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孤高の天才と呼ばれる長澤知之、ニューアルバムに込めた人間臭い愛

孤高の天才と呼ばれる長澤知之、ニューアルバムに込めた人間臭い愛

March 19, 2019 22:30

長澤知之

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ピュアで破壊的でユニークでロマンチックな哲学者。それがインタビューやライヴなどを通じて見てきた筆者の、長澤知之というアーティストへの印象だ。好みがはっきりと分かれるであろう長澤の音楽に筆者は心酔している。

長澤が、3月20日にミニアルバム『ソウルセラー』をリリース。昨年12月から4ヶ月連続リリースした配信曲第一弾「Close to me」、第二弾「笑う」、第三弾「金木犀」、そしてリリースしたばかりの第四弾「ソウルセラー」を含む計8曲のアコースティック・ミニアルバム。

「楽曲をどう捉えるかは聴く人に委ねたい」、インタビューで長澤は常にそう言っている。今回もそれに変わりはないが、「アコースティックなものを目指していましたが、そうでもないし、結局好きなことをやったので好きな最新のアルバムです」と語ってくれた。

20190319_0M0A4325.jpgここ数年、筆者は長澤の音楽に何かしらの変化を感じていた。楽曲の質感なのか、それを表現する長澤のパーソナリティなのか。別に突然J-POPの方程式に則ったキラキラサウンドになったわけでも、声変わりをしたわけでもない。当たり前だが。ただ今までにはない柔らかさと開放感を感じている。特に、自身が入院中に故郷福岡の病院で見た彫刻家カール・ミレス氏の作品「神の手」に感銘を受け書かれた「アーティスト」、「無題」(『GIFT』収録・2016年)からは、長澤の新しい面を感じたというファンの声もよく耳にした。そこでここ2、3年の間で曲作りや音楽への向き合い方が変わったのか質問すると、「いつも新しい境地に行こうとは思っています。でもあまり個人的な変化は自分の中にはないです」という答えが返ってきた。「自分の中には」。そう、変化したのは長澤ではなく、聴く人、観る人の主観なのかもしれない。勿論新たな挑戦や出会いを経て人は日々変化する。ただ長澤の軸はぶれていないのだ。こんなに素晴らしいアルバムが出来た日も、友達のシンガーソングライターに教えてもらったムンク展に到着した時間が閉館時間だった日も(笑)、長澤の歌声とギターは響き渡る。

そういえば【Augusta Camp 2018】、富士急ハイランド コニファーフォレストの空に響き渡ったのは、その日初披露の「Close to me」。

Closetome20190319.jpg愛されることの意味をどこか冷静に、だがピュアに歌ったあの日の歌声は忘れがたい。会場限定販売のMカードが即完売するのも当然のことだろう。


「笑う」はジャケットのエキセントリックなイラストが目を引く。


warau20190319.jpg愛について講釈を垂れるつもりは毛頭ないが、弱さや傷があってもそれを解り合い、他愛ないことで笑い合える相手がいることは奇跡だと思う。バスドラと長澤のハミング、ギターが絡み合うイントロも心地いい。

長澤が曲の構想やイメージをディレクターに託した「金木犀」。

kinmokusei20190319.jpgこの曲はまず、長澤とハモるであろう人を考えるところから始まっていた。ディレクターから何人か紹介してもらった表現者のひとりが、この曲でサウンドプロデューサーを担ったChihei Hatakeya氏。それぞれ別にレコーディングした音源をデータ上でやりとりしながら制作は進んだ。長澤が作ったトラックにChihei Hatakeya氏が必要なものを加える。「例えばべースや、とても映像的なシンセだったり、より広がりを下さいました。その音を初めて確認した時が一番印象的でした。(長澤)」。

(音符は別として)目に見えないメロディやリズムは香りと似ている。つまり余韻だ。長澤の独特なメロディセンスと、Chihei Hatakeyama氏のアンビエント・ドローンがミックスされることにより、パーカッションの深い音や長澤の浮遊する歌声、シンセやエレキの音など、聴き終わった後も脳裏に心地よい余韻を残している。鼻孔にべったりと張り付く強い香水とは違う、まさに金木犀の香りのような余韻だ。

更に筆者が気になったのは「ゴルゴタの丘」。
<ゴルゴタの丘 あなたの仰いだ    ゴルゴタの空 かつての空 今日も僕は遠く離れた国で月を見てる>

夜の匂いを感じそうな、月の光を感じそうなAメロの歌詞はまるで小説。筆者は、クリスチャンの長澤がこの場所を歌にした理由をあえて訊きたくなった。すると「これはそういうクリスチャニティを書きたかった訳じゃないんですが、ふと、死生観であったり自己であったりを見つめる時、どうしても幼心に覚えた在り方を側において考える癖があるので、そんな曲です。だから聴いていて“え?どこの丘だって?”ってなってくれていいです」とコメントしてくれた。

長澤の声は色々な表情がある。甲高いアシッドボイス、 ひとつの誤魔化しもないピュアな声、ヒステリックなシャウト、自笑するようなユーモア。この「ゴルゴタの丘」を聴いた時、なぜこんなにも心を奪われたのか。その理由のひとつがピュアな歌声かもしれない。だから是非アルバムを通して聴いてほしい。物語によって、サウンドによって歌声の魅力を、より感じられるはずだから。

音楽に携わっている時以外は、絵を見たり描いたり、飲んだり、ダーツをしたりという長澤。「最近ー番最近好きで聴いているアーティストは?」との質問には「プリファブ・スプラウト、モーターヘッド、DREAMS COME TRUE、EASTGHOST、Shawn Smith、CAMP COPE、ライド。あとTaijiさんの「Dear Friend」という曲をよく聴きます。」という答え。アーティストなんだから当たり前かもしれないが、やはりこの人は音楽が大好きなんだと思った。確か長澤は自身のブログでもモーターヘッドとDREAMS COME TRUEのことを書いていた。(筆者はTaijiの「Dear Friend」に食いついてしまったが、それを書くと長くなるので割愛する)

タイトルナンバーであり、配信シングル第四弾の「ソウルセラー」を初めて聴いた時、筆者は長澤のデビュー曲「僕らの輝き」を思い出した。いや、メロディやメッセージが似ているわけではない。あえて言えば清々しさだ。真実の光とも言えよう。<プライド>について書かれたこの曲について最後に「長澤くんにとってのプライドとは?」と訊くと、「まさやんもそうですが、音楽を通じて知り合えた関係は全て僕の誇りです」と答えてくれた。筆者は長澤と9年間、音楽を通じて色々な話をしてきた。これからも音楽で色々な話をするだろう。

長澤知之というアーティストはよく<孤高の天才>と称される。勿論それも彼の一面だ。ただ誤解を恐れずに言えば、このミニアルバム『ソウルセラー』は、長澤の人間臭い、音楽バカな一面も楽しめる作品となっているはず。

Text:秋山雅美(@ps_masayan


■ 長澤知之 オフィシャルサイト
http://www.office-augusta.com/nagasawa/

Information

Release

オリジナルアコースティックミニアルバム
「ソウルセラー」

2019年3月20日発売

-収録曲-

M1. あああ
M2. ソウルセラー
M3. 笑う
M4. 金木犀
M5. コウモリウタ
M6. 歌の歌
M7. ゴルゴタの丘
M8. Close to me

ソウルセラー

CD

POCS-1774 / ¥2,300(税抜)

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