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WEAVER 14th TOUR 2019『I'm Calling You~流星前夜~』マイナビBLITZ赤坂 オフィシャルレポート

April 1, 2019 17:00

WEAVER

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WEAVER 14th TOUR 2019『I'm Calling You~流星前夜~』マイナビBLITZ赤坂 オフィシャルレポート

3ピースピアノバンドWEAVERが、1年半ぶりとなる東名阪ツアー【WEAVER 14th TOUR 2019『I’m Calling You~流星前夜~』】を開催。3月31日(日)、そのファイナルを東京・マイナビBLITZ赤坂で迎えた。

ライヴは、厳密に銘打たれていたわけではないが2部構成となっていて、河邉徹(Dr&Cho)が書き下ろした青春SF小説『流星コーリング』を起点に生み出された同名アルバムの楽曲群を中心に、音と言葉、映像で物語世界を立ち上げる第一部に続き、ライヴハウスらしく盛り上げてオーディエンスと一体化した第二部を展開。いずれも充実した内容で、2階の立ち見エリアにまでギッシリとひしめいた観客は、3人の渾身のパフォーマンスに熱く応えていた。冒頭、静けさの中に鈴虫の鳴き声が響き、それすらも消えた後、インストナンバー「Overture~I’m Calling You~」のループフレーズが流れ始める。流星が横切る夜空がスクリーンに映し出され、メンバーが仄暗いステージに登場。「流れ星の声」へと雪崩れ込むと明転、黒いスーツを身に纏った3人の姿が露わに。落ち着いたテンションでしっかりと歌声、サウンドを届けながら、〝人工流星″をテーマに描いた物語の世界へと引き込んでいく。

スクリーンに時計の文字盤が映し出され、刻々と時を刻む針が逆回りし始める。ピンスポットを浴びた杉本雄治(Pf/Vo)がエモーショナルに歌い始めたのは「最後の夜と流星」。背後には惑星や星座など天体モチーフの映像が映し出され、歌詞が星のように散りばめられていく。<せめて今日の ループでいいんだ>というフレーズは、小説『流星コーリング』を読んだ後で聴くと意味がグッと深まるはず。そのように至るところで音楽と小説の世界は繋がり合い、それぞれの味わいをより豊かにしていた。声優の花澤香菜、角田雄二郎の掛け合いで物語を朗読する声が流れ、「奇跡」という言葉が大きくスクリーンに映し出されて始まったのは、「Shine」。2011年リリースのミニアルバム『ジュビレーション』リード曲だが、流れ星や奇跡について歌っていて、最新のWEAVERの世界ともごく自然にリンクしている。奥野翔太(Ba&Cho)は手を挙げてファンを煽り、温かい一体感が会場に広がって行った。かと思えば、アウトロでは3者でパワフルに音を打ち鳴らし、その勢いのまま、最初期から存在する楽曲「66番目の汽車に乗って」へ。フロアからは大歓声と手拍子が自然発生。ピアノ〝ロック″バンドらしい野性味溢れる演奏を繰り広げ、杉本のピアノソロでは、鍵盤に顔がぶつかりそうなほど接近して乱打した。

