つるうちはな、メジャーデビューアルバム『サルベージ』インタビュー
October 22, 2019 11:00
つるうちはな
ー 先程のご友人の話もそうですが、つるうちさんの歌が綺麗ごとに聴こえない理由も分かってきました。それと、この「おまじないを君に」のミュージックビデオ(以下:MV)も良いですよね。食べ物をひとつのキーワードにおいて、色々な女性の日々を映し出している。健全な気持ちになれて、実は何度も観ています。
嬉しい!本望です!
ー ああいうアイデアは森岡千織監督と一緒に考えるんですか?
森岡さんは天才なので、一緒にというか…。打ち合わせで私の曲を聴いた瞬間「この曲の場合はこういうイメージで、こんな流れが良いと思うんですよね。」って大体のイメージが出てくるんですよ。とにかく瞬発力のある人!だから森岡さんが思いついたことを具現化してもらい、私はほんのちょっとアイデアを出すくらいです。
ー 早速脱線してしまうんですが(笑)、食べ物と言えば、「こてんぱん食堂」が好きで。
え、見てくださってるんですか?!Instagramで?
ー いや、「花とポップス」のコラムの方で。
しばらく更新出来ていなくて申し訳ありません!
ー いえいえ(笑)。個人的にはアジアの秘宝パスタと、かぶおろし鍋が特に美味しそうと思って見ていました。
アジアの秘宝パスタはマジで美味しいです!色々な国のスパイスを入れるんですが、偶然発見したから慌ててメモを取って、あのあと何度も作っています。
ー 色々な人に振る舞うことも多いようですね。
よく人が来る家です。MVの撮影や打ち合わせ…レーベルスタッフもうちに来てご飯を食べています。ちゃんとお腹を空かせて来てくれるから嬉しいんです!
ー うわ、楽しそう。これは勝手なイメージですが、つるうちさんにとってご飯を作ることも音楽を作ることも同一線上にある気がしていて。
すべてにおいて意識的ではないんです。好きなことや、やりたいことをしているだけなので、そういう意味ではおっしゃる通りかもしれません。全部がひとつ。プライベートも仕事も、ご飯を作ることも音楽を作ることもライヴをすることも誰かと会うことも分けていなくて、何もかもが全部ひとつの世界にある。食事も、音楽で目の前の人をめちゃくちゃ喜ばせたいって思うのと同じです。例えば今日うちにご飯を食べに来るあの人(目の前のスタッフ達に)は椎茸が嫌いだから椎茸は抜いて、あの人は胃が弱いから脂っこいものは避けて、あの人は何でも食べるから大丈夫とか。
ー お母さんみたい!
そう、まさにお母さん(笑)。献立を考えて「さぁどうぞ!」って出したものを喜んで食べてくれた時「嬉しい!やったー!」って思うじゃないですか。
ー 思います!思います!
音楽も同じで、相手が喜んでくれたら私も「嬉しい!生きてて良かった。イエーイ!」ってなる。とにかく人に喜んでもらいたい。それは幼少期から同じで、親族が来たらどんな面白いことを言って笑わせようか考えている子供でしたからね(笑)。
ー 宴会子供部長みたい(笑)。
アハハハ!
ー ご飯と言えば「宇宙の神秘女の子」のMVに出てくるご飯は、つるうちさんが作ったんじゃないですか?ランチョンマットがご自宅で使われているものと同じだし、お味噌汁を見た時にそう思いました。
きゃー、バレてる!実はそうなんです。
ー 主演の出雲にっきさん(avandoned)が本棚にある寺山修司の『家出のすすめ』を手に取った時、昔からのファンの方は、“はなちん”時代のユニット「家出ノススメ」を思い出したのでは?
うわ、なんでそんなことまで!実はあのシーンにはエピソードがあって、にっきちゃんが本棚の本を見回して、一番最初に手に取ったのがあの本だったんです。彼女も現代文学などを読み込んでいる子で『家出のすすめ』も好きだったらしく「私も昔、“家出ノススメ”っていうユニットをやっていたんだよ。」っていう話になって、それならっていうことであのシーンが生まれたんです。
ー じゃあ偶然?
そうなんです!だから今この話をされて驚きました!
