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森山直太朗、15thアニバーサリーツアー『絶対、大丈夫』千秋楽大成功で幕を閉じる!

July 31, 2017 19:10

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森山直太朗、15thアニバーサリーツアー『絶対、大丈夫』千秋楽大成功で幕を閉じる!

開演から2時間半。アンコールで新曲「絶対、大丈夫」を演奏した後のことだ。バンドメンバーを手招きした森山は、横一列にステージに並んでこう言った。「僕たちは……旅立ちます!」。大きな拍手と声援を浴びながら一礼する彼ら。そして、半年も続いたツアーの終わりを、彼はこんなひと言で締めくくったのだった。

「土曜6時は~? ぜった~い、ダイジョウブ!」。メジャーデビュー15周年を記念して行われたアニバーサリーツアー「絶対、大丈夫」、その千秋楽となるNHKホール。会場はもちろん満員御礼である。いつもそうだが森山のコンサートは客層が広い。ツアー先を巡るコアなファンもいればコンサートが初めてといった様子のビギナーから家族連れまで多彩な客層が賑わっている。つまり万人を楽しませ、満足させる催しであることが彼のライヴには求められている。

開演時刻。場内が暗転すると、15年の道のりを振り返る彼の写真をコラージュした映像がフラッシュバックし、次第にそれは星が煌く映像へと変わっていく。そこへピンスポで浮かび上がった森山の姿が。スクリーンごしに彼が歌うのは、半年間の「小休止」を経て生まれたアルバム「嗚呼」からの同名曲。その歌声は幻想的な映像と相まってシリアスで厳かな印象を受ける。続く「魂、それはあいつからの贈り物」では幕が上がり、それと同時に総勢7名によるバンドメンバーとのセッションが繰り広げられる。ステージを静から動へと導く見事なパフォーマンスだ。そして「うん、どうもありがとう」というひと言を挟んで、次の曲「夕暮れの代弁者」へ。舞台後方の階段を駆け上り、ひな壇上のステージでステップを踏む森山。その動きは昔懐かしい歌謡ショーを彷彿とさせる芝居がかったものだ。さらにステージにひざまづいたまま激しくブルースハープを吹いてみせる。そして最初のMC。

「最初からちょっと飛ばしすぎて息の方切れておりまして、ゲロの方吐きそうですけれども……絶対、大丈夫!」。このように、ツアータイトル「絶対、大丈夫」が、コンサート全編にわたって号令のように何度も発せられる。さらにそれは冒頭に触れたように「ぜった~い?」「ダイジョウブ~!」という森山とお客さんによるコール&レスポンスとして繰り返されるのだ。どこか昭和のバラエティ番組を思わせるこのやりとりは、シリアスとシュールを行き来するジェットコースター的な森山の音楽を乗りこなすおまじないのようなものとして機能する。腹を抱えて笑う時もあれば、背筋を張って直立不動で聴き入ってしまう時もある。いろんな感情を振り子のように激しく往来させるのが、森山のコンサートの醍醐味であり真骨頂なのだ。
続いては森山とバンドメンバーの秀逸なアンサンブルが堪能できるブロックだ。ライヴでは定番の「太陽」やバンドメンバーのコーラスが美しい「風花」、そしてバンジョーやフィドルで「フォークは僕に優しく語りかけてくる友達」と、どの演奏にも半年間に渡るツアーが培ったメンバーとの信頼関係が伝わってくる。再びMCを挟んでからの「夏の終わり」では、全身で響かせて歌うファルセットの鋭さに驚かされた。それは無垢な才能とアスリートのような鍛錬の賜物であり、一般人はおろかミュージシャンという肩書を持った者でも到達できない神秘の領域であると思わされるものだ。しかしそんな感動をユーモアに変えてしまうのが、続く「うんこ」。バイオリンとビオラ、そしてハモンドオルガンが奏でる壮大な音像、そして歌は「うんこを聴いてもらいました」というひと言で締めくくられ、客席は大爆笑。音楽そのものから受ける感動と、それを“あえて”台無しにするようなユーモアのキャッチボール。さらに「どうしてそのシャツ選んだの」は、ユーモアを越えた虚無の領域に達していた。あえてそこに手を伸ばすことによって得られる音楽の力というものがあるのだ。そして3回目のMCを経て最新アルバム「嗚呼」から2曲続けて「とは」と「金色の空」が披露される。「金色の空」は小休止期間、山小屋にこもっていて最初にできた曲。穏やかで平坦でどこにも振り切っていない曲だが、まるで自分自身を労わるように、自分に向けて歌っているようでもあった。

