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【編集長コラム】映画『犬部!』が伝える現実と、人間性溢れる登場人物たち

July 25, 2021 12:30

コラム

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片野ゆか著「北里大学獣医学部 犬部!」(ポプラ社刊)を原案とした映画『犬部!』が7月22日(木・祝)に公開された。

「犬部」とは2004年頃、青森県十和田市の北里大学(十和田キャンパス)に実在した動物保護サークルの名前だ。その「犬部」を設立した獣医学部の学生をモデルにした主人公と仲間の物語は、<動物を守ろうと奮闘した過去>と、<獣医師となって一人で新たな問題に立ち向かう現代>の二つの時代構成で、かつての「犬部」の仲間たちを再び巻き込み、信念を曲げずに突き進む奮闘を描いている。

林遣都氏演じる花井颯太のモデルとなったのは太田快作氏。北里大学獣医畜産学部獣医学科卒業後、東京や神奈川、埼玉の動物病院勤務を経て、2011年に東京都杉並区で「ハナ動物病院」を開業した。
実在の人間がいるのにこういう言い方は多少憚られるが、信念を曲げずに突き進む行為というのは、時としてはた迷惑な場合もある。無論、映画化するにあたり多少の手加えや脚色はあるだろうが、筆者は最初、颯太の信念にも少なからずのソレを感じていた。

だが現在も社会問題となっている動物の殺処分。多頭飼いの末の飼育放棄や、高齢または病気など何らかの事情で一緒に住めなくなったなど理由は様々だが、この世からいらない存在とみなされ葬られることに変わりはない。冷たい物言いかもしれないが、感情はどうあれ、命の灯火を消されるということはそういうことなのだ。ということは、そういう現実と向き合うにはこの位のはた迷惑さ……もとい、信念を曲げず突き進む姿勢が必要かもしれない。殺処分ゼロという現実は正直そう簡単にはなくならないだろうが、映画を観進めていくごとにそう感じずにはいられなかった。

「犬部」の仲間も魅力的だ。挫折しながらも信念へ突き進む柴崎涼介(中川大志)。元気で明るい反面、客観性と行動力を持ち合わせる「犬部」猫担当の佐備川よしみ(大原櫻子)。大学の実験犬を逃がしたことで「犬部」と出会う秋田智彦(浅香航大)。大学卒業後も、それぞれ動物と関わる道を切り開いた人たちだ。良くも悪くも一途過ぎる柴崎の性格が、ユーモラスなシーンや大切なシーンでうまく描かれていたのは余韻として今も残る。また、「犬部」メンバーではないが、颯太が獣医師を務める病院の看護師、深沢さと子(安藤玉恵)も良い味を出していた。


監督は、『月とキャベツ』(96)、『地下鉄(メトロ)に乗って』(06)、『花戦さ』(17)、『影踏み』(19)などを手掛けた篠原哲雄。篠原作品をすべて網羅しているわけではないが、筆者が観た幾つかの篠原作品の印象は、“想像力の余白”。カメラワークを含め、決して登場人物の感情により過ず、それを観る側へも押し付けない。エモーショナルなシーンでもどこか俯瞰したクールさを感じる。それはこの『犬部!』も同じだ。本作はノンフィクションが題材で、動物の命がテーマのひとつ。監督によっては死や苦悩に寄った描き方で感情を煽るかもしれない。無論どういう描き方が好みかは人それぞれだが、筆者はドキュメンタリー性すら感じる本作で見せた篠原監督の“想像力の余白”が、後になり余韻として心に広がっていくことも知っている。(『影踏み』に至っては、主演の山崎まさよし氏が好きという理由は別として、3回映画館に足を運んだ)

言わずもがな動物と暮らすのは、“可愛い”という感情だけでは成り立たない。とは言え、本作は動物へ向き合うシビアさだけでなく、映画としての楽しさ、キャストによる動物愛と人間らしさも見どころだ。花井颯太をはじめとする「犬部」メンバーや、彼らを取り巻く動物好きの生き生きした物語を是非観て欲しい。

映画『犬部!』は絶賛公開中。

文:秋山雅美(@ps_masayan

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