原田君(原田茂幸)からデモを貰ってみんなで話しあった時に、「必要とあらばギターの音は使わなくても良いしベースも弾かなくても良い!ドラムも叩かなくても良いです!」って(笑)。


ー バンドの音を使わなくても良いとは、大胆な発想ですね。

それくらい音楽を自由に捉えているメンバーが集まったバンドなんだなと。そこが面白くて、1stの『サマータイムラブ』はストリングスやブラスを入れた生音感溢れる踊れるサウンドに仕上がっていたので、最初それだけ聞いた時は僕も驚きましたけど。「GHOST~」は打ち込みメインですが、イメージのキャッチボールをしつつ、メンバーと一緒にスタジオに入って仕上げていきました。


ー なるほど。堂珍さんの「You&I」では木村隼人さんとの共同アレンジをされていますが、アレンジという作業は、最も重要かつ難しい部分だと思うんです。それを共同で行うというのは更に難しいのではないかと思うのですが。

木村君とは付き合いが長くて。10年位かな。彼がバンドをやっていた時ライヴハウスでもよく会っていました。呑み仲間でもあり音楽仲間でもある。だから意思疎通は取れていて、この曲に関してもサウンドプロデュースを担当した彼から先にイメージを貰い、それに対して構成していき、仕上げは一緒に詰めの作業をしたんです。それで「バッチリじゃん!」って。あとは呑むだけ(笑)。


ー さすが意思疎通が取れていると、作業も早いですね(笑)。

お互い言いたいことも、やりたいことも分かっているので本当にスムーズに作業が進みました。レコーディングのバンドメンバーも、古くからのバンド仲間が多かったし、堂珍さんもほんと気さくな方で和気あいあいと出来た曲でしたね。


ー 飛内さんの作曲やアレンジを聴かせていただくと、バラードであれアッパーチューンであれ、リズムを大切にしているように感じました。「飛内音」というか。

飛内音ですか?(笑)


ー 例えばリズムが楽曲全体のフックになっていたり、煌めきを与えたり。

20代は毎日ドラムを練習していました。というのも一番下地になる楽器であり、リズムの根底を作るのがドラムじゃないですか。だからその部分を大切にしたいとは考えています。


ー ドラムと言えば、Aimerさんの「Believe Be:leave」には、ドラマーとしてMVにも出演されていましたよね。

はい(笑)。初めてMVに出演しました。あの曲は自分でドラムも組んでいるのですが、MVの撮影でそれを再現出来なくて(笑)。


ー アハハ!

何度かスタジオに入って練習したんですが、全然覚えられなくて(笑)。だから僕一人だけすごく切羽詰まっているから、みんなに笑われました。みんな控え室で談笑しているんですが、僕一人だけ練習していて(笑)。


ー アハハ!

でもやってみたいことだったので、良い経験にはなりました。ライヴサポートなどはあまりしないので一緒に演奏をする機会は少ないんです。だからとても貴重な体験でしたし、光栄でした。


ー 話は変わりますが以前、作詞・作曲家の方のセミナー取材をした時に、コンペが殆どだというお話を伺いました。飛内さんは通常の作曲以外にもCMソングなども手がけられていますが、やはりコンペは多いんですか?

作曲はコンペが殆どですね。でもCMは最近依頼を受けて作ることが多くなりました。


ー コンペの場合、かなり大きな作品を手がけている作詞・作曲家の方でも、「何百曲落ちたか分からない。」と言っていましたが、そういう挫折も多いんでしょうか。

僕、あまり挫折を感じない人間なんですよ(笑)。


ー メンタルが強い!

そうなんです。それにデモとしてでも曲を作ること自体がものすごく好きなので、全然飽きないというか嫌にならないんです。だから多分agehaspringsの中でも、僕は一番ストックも含め作ってる曲数が多いんじゃないかな。

スタッフ:多いです。


ー 仕事とはいえ、本当に好きなんですね。

多分性格的に熱し易く冷めにくいんでしょうね(笑)。それは何においてもそうなんですが。


ー 音楽以外で熱して未だ冷めていないことは?