15年の軌跡と題したインタビューを装った髪型変遷オモシロ映像を経て、ライヴは後半戦へ。アフロのカツラに銀ラメの衣装をまとって歌う「星屑のセレナーデ」は、もはや原曲とはかけ離れたド派手なディスコアレンジ。「よく虫が死んでいる」は「ライブの途中でいきなりタオルを回すなんてバカみたいだけど一度やってみたくて、虫を退治するということにすれば恥ずかしくないと思って」という言い訳つき。そして「坂の途中の病院」を早口でまくしたてたテンションのまま「今が人生」へとなだれ込む。このままライヴが終わってしまうかと思うほどの異様な盛り上がり。しかしライヴはまだ続く。「活動の節目となった曲をいくつか」という前置きで披露されたのは、「君は五番目の季節」「どこもかしこも駐車場」そして「さくら(独唱)」だった。

naotaro2017073103.jpgどれも確かに彼にとっては節目となる曲だ。「君は五番目の季節」は、その「さくら」の大ヒットを受けて悩んでいた彼が新しい季節に向かって歩き始めた曲だ。「どこもかしこも駐車場」は、シーンのど真ん中に立ち続けてきた彼のポップスに対する新しい挑戦でもあった。「さくら」の人、というパブリックイメージに抗ったり背を向けたりしながらも、彼は常にポップスと戦い続けてきたのだ。その歩みを自分自身で振り返り、噛みしめるような思いで彼は歌っているようだった。

アンコール。「12月」を昨年リリースしたベストアルバム「大傑作撰」に収録された新アレンジバージョンで歌った後、ハイタッチでバンドメンバーを迎え入れる。そして「実は、このツアーで一度たりとも『絶対、大丈夫』と思えたことはなくて」という本音で会場の笑いをとってから新曲「絶対、大丈夫」が披露された。音楽家としてサラブレッドの血筋と才能に恵まれた男。日本のポップスを代表するシンガーソングライターであるだけでなく、サービス精神旺盛なエンターテイナーでもある。それでも彼はずっと居所のなさのようなものを抱えながら、自分が本当に歌いたいことを探しながら走り続けてきた。不安や葛藤は多かったに違いない。なかなか曲が書けない時期もあった。「絶対、大丈夫」と誰かに言ってもらいたかったことは幾度もあっただろう。公演中、彼はこの掛け声をなんども叫んでいた。もちろんそれはシリアスとコミカルが交差するステージの、単なるコミュニケーションツールだったかもしれない。なんたってラストが「土曜6時は~? ぜった~い!」「ダイジョウブ!」である。しかし、彼は、その言葉を誰かにずっと言ってもらいたいと思いながらここまで来たのではないか。「森山くん、キミはそのままで大丈夫だよ」と。そして彼自身、15年のキャリアを総括することで、こう思いたかったのではないか。「俺は、これからも、絶対、大丈夫」だと。そんな思いを引き寄せるためのアニバーサリーツアーだったのだろうか。予定になかったダブルアンコールでみたびステージに表れ彼が歌った「花」は、そんな自分のことを見守ってくれきたファンに対する感謝の気持ちに溢れていた。森山直太朗のアニバーサリーイヤーはまだ続く。

naotaro2017073102.jpgtext by 樋口靖幸(音楽と人)
カメラマンクレジット:植本一子



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http://naotaro.com/

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