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沖ちづる&南壽あさ子、"ほかにいない"2人の女性シンガーソングライターが出会った夜

October 24, 2016 17:30

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沖ちづる&南壽あさ子、"ほかにいない"2人の女性シンガーソングライターが出会った夜

10月21日、「SONGS OF YESTERDAY」と冠されたイベントで注目の女性シンガーソングライター2人のツーマンライブが実現した。

ひとりは13歳の頃の心情を綴った「二十歳のあなたへ」が、じわじわと評判を呼んでいる沖ちづる。若干、二十歳。シンガーソングライターシーンにみずみずしい風を吹き込んでいる新星だ。

もうひとりは、2013年のメジャーデビュー以来、透明感のある歌声と、シンプルで美しい楽曲で、ますます支持を広げている南壽あさ子。9月28日には、ヤマハミュージックコミュニケーションズ移籍第一弾シングルとなる「flora」をリリースしたばかりだ。フロアは満員。存在感抜群の歌声を持つ2人が登場した今宵、どのようなステージが繰り広げられたのだろうか。


■ 沖ちづる ~夢を追うことの決意と痛み~

161021_yk_0887.jpgまず、沖ちづるが登場。少し伸びた黒髪をおろし、白いドット(水玉)模様が入った黒いミニのワンピースをまとっている。ハーモニカーホルダーをセットし、静かにひと息つく。フロアはピンとした緊張感に包まれていく。

ステージは「旅立ち」でスタート。孤独のなか“歌い手として生きていく”という夢を抱いた自分の歩みになぞらえながら、夢を追い続け、旅を続ける人々の心を後押しするドラマチックなナンバーだ。続いては一転、朝の新鮮な空気、森の木々の爽やかさが匂いたつ「朝の光」。牧歌的で優しいメロディラインを奏で、フロアの空気を和ませる。

挨拶代わりの2曲を終えた沖ちづるが言う。「念願かなって南壽あさ子さんとのツーマンライブが実現しました。今晩は楽しんでいってください」

亡くなったクラスメイトに、“僕と君はただのクラスメイト。みんな大人になったよ”と、絶妙にリアルな距離感で語りかける「クラスメイト」。身近な人々、街の風景、景色を巧みに物語にしてく沖ちづるの持ち味が生きた群像劇「下北沢」。沖ちづるも出演する映画『くも漫』(2017年1月全国公開予定)の主題歌「誰も知らない」が立て続けに歌われる。叙情に満ちた表現力でじわじわと歌の世界観に観客を引き込み、会場の拍手はだんだん大きなものとなっていった。

この夜の沖ちづるは、時に楽曲のテンポをやや落としながら、観客ひとりひとりに語りかけるように歌っていた。魔法がかった吸引力を持つ声で。

“僕”“友人”“父親”という3人の登場人物を軸に、夢を追うことの痛みと決意を歌った「僕は今」、13歳の頃の沖ちづるが二十歳の自分に向けて綴った手紙をモチーフにした「二十歳のあなたへ」をもって、凛としたステージは幕を閉じた。

沖ちづるはひとり芝居と歌からなる「歌語り」というスタイルのステージに挑戦をしているが、二十歳最後の夜にあたる11月25日に「歌語り」の再演として、「二十歳のあなたへ 二十歳と365日」が行うことが、この夜、発表された。


■ 南壽あさ子 ~魔法がかった透明感~

161021_yk_0940.jpg少しの休憩を挟み、白い半袖のワンピースをまとった南壽あさ子が登場。透明感のある歌声が魅力の南壽あさ子だが、全身から醸す雰囲気そのものが透明感にあふれている。同時に、背筋の伸びたりりしい佇まいを感じさせる。

「歌を聴くと、過去にその歌を聴いたときの気持ち、匂い、風景が思い起こされます。今晩は「SONGS OF YESTERDAY」というイベント。過去を回想させる曲を中心にお届けします」

ノスタルジーをあたたかく喚起するのも、南壽あさ子の魅力のひとつ。“昨日の歌”というイベントタイトルにふさわしいアーティストだ。

エレピの音色がキラキラと響き、ステージは「回遊魚の原風景」で始まった。海を舞台にした寓話性の高い“僕と君”の物語で、さっそく観客を歌の世界観に引き込んでいく。続いて、リズミカルに跳ねるイントロに乗って、同じく海を舞台にした「八月のモス・グリーン」に。“水平線”“砂”“島”“月”というワードが巧みに織り込まれ、受け手のイマジネーションを刺激する。

3曲目は「冬になると歌いたくなる歌」と紹介してから「冬の旅人」へ。混じりっ気のない“純”な冬の空気のなか、凛とした冬の空の下を歩く“僕と君の旅”が描かれていて、とてもドラマチック。そして、「10月に生まれた歌」という「みるいろの星」が披露された。

ここからは「心が帰る場所、おうちシリーズ」(MCより)。CMソングとしてたびたび耳にしたことがあるだろう「積水ハウスの歌」(積水ハウス)、「エネルギーのうた」(東京ガス)が続けて歌われる。自分の帰りを暖かく迎えてくれる家庭の優しさ、安心感、安堵感を表現するのに、南壽あさ子の“懐かしくて暖かい”声はうってつけ。“懐かしくて暖かい”はありきたりな言葉だが、体現するのは難しい。南壽あさ子の声も魔法がかっている。

幸せな空気がフロアを包むなか、インディーズ時代から大切に歌ってきた「フランネル」、ニューシングルの「flora」を歌ってステージは幕を閉じた。MCで南壽あさ子は「flora」を、「平和を願って旅立つ歌」「悲しいことがあった時に希望になる歌」だと言った。華やかさのなかに、せつなくも力強い思いを込め、歌いきった。


■ アンコール ~“選ばれた歌声”のデュエット~

大きな手拍子のなか、南壽あさ子が再びステージへ。「星のもぐる海」で観客の期待に応える。そして、南壽あさ子が沖ちづるを呼び込む。アコースティックギターを抱えた沖ちづるが登場。2人が出会ったときのエピソードを語る。

2人がデュエットしたのは荒井由実(ユーミン)の「翳りゆく部屋」。沖ちづるがいくつか候補曲を挙げ、南壽あさ子がそこから決めたのが「翳りゆく部屋」だったという。

南壽あさ子が弾くピアノのイントロに乗せて、沖ちづるが歌い始める。ハスキーでウィスパーな沖ちづるの歌声と、伸びやかで清涼感いっぱいの南壽あさ子の歌声。タイプは違えども、ともに“選ばれし声”の持ち主だ。

際立った存在感のある2人が交互にパートを歌い合う様には、お約束ではない緊張感があり、スリリング。2人のツーマンライブの締めくくりにふさわしい凛としたデュエットだった。


文 / 山本貴政
写真 / 木村泰之



■ セットリスト
SONGS OF YESTERDAY

□ 沖ちづる
01. 旅立ち
02. 朝の光
03. クラスメイト
04. 下北沢
05. 誰も知らない
06. 僕は今
07. 二十歳のあなたへ

□ 南壽あさ子
01. 回遊魚の原風景
02. 八月のモス・グリーン
03. 冬の旅人
04. みるいろの星
05. 積水ハウスの歌
06. エネルギーのうた
07. フランネル
08. flora

□ アンコール
01. 星のもぐる海(南壽あさ子)
02. 翳りゆく部屋(南壽あさ子/沖ちづる、カバー)

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