続いて、杉本がピアノで奏でる「Interlude I」に合わせ、花澤による朗読がスタート。小説では描かれていない心情描写があり、ライヴを観ることで小説の世界を補完するという、ユニークな体験をすることになる。白い光に包まれながら杉本が歌い始めたのはロマンティックなバラード「栞」。小説のヒロインの名前は詩織(しおり)で、この曲の歌詞がまた、小説に奥行を与えているのだった。真摯なラヴソング「Nighty Night」では杉本の清らかなファルセットに心洗われ、続いて流れた朗読の意味に想いを馳せながら、「InterludeⅡ」の残響音の心地良さに酔いしれる。そのまま「Loop the night」へと突入すると、シンセサイザーを効果的に用い、EDM色もエッセンスとして盛り込んだ音像で楽しませた。ダンサブルではあるが、享楽的というよりは、純粋さゆえの張り詰めた狂気、危うさも感じられる。<運命さえ振り切って>と歌うこの曲では、小説の男性主人公・りょうの心情を想像。小説と音楽とを行き来してそんなイメージを膨らませるのは、とても刺激的な体験だった。間髪入れずにスタートしたのは「夢じゃないこの世界」。自由に高低を行き来するメロディーと、躍動感に満ちたバンドアンサンブルで会場は大いに盛り上がっていく。杉本のピアノに乗せた角田・花澤の朗読により、物語の芯にあるメッセージを届けると、バラード「透明少女」へ。桜花木を背景に、川の流れのように歌詞が移ろっていく美しい映像が目に、心に飛び込んでくる。出会いの喜びと喪失の悲しみ、それらすべてを抱えて生きていくことを鮮やかに描いた真っ直ぐな愛の歌を届け、大きな拍手の中、3人はステージを去った。その後、花澤が「…夜空に流れ星を降らせて、君に奇跡を見せてあげよう。たとえ明日が来ないとしても、俺は君のことを、明日も愛している」と詩的な美しい言葉を朗読したのを最後に、第一部は終了。約1時間ノンストップで、楽曲と朗読、映像や文字によって物語空間を立ち上げる、独創的なライヴだった。

ほどなくして白Tシャツ姿で再登場した3人。杉本は「今日は皆来てくれてどうもありがとう!」と感謝を述べ、「『流星コーリング』は自分たちにとって新しいチャレンジになった作品。河邉が小説を書いたから、このライヴも、アルバムもできたと言っても過言ではない。どうですかね、先生?」と笑った。河邉は「うれしいです、ありがとうございます!」と応じ、「いろんなことが便利になって来ている時代で、音楽なんてすごく気軽に聴けるから、物語があって、その上で音楽があって…というのは遠回りなことなのかもしれないな、と思う時もあるんです。でも、これが今僕たちの伝えたいことだし、僕たち3人の力、『これをしたいな』ということを集めたのものが『流星コーリング』ですし、今日のこのライヴ。皆さんに楽しんで受け取ってもらえるとうれしいな、と思います」と熱く語った。杉本はバンドロゴをリニューアルしたことを告げ、Eの文字が3人を示す3色になっていることも解説。様々なコラボレーションによって新たな色が生まれることを期待し、WEAVERの輪を広げていきたい、と意気込む。「小説と一緒に(音楽を)つくることもコラボだし、朗読音楽会(3月16日に開催。小説『流星コーリング』の朗読とWEAVERの生演奏によるステージ)では声優さんの方々と繋がって。今回の映像も、年末のイベントで出会った大阪芸術大学のアートサイエンス学科の学生さんがつくってくださり、素敵な演出ができました」と既にWEAVERの輪が広がり始めていることを明かした。奥野は、「ツアー自体が実に1年半ぶり、しかも今日がファイナルということで、皆も待ちに待って来てくれてると思うし、汗掻く準備万端できっと来てるはず。後半戦はライヴハウスならではの楽しい空間にしていきたいなと思ってますので、最後までよろしくお願いします!」と語り掛けた。

ロゴの色分けと連動して、奥野が赤紫、杉本がブルー、河邉がライトグリーンの光で照らされると、心底楽し気に3人はセッションし、躍動感溢れる「だから僕は僕を手放す」へ突入。奥野は前へ歩み出てジャンプし、観客を先導していく。杉本がハンドマイクを握りピアノから離れ、「まだまだいけますか、東京? 皆の最高の声を今日、聴かせてください!」と呼び掛けると、「Free will」のコール&レスポンスでフロアとのコミュニケーションを図り、熱と一体感を高めていく。杉本の歌声は生々しさを増し、拳を握って胸に当てるなど、全身で歌を表現。奥野もステージ端でしゃがみ込み、観客の間近でプレイ。河邉も椅子の上に立ち、その姿には大きなどよめきが起きていた。