ー この曲は「パッ」とか、「ワッ」とかの印象的な擬音やサウンドのポップさとは裏腹に、いわゆる女の子の“月のもの”がモチーフのひとつになっていたり、せめぎ合うような感情の両極を書いていたりと、妙にリアルなのに面白いタイプの曲だなと思いました。
この曲は私なりの#MeToo(運動)へのアンサーソングなんです。街で偶然トラブルを見かけたことがきっかけで出来た曲なんですが、今、時代の流れとしても女性が、“さぁここから戦うぞ”という意思を見せ始めたと思うんです。「#MeToo」があれだけ全世界に広まったのも、それだけ多くの人が必要としていた証拠なんじゃないかな。女性って今までも色々なことを我慢していたけど、もう我慢しなくても良い時代に入ったと私は考えているし。そうやって時代の変わり目に来ているから、女性が我慢する、言いたいことを言えない、犠牲になる。そんな旧世界に取り残されないで欲しいと思って。一方で、男性に何とかしてもらえる、自分では決めたくないと考えている女性側の責任もある気がするし、そういうのも古いと思う。この曲の歌詞で「意地悪に慣れちゃダメなんだ 愛を取り戻せ」という部分があるんですが、人って意地悪に慣れてしまうと、こういうものなんだと考えるようになるんですよね。嫉妬や卑屈な考えも同じ。「女ってこういうものなんだ」ってよく言うけど、そんな形骸化された鎧を全部脱ぎ捨てて、誰のせいにもしなければ自分がどうしたいかの願望を叶えにいくことは出来るから、“旧世界から抜け出してその先に行こうよ!”という気持ちを込めました。
ー なるほど。アルバムのことからは離れますが、つるうちさんはどんな音楽に影響を受けたんでしょうか? 勝手な印象として矢野顕子さんの影響は感じましたが。
矢野顕子さんは完全に弾き語りのルーツなので、かなり影響を受けています。あと小さい頃からクラシックピアノを習っていたので、クラシックの影響も根深くあるし、矢野さんから派生して教授(坂本龍一)やシュガー・ベイブ、あと小学生の頃はよく小沢健二さんも聴いていましたね。ざっくり言うと上質な日本人のポップスがあってからの、ナンバーガールやSonic Youth、Dinosaur Jr.など、音楽の世界がオルタナまで広がって、最終的にポール・マッカートニーがやっぱり凄いとなり、ここ10年で一番聴いているのはN.E.R.DとBill Evans!もうめちゃくちゃでしょ(笑)。
ー 確かに(笑)。
特にナンバーガールはかなり好きで、レアな音源も持っているし、ライヴにはめちゃくちゃ通いました。
ー 多岐にわたる音楽遍歴に驚きましたが、面白いです!
ただ私が音楽を選ぶ時の共通項がひとつだけあって。それがコードなんです。コードが好きかどうか。小学校の頃、Pat Methenyも大好きだったんですが、彼も矢野さんも教授も全部分数コードですごく複雑な音階の詰め方をする人たちなんです。特殊な音を重ねていくというか。だから多分私は和音、ハーモニー、和声が好きなんだと思います。実はN.E.R.Dもナンバーガールもコードが綺麗なんですよ。コードが綺麗なものは綺麗だし、パワーポップでもコードワークにこだわっている人達は意外と多いんです。だからコード展開が単純なものだと、どんなジャンルでもつまらなく感じちゃって聴けないんです。
ー そこなんですね。ポイントは。
実はそうです。だから私の音楽を好きな人の中にはコード好きも一定数いて、コード展開や転調の仕方に着目するんです。「このコードにこのメロディをあてるんだ」って言う音楽オタクの人たち。私はこういうキャラだし、メッセージを前面に出した歌詞を書くからなかなかバレないんですけど、実は「音楽そのもの」が大好きです。
ー 良いですね!フィールドはメジャーになりましたが、つるうちさんが今後、音楽を通じて表現したいこと、伝えたいことは何でしょうか?
表現をしたいというよりは、少しでも人が生きやすくなったら良いなと思って。自分の何かを分かってもらいたくてやっているというよりは、沢山の人と共有したい。だから表現というよりは分かち合いたい。分かち合って一緒に生き抜こう、生き延びようという気持ちです。一曲で1人でも2人でも良いから、それぞれの人生を最後までより楽しんで頂きたいです。
ー では最後にポップシーン読者のみなさんへ一言お願いします。
つるうちはなの『サルベージ』というアルバムは、老若男女の心の奥の奥の奥の奥……お腹の底くらいまで届く可能性がある作品だと思っています。1曲でも引っかかるものがあるかもしれないので、是非アルバムを全曲聴いてもらえたら嬉しいです。
ー ありがとうございました!
インタビュー / 秋山雅美(@ps_masayan)
■ つるうちはな オフィシャルサイト
https://tsuruuchihana.hanatopops.com/
■ つるうちはな 公式Twitter
https://twitter.com/hanatsuruuchi
■ 日本コロムビアアーティストサイト
https://columbia.jp/tsuruuchihana/
Information
つるうちはな×新宿マーブル企画「愛の反逆 2019」
2019/11/09(土)新宿マーブル
開場11:45 / 開演12:00
出演:つるうちはな(Band set)、シュノーケル
料金:adv ¥2,500 door ¥2,800+1D
メジャーデビューアルバム「サルベージ」発売記念ミニライブ&サイン会
2019/11/15(金)18:00〜
タワーレコード京都店
詳細:https://columbia.jp/artist-info/tsuruuchihana/live/68026.html
『サルベージ』リリース記念ワンマン
2019/12/15(日)新宿 Live House Marble
Open 18:00 Start 18:30
チケット 購入ページ:https://eplus.jp/sf/detail/3085260001-P0030001
Release
デビューアルバム
「サルベージ」
2019年10月23日発売
-収録曲-
1. 新次元ガール
2. おまじないを君に
3. apple in my eyes
4. タイムライン
5. あの子の裸を見たくない
6. tears for dear
7. 天国
8. 花
9. 宇宙の神秘女の子
10. ぶっちぎって光 -サルベージ ver.-
11. ハレルヤ -新約 ver.-
12. やさしい魔神