カメラ関係や映像を作ることです。それは本当にまったく趣味のレベルですけど。


ー 飛内さんのFacebookでヘッダーに使用されているお花の写真とか素敵ですよね。

あれはフィルムカメラで撮りました。未だにフィルムカメラを持って散歩に出掛けます。全然壊れないんですよ。(笑)。最近使っているのはNikonのFというカメラなんですが、1950年代に作られたもので、それこそNikon一番最初の一眼レフカメラなんです。


ー すごいカメラをお使いですね。他には何かありますか?

映画鑑賞は好きです。結構ノンジャンルで観るんですが、中でもB級ホラーが特に好きで。怖くないホラー(笑)。


ー B級は怖くないんですか?

ツッコミどころが多過ぎて怖くないんです。例えばゾンビのお面がアルミホイルで出来ていたり(笑)。特に「不思議惑星キン・ザ・ザ」という映画が大好きです。この作品はテンポはすごく遅いけど、空気感が好きで何度も観ました。SF映画のようなんですが、概念がねじ曲がるぐらいSFじゃない!。でも怖いホラーは苦手です。友達にしがみつく位(笑)。


ー そうなんですか?agehaspringsさんのサイトを見ると、飛内さんってすごくクールな方に見えたから意外でした(笑)。

そうですか?(笑)。


ー ええ。今日お話させていただいて、親しみ易い部分も感じました(笑)。でも作られるものはやはり素晴らしいです。

ありがとうございます。


ー 飛内さんから見て、agehaspringsの代表取締役でもあり、大先輩でもある玉井さんはどういう存在ですか?

初めて会った時は誰しもが思うことかもしれませんが、・・・怖い?(笑)


ー アハハ。なるほど。

初対面の時は怖かったですが(笑)、やはり音楽に対しては深いです。レコーディングや曲を一緒に詰める作業をするんですが、言われたことをやってみると確かに楽曲がすごく良くなるんです。例えば楽器のフレーズや、音程や内声なんかを一つだけずらすとか、本当に細かいことなんですけど、それをやることで劇的に良くなる。やはりそういう目というか耳というか感覚を持っている凄い人なんだと。あとは、、、会う度に何かしら服装や身なりを100%チェックされます(笑)。


ーそうなんですか?(笑)案外、可愛がられキャラなんですかね、飛内さんって。

どうなんですかね?まぁagehaspringsに加入して暫くは僕が最年少だったということもあるかもしれません。でも大体、玉井さんと蔦谷さん(蔦谷好位置)と隼人さん(田中隼人)、ユウスケさん(田中ユウスケ)が後輩をイジってくれます(笑)。


ー 制作の話に戻りますが、『花王 エッセンシャル シャンプー&コンディショナー 実感篇』や『チキンラーメンCM 「パプリカ星人 篇」 』など、いつも耳にしていたCMソングを飛内さんが担当されていたということで驚きました。CMソングは作り方や曲の長さ、求められることが通常の音楽と違うと思うのですが、難しい点はどういうところでしょう?

映像ありきだし、その映像を華やかにする音を付けなければいけないので、例えばカット割りのタイミングでこういう音があったら良いんじゃないかなどのイメージを盛り込みながら、曲として成立させなければいけない。だから尺のタイミングと、映像に合わせた音の展開感を考えるところが苦労する部分です。


ー 最初に、音のない映像をもらうんですか?

そういう時もあるし、絵コンテの場合もあります。絵コンテに秒数が書いてあれば、そこで展開していきます。藤巻亮太さんの「大切な人」を作曲させていただいたんですが、あの曲はNIVEAブランドのTV-CMにも起用されているじゃないですか。


ー ええ。

ああいう歌モノの時は縛りがないので、NIVEAであれば「肌によさそう」というイメージを考えて作るとか。


ー 連想ゲームみたいですね。肌に良い音ってなんだろうって。

まさにそうです!


ー 最後に、今後の展望を教えて下さい。

今話していたCMや、映画「めめめのくらげ」のサントラを制作して、映像と曲を組み合わせることはやはり面白いと感じました。だから映像ありきの曲もどんどん作っていきたいです。そして先程もお話した僕の曲作りのテーマでもある。見ている景色がMVに見えるような曲。そういう曲を今後も作っていきたいと思います。


ー ありがとうございました!


text&photo:秋山昌未
 

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