河邉が次曲へ向けドラムロールを鳴らし続ける中、杉本は「もっと聴かせてよ!」と観客の声を求め続け、「まだまだ踊り足りてないんじゃない? 東京!」とシャウト。「べぇ(河邉)がとうとうつらくなる…(笑)。『Shall we dance』!」と長く引っ張ってようやくコール。歌も演奏も型にハマらない自由さがありながら、3人の呼吸はピッタリ。リズムやテンポが変動し、怒涛の展開を見せる間奏パートには、デビュー10周年に向かう3人の演奏家としての進化を感じた。「くちづけDiamond」もキャッチーな入り口を持ちながら、複雑な演奏をやすやすとこなす高い技量に、彼らがライヴバンドであることを改めて思い知った1曲。ラストの「カーテンコール」は圧巻だった。杉本のピアノの優雅なフレーズ、ドラマティックな美しいメロディー、凛として澄み渡った歌声。奥野の、低音部をしっかりと支えつつ歌心も遊び心もある稀有なベースライン、生み出す小気味よいグルーヴ。河邉の一打一打が明確で歯切れの良いドラム、心で願うことの大切さとその魔法の力を描けば説得力随一の歌詞。彼らの魅力が最大限に発揮されたこの特別な曲を届けて、深い感動の中、本編を締め括った。

すぐにアンコールを求める手拍子が起き、黒いツアーTシャツに着替えた3人が大歓声の中登場。杉本は「ファイナル、最高でした! 自分たち2018年は制作の年にしてツアーしないって決めたわけなんですけど、ツアーがしたくてしたくてたまらんかったから、ほんまにうれしいです、どうもありがとう!」と熱弁。「10月21日には、デビュー日ということで、10周年を迎えます。10周年を記念しつつ、『流星コーリング』というストーリーをちゃんと完結させたいな、という想いがあって、10月22日に地元・神戸国際会館にて10周年記念ライヴを行うことが決定しました!」と改めて告知、大拍手が起きた。「2018年は、自分たちができることは全部しよう、思いつくことに全部チャレンジしようと、〝WEAVING ROOM″(2018年4月から開催していた実験的マンスリーライヴ)をやってみたり、それぞれの活動もしてきました。僕だったらミュージカルの曲を書いたり、おっくん(奥野)だったらさや姉(山本彩)のサポートをしたり、べぇちゃんは小説を書いて…応援してくれてる皆の中には、きっと『個人活動はいいからツアーやってほしいなぁ』という想いを持ってた人もいると思うんですけど…でも僕たちはやっぱり、そのまま前に進むわけにはいかなかったので。そこでもう一度、自分自身の得意なもの、チャレンジしたいことをする中で、WEAVERに新しい風を吹かせることができたらいいな、という想いでやっていました。そんな1年があったから、この『流星コーリング』がようやく完成できたと思う」と、ここまでの歩みを振り返る。「10周年をちゃんと乗り越えて、15年、20年続けて行くなかで、きっとこの作品ができていなかったら上手くは進めなかったんだろうな、と。そのぐらい3人にとって本当に大切で、3人の気持ちを一つにしてくれた作品です。だからぜひこの作品をもっともっとみんなに届けていきたい。7月、10月と全然違うものを皆に届けていけたらなと思っているので、会いに来てくれたらうれしいです。どうかよろしくお願いします!」と力強く語った。

奥野は〝流星コーリングプロジェクト″というチャレンジに至った発端に言及。「1年ちょっと前ぐらいに、デビュー10周年を迎えるにあたって、『これから3人で音楽を続けていくためには絶対に今のままではダメだと』感じていて。3人でご飯を食べに行って、今自分たちがやっている音楽について、『本当はどういうことをしたいの?』とか、腹を割って話す機会があったんですけども。そこでやっぱり、WEAVERの良さは河邉徹のつくる歌詞の世界観、物語性だったりとか、ピアノがきらりと光る杉本のメロディーの素敵な曲だったりとか…3人のトライアングルが一番の魅力なんじゃないの?と。3人ともそこはブレずに、デビュー当時からずっと思っていて。いろんな挑戦をしてきたけど、そこに立ち返って3人で力を合わせてやっていこうよ、という話からプロジェクトが始まっていきました。メンバーに小説を書ける人がいるというバンドってなかなかないと思うし、小説があるからこそ音楽が2倍にも3倍にも良くなっていく。逆に音楽があるからこそ小説がもっと奥深くなっていったりする。そういうことがバンドの中で生み出せるのはWEAVERにしかない武器だな、とすごく感じていて。この10年間いろいろ迷い続けてきた中で、やっとWEAVERにしかない最強の武器を手に入れられた。皆を待たせた分、すごく想いを込めてこの作品をつくってきて、今日やっとこういう形で皆に満を持して世界を見せることができて、本当にうれしいです。ここから10周年のデビュー日に向けて、この流星コーリングプロジェクトをもっともっと盛り上げていくので、是非とも目を離さないで追い続けてほしいなと思います、これからもよろしくお願いします。ありがとうございました!」と彼らしい理路整然とした、熱のこもった言葉を届けた。

起点となる小説を生み出した河邉は、「僕が『流星コーリング』という小説を書いて、今回のツアーでは、声優の花澤香菜さん、角田雄二郎さんに声を録音していただき、それを流して世界観をつくったり、後ろの映像や文字が出てきたり…そういう様々なクリエイティヴなスタッフの皆さんのお陰でライヴが完成していて。自分が書いた物語を元に〝こんなことになるんだ!″と、僕自身もすごくうれしかったです。でも何より、自分の書いた物語を読んでくれて、さらにそこに音楽をつくってくれたメンバーがいて…世界中本当にたくさん小説家がいると思うんですけど、こんなメンバーがいる小説家なんていないと思うので、僕はきっと世界で一番幸せな小説家なんだろうな、と思います」と感慨深そうに述べる。「僕は『流星コーリング』という作品を通じて皆さんに伝えたかったメッセージがあって。生きていく中で、幸せや喜びだけではなくて、どうしても痛みとか哀しみというものが訪れてしまって。でも、僕たちはその両方を抱いて、それでも前に進むことができるんじゃないかな?というメッセージを、この小説、この音楽を通じて伝えたかったんです。先ほど文字でも出てきていたように、〝悲しみを胸に秘めて、それでも私たちは明日へ進むことができる″と登場人物が言っていて、そういうメッセージを以ってして、僕は皆さんがこれからも生きていくそういう人生を肯定したいし。今日は僕たちから皆さんにそういうメッセージを届けましたけれど、これからもっと遠くへ遠くへ、皆さんからもっと遠くへこうしたメッセージが広まっていけばいいな、と僕は思っています。まだ『流星コーリング』のアルバムの中で、たった1曲だけ、今日演奏していない曲があります。すごく大切な曲です。最後にその曲を聴いてください。『Iwould die for you』」とタイトルコールで結んだ。三者三様、語りたいことを予め明確に定めていたことが分かり、〝届けたい″というブレない意志が伝わってくる、堂々としたMCだった。明るい光を湛えたピアノイントロ。1コーラス目は杉本のピアノと歌のみで、やがて3人の音を優しく重ねながら、心に沁みわたるような音楽を届けていく。恋人同士のラヴソングとしてだけでなく、普遍的な愛を描き、限りある命を生きる私たちすべての人生を祝福する賛歌に聞こえた。

披露し終えると前へ出て、マイクを通さず「ありがとうございました!」と声を揃え、深く長い礼をした3人。「『I’m Calling You~流星ループ~』で会いましょう!」と7月のツアーでの再会を誓うメッセージと、3人の署名が手書き文字でスクリーンに映し出され、約2時間のライヴは終幕。10周年という節目を迎える2019年のWEAVERは、長い試行錯誤と迷いの旅路を経て、〝自分たちにしかできない″と誇れる強みをついに手に入れた。メンバー自身が生み出した小説と、それを起点に生み出した音楽の世界とを行き来して、更に大きな物語を受け手の心の中に描き出す完全にオリジナルな試みは、「もっと観たい、聴きたい」と思わせる、全く新しい体験だった。7月の全国15か所を巡るライヴハウスツアー、10月22日の郷里・神戸国際会館での10周年記念ライヴでは一体、どんな景色を見せてくれるのだろうか?

取材・文/大前多恵
カメラマンクレジット:Yuto Fukada

 

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